第3話 パラディン vs ブラックハウンド
「ちょ、ヤバいってこれ! マジで魔導ロボに踏み潰されて死ぬぞ俺!?」
『くっ、ぐうぅっ!』
『おほほほほほっ! 己の弱さに絶望しながらスクラップとなりなさいなっ!』
だが逃げようにも、どこへ逃げろってんだ!?
今も目の前にあった半壊していた建物に、[パラディン]が頭から突っ込んで、
ズドン!
ガラガラドッシャーンン!
建物の残っていた部分が、土煙を上げながら完全に崩壊した。
激しい衝撃の余波を受けて転倒してしまった俺のすぐ目の前に、[パラディン]の左手が上から落ちてくる。
「ひえええぇっっっ!?!?」
しかし運よく[パラディン]の親指と人差し指の間にいた俺は、なんとか九死に一生を得ることができた。
だが下手したら今の一瞬で、俺はぺしゃんこになっているところだった。
と、そこで[パラディン]の頭部のツインアイが、俺を見たような動きを見せた。
『なっ!? 民間人!? そんな、この地区の避難誘導は完了しているはずじゃ──』
続けて操騎士の焦った声が聞こえてくる。
それ自体はいたって普通の反応だったと思うんだが、しかしそのことがドクター・トコヤミの逆鱗に触れてしまった。
『ちょっとあなた! 戦いの最中にいったいどこを見ていますの! 戦闘中にわたくしと我が愛機[ブラックハウンド]を見ないとは、有象無象のポンコツ雑魚ロボの分際で生意気ですわよ! その罪、万死に値しますわ!」
尻もち状態の[パラディン]に向かって、[ブラックハウンド]が両手で剣を振りかぶって突っ込んでくる。
『ま、待ちなさい! 逃げ遅れた民間人が近くにいるんです!』
『そんなものに興味はありませんわ! わたくしの最高傑作たる[ブラックハウンド]を無視した罪を今すぐ償わせてさしあげます!!』
『くっ――! このままじゃ――』
[パラディン]は立ち上がると、俺を庇うように前に出て、[ブラックハウンド]の剣を、右手の剣で受けとめた。
激しい火花を散らしながら、かろうじて初撃こそ止めたものの、
『ふふふ、どうしました? もはや手も足もでないようですわね?』
ギャン!
ギン!
ギャギャギン!
『く、くぅぅぅぅ――!』
『そらそら、すっかり動きが悪くなっていますわよ?』
『うぐ、あぐぅっ――!』
既に左腕が使い物にならない[パラディン]は一方的に攻撃を受け続け、ついに片膝を地面についてしまう。
ガキィン!
さらには右手の剣が跳ね飛ばされてしまい、無防備になったところを派手に蹴り飛ばされ、[パラディン]の巨体は建物の残骸を吹き飛ばしながらゴロゴロと転がり、俺に腹を見せるように横向きで、完全に動かなくなってしまった。
『ふぅ……。最後はなかなかの粘りでしたけれっど、しょせんは旧世代のポンコツですわね。これが限界、勝負ありですわ。さすがはわたくしの[ブラックハウンド]。世界最強の魔導ロボですわね』
『くっ……! ぐ……!』
『ですがわたくしは、なかなかに満足いたしましたわ。ゆえにその奮闘ぶりに免じて、[ブラックハウンド]の誇る必殺の一撃を受ける権利を与えて差し上げましょう。ブラックハウンド・ソード、魔力充填開始ですわ!』
その言葉とともに、[ブラックハウンド]が正眼に構えた剣に、漆黒の魔力がどんどんと集まり始めた。
魔力をチャージして強烈な必殺の一撃を放とうというのだ。
もはや勝敗は完全に決していた。
『そこの民間人、今のうちに逃げてください。ヤツの狙いはこの機体です。だからなるべくこの機体から離れて、距離をとってください』
それを見て、[パラディン]の操騎士が俺に「逃げろ」と告げた。