第4話 無力な俺のなすべきことは?
言われるまでもなく当然に、俺は逃げるべきなんだと思う。
一般人の俺はこのロボットバトルにおいて何の役にも立たないし、ここにいても巻き添えで死ぬだけだ。
まさに犬死。
だから逃げるのが正解。
もう大大大大・大正解だ。
でも、だけど。
「あんたは? あんたはどうするんだ?」
俺はそのことがどうしても気になって、魔導ロボの操騎士に呼びかけた。
俺が逃げたとして、この[パラディン]の操騎士はどうなるんだ?
『……私もこの機体も、もう駄目です』
な――っ!?
「なにを言ってるんだ! コクピットから早く出るんだ! ヤツの狙いはその機体なんだろ? ってことは機体を放棄したら、あんただけでも逃げられるはずだ!」
『さっきからやっているんです。ですがコクピットハッチが開きません。機体がダメージを受けすぎて、フレームがひしゃげいるのでしょうね』
「なんだって──」
『手動で少しずつこじ開けようとはしているのですが、とても間に合いそうにありません。いえ、あれだけ苛烈な攻撃を受けて、よくここまでもったと言うべきでしょうか。やはり[パラディン]は我がブレイブ王国の誇る最新鋭の魔導ロボです。これからもきっとこの国を守り抜いてくれることでしょう』
「そんな――」
己の死を覚悟する状況で、泣き叫ぶでもなく、未来の国に思いをはせる。
そのあまりに気高い姿に俺は絶句すると同時に、激しく心を打たれていた。
操騎士への憧憬、感銘、羨望、切望、共感etc...そして痛感させられる己の無力さ。
俺の心の中でいろんな感情がグルグルと激しく波打っていた。
『だから私のことは構わずに、あなたは逃げてください。魔力のチャージ量からみて、かなりの大規模・魔力攻撃が予想されます。おそらくですが、この機体は跡形も残りません。巻き込まれないようになるべく遠くへ。さぁ、早く!』
「お、俺は――」
『なにをグズグズしているんです! もう[ブラックハウンド]の魔力チャージは完了しつつあるのですよ! もういつ撃たれてもおかしくありません!』
「俺は――」
『急いで! グズグズしている暇はありません。できるだけ遠くに! さぁ、早く!』
「俺は――」
――俺は前世でずっと、勇者になりたかった。
アニメみたいに勇者ロボと一緒に、悪い奴と勇敢に戦って、世界を守りたかった。
勇気の力でみんなを幸せにしたかった。
でも、俺はただのちっぽけな人間だった。
サビ残パワハラなんでもござれのブラック企業を、労基に訴えることすらできやしない。
40年生きた中で勇気があったと胸を張って言えるのは、道路に飛び出た子供を助けた時くらいだ。
そして俺は、この世界でもただの人だった。
それも孤児院育ちで、読み書きが異常に得意だった以外は――今思えば前世の影響があったのだろう――ろくな技能も持っていない。
「この世界でも、俺は何もできないのか……」
それが悔しくて悔しくてしょうがなかった。
「なんで俺は、こうも何もできないんだ……」
無力感と悔しさで涙が溢れる。
――と、うつむいた先に、瓦礫の欠片があった。
掴んで投げるのにちょうど良さそうなサイズのそれを見て、
「これをあいつの顔にでも当てて気を引けば、あの操騎士が逃げ出すための時間稼ぎができるんじゃないか?」
俺はそんなアイデアを思いついてしまった。




