第2話 異世界ロボットバトル
「異世界転生か。まさか俺の身に、そんなマンガみたいなことが起こるなんてな。……っていうか! 前世の記憶を思い出してても今はしょうがない! のんびりと確かめてる暇があったら、まずはここから逃げないと――!」
俺のすぐ側では、2体の巨大ロボが激しいロボット・チャンバラ戦を繰り広げていた。
片方はパレードなどで俺も見慣れたロボで、我らがブレイブ王国の誇る13メートル級の白銀の魔導ロボ[パラディン]だ。
1世代前の[ファイター]から大幅に性能アップした、最新の量産タイプである[パラディン]。
白銀のカラーリングは、その中でも凄腕ぞろいの親衛騎士団の機体であることを意味している。
さらに頭部にはユニコーンの角のような一角ブレードがあるので、あれはノーマル機体からスペックが大幅に引き上げられた、いわゆる「エース専用機」だな。
つまり今、俺の目の前で戦っているのは、ブレイブ王国でも最強クラスの機体と操騎士なのだ。
対してダークロア帝国のロボは、同じく13メートル級の見たことのない漆黒の魔導ロボだった。
その白銀と漆黒の2体の巨大ロボが、俺のすぐそばで、王都の街並みを破壊しながら、長剣でもって激しく切り結んでいるのだ。
ギャン!
ギン!
ガキン!
互いの長剣(6メートルはある)が激しくぶつかり、盛大に火花を散らす。
周囲の家やら宿屋やら商店やらは、巨大ロボの大立ち回りもあって一面瓦礫の山ってくらいに破壊されつくしている。
今も俺の真上を2体の巨大ロボが、激しく戦いながら通過していったところだ。
「こんなところで気を失って、よく生きてたな? もしかしてこの世界の俺って運がいいのか?」
頭を抱えて屈みこんだ姿勢で、俺はしみじみと生の実感をつぶやいた。
そんな風に巨大なロボが激しく地面を踏みしめても、しかしそこまで大きな振動を感じないのは、魔導ロボが重力魔法によって機体制御されているからだ。
(俺は庶民なので魔法は使えないし、魔法工学なんて孤児院育ちには縁もないので、詳しい原理は知らないが)
しかしどうやら[パラディン]は、かなり苦戦しているようだった。
ロボット・チャンバラで防戦一方だった[パラディン]が、左肩に強烈な突きを受けて、大きくよろめく。
力を失ったように、左腕がだらんと垂れ下がった。
「くそっ、左腕をやられたぞ! [パラディン]はブレイブ王国の誇る最強の魔導ロボだろ? それがいいようにやられるなんて──!」
よろめいた[パラディン]は、さらに強烈な前蹴りを受けて大きく跳ね飛ばされ――。
たたらを踏んだ後、あろうことか俺の目の前で盛大に尻餅をついた。
土煙がもうもうと巻き上がる。
「ぎぃぇぇぇっ!?」
思わず恐怖の叫び声を上げる俺。
『おほほほほほっ! 弱いですわ、弱いですわね、弱すぎますわね! もはや弱いの三段活用ですわ! 設計思想も性能も何もかもが時代遅れのガラクタロボ! この狂気の天才科学者・侯爵令嬢ドクター・トコヤミ様が開発した最新鋭の魔導ロボ[ブラックハウンド]でスクラップにしてさしあげますわっ!』
黒い魔導ロボから、中の人の勝ち誇ったようなノリノリの自己紹介が聞こえてきた。
どうやら敵のロボは[ブラックハウンド]という名前の魔導ロボで、操騎士はドクター・トコヤミと言うらしい。
「勝ち誇ってご丁寧に自己紹介をするとか、まるでアニメの悪役だな……」
そのことに妙な納得感を覚えてしまい、俺は命の危機にもかかわらず、ついついそんなことをつぶやいてしまった(勇者ロボ脳)。
っていうか、なんで侯爵令嬢がロボット開発なんかしてるんだ?
『くっ! 舐めないでよね……!』
するとドクター・トコヤミの勝ち誇った声に呼応するかのように、[パラディン]から声が聞こえてきた。
凛とした若い女性の声だ。
ガレキの中から[パラディン]がゆっくりと立ち上がる。
ギシギシと嫌な音を立てているのは、ボディに大きなダメージを受けているからだろう。
[パラディン]は再び戦闘を開始したものの、さっきまでと比べて明らかに動きが鈍い。
長剣をぶつけ合ってのつばぜり合いから、あっさりと弾き飛ばされてしまった。
『おほほほほっっ! 見ましたか、この[ブラックハウンド]のアットゥテキなパゥワーを! ツノが生えただけの量産型とはワケが違うのですよっ、ワケがっ!』
『くぅぅ! カスタマイズされた私の[パラディン]が、こうも一方的に力負けするなんて……!』
『当然ですわ! わたくしの[ブラックハウンド]には、魔道コアが2つ直列で搭載されているのですから! つまり従来の魔導ロボの2倍のパワーがあると言うことに他なりませんの! おほほほっ! 恐れおののいてよろしくてよ?』
『そんな、ありえません! 魔導コアは近づけると反作用する性質があります。2つを繋ぐなどできないはずです!』
『世界の誰にもできはしません。ですがわたくしにはできてしまうのです! この狂気の天才科学者・侯爵令嬢ドクター・トコヤミ様を、あまり舐めないでいただきたいですわね!」
ノリノリの[ブラックハウンド]が、ダメージを受けてどんどんと動きが悪くなる[パラディン]を一方的に蹂躙しはじめた。
――俺のすぐそばで。