第9話「俺の拳よ、勇気に染まれ! 世界をあまねく勇気に染めろ――!」
「そろそろ終わりにしようか。俺の拳を、勇気の拳を受けてみろ!」
『な、なにをするつもりですの――!?』
「そんなもん、必殺技に決まってんだろ それ以外に何かあるか?」
『必殺技ですって!? う、動きなさい[ブラックハウンド]! くっ、機体が言うことを聞きませんわ……!』
ドクター・トコヤミの焦ったような声が聞こえてくる。
どうやら[ブラックハウンド]はもうほとんど動けないらしい。
だからといって手心を加えたりはしない。
正義は勝つ!
どんな時も!
ゆえに――倒す!
さぁ、行くぞ[ブレイバー]!
「[ブレイバー]の拳よ、勇気に染まれ! 世界をあまねく勇気に染めろ――!」
その言葉とともに、右拳に膨大な勇気の光が集まり、オーラを漂わせながら煌々と輝き始めた。
『な、なんですのその膨大な魔力は!? ブラックハウンド・ソードの2倍、いえ、3倍以上のエネルギー・ゲインがあるだなんて!?」
「魔力じゃないと言っただろう? これは勇気の力だ!」
『く……!』
「話は終わりだ。 必殺っ! ブレイブ・ナックルっ!」
[ブレイバー]が大地を蹴ると、足裏で勇気の光が爆発し、機体が超加速する!
機体の残像を残しながら一気に[ブラックハウンド]へと肉薄すると、勢いそのままに右ストレートを打ち放つ!
勇気の光を込めた[ブレイバー]の右拳が、[ブラックハウンド]の胸部にぶち当たった。
そしてまるで豆腐にお箸を刺したかのごとく、さしたる抵抗もなく貫通する!
[ブラックハウンド]の内部で勇気の光が解き放たれ、荒れ狂い、蹂躙した!
バチバチと、[ブラックハウンド]のいたるところから火花が上がる。
『わ、わたくしの最高傑作たる[ブラックハウンド]が――っ!?』
[ブレイバー]は右腕を引きぬくと、大きく跳躍して距離をとった。
そして両肘を腰だめに引き、両拳を握り、胸を張って足を踏ん張りながら、
「勇気爆散! ブレイブ・エンド!」
勝利の決めゼリフを宣言する!
『わ、わたくが負けるなんて~~~~~~!』
ドクター・トコヤミの叫び声とともに、[ブラックハウンド]が爆散した。
――と、その爆発の中から、煙を突っ切るようにして、小型の飛行機がものすごいスピードで射出された。
「あれは、操騎士を保護する緊急脱出ポッドか」
『くぅぅぅ、名前は覚えましたわよ、勇者[ブレイバー]! ですがこれで勝ったと思わないことですわ! 次こそはわたくしが絶対に勝ちますからね! 覚えていなさい!!!』
緊急脱出ポッドは、ドクター・トコヤミの捨て台詞とともにぐんぐんと遠ざかっていく。
「あのスピードには、さすがに追い付けないか。ま、敵ロボの操騎士を殺すのは、勇者シリーズの美学に反するよな」
また来ても倒せばいいだけだし。
というわけで、あれは放っておこう。
俺は意識を切り替えると、倒れ伏す[パラディン]へと視線を向けた。
するとちょうどそのタイミングで胸部装甲がギシギシと音を立てながらこじ開けられて、中から操騎士がはい出てきた。
出てきた操騎士は金髪の女性──いやまだ若い女の子か?
ハタチくらいの超が付くほどの美少女だった。
「よかった、無事だったみたいだな」
そのことに、俺はひとまずホッと一安心した。