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夜に見放された物語  作者: 黒羽ユウ
【第一部 人ならざる彼は宵とともに】
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第1章 宵闇の逢瀬③


   * * *


 苦しい、息ができない。身体がふわりと上がっていく。


「ぶはっ……ごほごほ、はあ、はあ、はあ」


 水面から顔を出した宵闇は勢いよく水を吐き出して、息を整える。一体何だったんだ、さっきのは……彼の脳裏をそのことだけが支配した。

 息が整ったところで湖から上がり、そこで初めて傷の痛みがなくなっていることに気づく。まさかあの湖は傷を癒すものだったのかと自分の身体を見る。


「……は? どうなっているんだ」


 見覚えのない服に目を丸くする。水の中に入ったはずなのに服も身体も全く濡れていない。身体の作りも自分のものとは違っていた。この服は何処かで見た覚えがあると記憶を遡り、その正体を見つける。この服はあの湖に沈んでいたモノが身につけていた。


「待てよ、この身体……もしかして神か」


 人ならざる宵闇だからこそ察した、この身体は神のものだと。だが、神の身体に入るなど誰が想像できただろうか。入れるということは、この身体の持ち主は死んでいない、何らかの事情で精神……あるいは魂と呼んだ方が良いのかもしれないが、兎も角持ち主の意識の方が身体に戻れなくなっているということだ。


「何か厄介事に巻き込まれた予感がする……」


 宵闇は今になってようやく事の重大さを理解した。ただの好奇心で湖に沈むモノに近づいた結果がこれだ。死に際故の大胆な行為が、これほど大きな厄介事を連れてくるとは誰が想像できたか。我ながら迂闊なことをしたと溜息をついたところで状況は何も変わらない。立ち上がって地面を見ると赤い道があった。それは彼が死にかけたのは夢ではないことを示している。


「とりあえず、煌夜と会うか。あいつ、沈んでいるだろうな」


 死を覚悟したあのときに最後に会った己の従者の姿を思い出す。世話焼きすぎて常々鬱陶しい存在だと邪険に扱ってはいるが、一番頼りになるのも煌夜であると宵闇は思っている。一人で考えても混乱しすぎてどうして良いのか分からない。

 湖に視線を向けるがそこに宵闇の身体はなかった。そして、何故か水面に宵闇の姿が映らなかった。


「……どうして何も映ってない……?」


 近づいてみてもやはり何も映らない。湖に入る前までは映っていた気がするが、如何せん彼の意識は朦朧としていた。初めから宵闇の姿は映っていなかったと言われれば映っていなかった気もする。

 この森は鬼が所有するものだ。所有すると言っても、人間から隠れ住むために勝手にこの森を隠れ蓑に扱っているだけで実際に所有しているという証明のようなものは一切ない。隠れ住むためのものである以上、何か特別な力が働いていてもおかしくはない。


「行くか」


 試しに身体を動かしてみると、いつもと違う身体だから少し違和感があるが痛みは一切ない。やはり傷は残っていないようだ。おそらくは身体が変わったせいなのだろう。

 煌夜に会うのなら行き先は既に決まっている。煌夜が宵闇と別れて何処に向かったのか想像するまでもない。


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