ep14: 渡り鳥たちの祭り
ハロルが空の島に戻った時、島全体がそわそわと落ち着かない空気に包まれていた。あちこちから声が飛び交い、足早に行き交う影が広場を横切っていく。
「準備したお菓子、これで足りるかしら」
「テントはここと、こっちに設置して!」
「楽団の皆さんが到着されました!」
郵便局も通常業務どころではない様子だ。
今日は年に一度のお祭りの前日。島じゅうが浮かれた空気に満ちていた。
ハロルは遠目にそれを眺めただけで、郵便局には立ち寄らず、そのまま家へ帰った。
いつもの窓際のカウチに腰を下ろし、ハロルは手帳を開いた。
今回の配達で起きた出来事を、ぽつぽつと書き留めていく。
『手紙と噴煙』
『冬の嵐』
ページを見下ろしながら、ジェロの言葉を思い出す。
「今回は難所だぞ」──たしかに、そうだった。
「まぁ、確かに大変だったなぁ」
ぽつりとこぼした声は、静かな部屋にだけ響いた。
*
久々の自宅のベッドは、体の芯までほぐすように柔らかかった。
そうだった──と思い出すほど、今回の配達は過酷だったのだ。
気がつけば、深い眠りに落ちていた。
朝、窓から差し込む光とともに、陽気な音楽が風に乗って流れ込んでくる。
「ああ、そうか。祭りだ」
布団にくるまりながら、ハロルは今、自宅にいることをあらためて実感した。
*
島の中心にある広場へ向かうと、音楽隊の演奏と屋台のざわめきが迎えてくれた。
焼き栗、焼きとうもろこし、りんご飴、わたあめ──
湯気や甘い香りの合間に、串に刺した魚の塩焼きという変わり種の屋台も並んでいる。
「やあ、ハロル。遅いお出ましだね」
振り返れば、赤い髪の青年ニールが笑っていた。
「ずいぶん久しぶりだな、ニール」
「君こそ、何か月ぶりだ?」
「ああ、昨日戻ったんだ」
「てっきり天界に戻されたのかと思ったよ、ハロル」
「それは勘弁してほしいな」
「ははは、同感だ」
「ニールさん、ハロルさん!」
広場から少し離れた庭園から、おしゃれなスーツ姿のエリオットが紅茶ポットを手に呼びかけてきた。
「紅茶はいかがです?」
「ああ、いただこう」
「いいね」
ハロルとニールは、エリオットの紅茶サロンへ吸い込まれていった。
*
祭りの喧騒から離れ、ハロルはひとり、島の東の丘へ来ていた。
離着陸が苦手な鳥たちが使う、広々とした草原の丘だ。
祭りの日とあって、今はほとんど人影がなく、独り占めできるはずだった。
……はずなのに、小さな子どもが二人、笑い声をあげながら走り回っている。
「あんな子ども、いたかな」
ふと疑問に思ったが、社交的でない自分が知らないだけかもしれない
──そう結論づける。
人混みは苦手だが、祭りそのものは嫌いじゃない。
ここで、のんびりと楽しませてもらおう――。
ハロルは草原にごろりと寝転び、青空を仰いだ。
「次の配達先は少々あれじゃが、うまくやってくれ」
ジェロの言葉が耳に残っている。
遠くから届く祭りの音楽に耳を澄ませながら、ハロルはそっと目を閉じた。




