ep12: 手紙と噴煙
灰色の噴煙が、いくつもの建物の隙間から立ちのぼっていた。
地面はところどころえぐれ、瓦礫が道を塞いでいる。
焼け焦げた車の残骸。歪んだ電柱。窓ガラスの砕けた集合住宅。
その上空を、一羽の白い鳥が静かに滑空していた。
爆発音とサイレンが交互に鳴り響き、遠くでは銃声のような破裂音も聞こえる。
やがて、小型の飛行物体が数機やって来て、爆弾を落としていった。
「あれがドローン爆弾か」
ハロルは呑気にそうつぶやくと、ゆっくりと旋回した。
配達先はこのあたりだが、今地上に降りるのは危険すぎる。
ハロルは一度高度を上げ、上空から、街の様子をあらためて見渡した
高い位置から街を見下ろすと、どこもかしこも煙と炎に包まれていた。
人影はまばらで、足を引きずるようにして走っている者が数名。
そのときだった。
風に紛れて、子どもの泣き声が聞こえた。
気づけばハロルは、声のする方へ向かって降下を始めていた。
瓦礫の影をたどると、崩れかけた建物の壁際に倒れた男と、その隣で泣きじゃくる子どもの姿があった。
男の身体はわずかに淡い光を帯びている──ハロルが探していた配達先だった。
「この人は、君のパパかい?」
ハロルが問いかけると、子どもは小さくうなずいた。
「パパが目覚めたら、これを渡して」
ハロルは、手紙を子どもの手にそっと託した。
続いて、かばんから飴やチョコ、スナック菓子を取り出し、子どもの目の前に見せびらかす。
そして何も言わず、ゆっくりと歩き出した。
子どもはその場に座ったまま、じっとハロルの背中を見つめていたが──
ハロルがスナック菓子を口に放り込み、ぽり、と音を立てた瞬間、子どもが立ち上がった。
そして、そのままハロルのあとを追うように歩き出した。
やがて、ハロルは、金色のドーム屋根をいくつも戴いた、美しい建物の前に腰を下ろした。
それは戦火の中に、ぽつりと取り残されたように、まったくの無傷で佇んでいた。
白い石壁は陽を受けてやわらかく光り、ドームの金が空の青を映して美しく輝いている。
教会の入り口に続く階段に腰を下ろしたハロルは、これ見よがしにスナック菓子を口に運んだ。
そのすぐそばに、先ほどの子どもがゆっくりと近づいて来た。
ハロルは静かに立ち上がり、建物のドアを数度ノックした。
そしてふわりと鳥の姿に変わると、空へ舞い上がった。
地面には、彼の残したスナック菓子の袋がひとつ残されている。
それを夢中で頬張っている子どものもとへ、修道服をまとった女性が現れた。
女性は子どもを優しく抱き上げ、建物の中へと連れて入っていった。
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愛する息子ミコラへ
主があなたとともにいてくださいますように。
あなたの無事を、毎日祈り続けています。
もし叶うなら、あなたがこちらへ来て、再び共に暮らせたなら、どれほどの慰めになることでしょう。
どうか心を強く持ちなさい。
苦難の中にも、主の導きがあると信じています。
日ごと、夜ごと、あなたの名を呼び、神の御手があなたを守ってくださるよう祈っています。
主の平安が、あなたの上にありますように。
母より
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やがて、教会からは美しい歌声とオルガの音色が聞こえ始めた。空を覆っていた雲の隙間から陽の光が差し込み、いくつもの細い光が街の上に降りた。
柔らかな光は揺らぎながら、空へ向かってのぼっていくようにも見えた。




