第19話 今後のこと(1)
そして、全て完食して、デザートも平らげ、お茶を飲んで一服すると、シャロが言った。
「それではユーキ様はこの後は、どうぞお部屋でゆっくりしていてください」
「今日は少し疲れたからゆっくりさせてもらおうかな。シャロはどうするんだ?」
「私はまだ仕事がありますので、執務室に戻ります」
「えっと、外はもう真っ暗だけど……え? まだ仕事をするの?」
昼間は魔導ロボで戦い、暗くなっても仕事があるだなんて、近衛騎士団はなんてブラックなんだ。
まさか近衛騎士団長って、36協定の対象にならない名ばかり管理職って奴なのか?
などと、俺は思わず氷河期ブラックあるあるな考えに陥りかけたのだが。
「第二波への備えが必要ですから、まずはなによりも最優先でその対策をしないといけません。今日は徹夜ですね」
「そっか。そうだよな。とりあえず次への備えを万全にしておかないとだよな」
思い返せば、ドクター・トコヤミは逃げる間際に捨て台詞を残していた。
『くぅぅぅ、名前は覚えましたわよ、勇者[ブレイバー]! ですがこれで勝ったと思わないことですわ! 次こそはわたくしが絶対に勝ちますからね! 覚えていなさい!!!』
おそらく近いうちにリベンジに来るんだろう。
新型魔導ロボを用意して、[ブレイバー]に挑戦してくるに違いない。
だけどそれはこの国というよりも、おそらくは[ブレイバー]にたいしてのはず。
俺にはそんな確信めいた予感があった。
勇者シリーズだと個人的因縁で挑んでくるのが作法だからな(相も変わらぬ勇者シリーズ脳)。
「参謀本部の見立てでは、第一波の攻撃部隊を壊滅させたことである程度の時間は稼げるものの、再侵攻は間違いなくあるとのことです。それでなのですが――」
シャロが俺の顔色を窺うようにしながら、少し言葉を濁した。
だけどシャロが言いたいことはわかる
つまりは俺――[ブレイバー]に手助けして欲しいということだろう。
「当然、俺も力を貸すよ。任せてくれ」
俺は力強く答える。
「本当ですか?」
俺の返事を聞いたシャロの顔がパァっと明るくなった。
「この国は俺の生まれ育った国だしな。なにより俺は勇者だから! こんな一方的な軍事侵攻なんて許すものかよ!」
「ああ、なんと頼もしいお言葉でしょうか……」
「それに豪華な部屋を使わせてもらってるし、美味しいステーキも食べさせてもらったしさ。ここまでよくしてもらって、ただ飯ぐらいをするわけにはいかないから」
「別にこれは、そういう下心があったわけでは――」
「あはは、わかってるわかってる。今のは言葉の綾だよ」
慌てて言い訳をするシャロに、俺は笑顔で言った。
シャロは本当に真面目な子だなぁ。
「そ、そうですしたか」
「ってわけで、俺のことは戦力に加えてくれて構わない。むしろドクター・トコヤミが新型を持ってきたら、俺がまず戦う。その方向性で話を進めてくれるとありがたい」
「お力添え、ありがとうございます。頼りにさせていただきますね」
「任せとけ」
シャロがコップのお茶を飲み干すと、席を立つ。
遅れて俺も席を立った。
「部屋までお送りいたします」
「いやいや、一人で戻れるから」
「どうぞお気になさらず」
「そっちこそそんなに気を使わなくてもいいっての」
「どうか送らせていただけませんか?」
「……まぁそこまで言うなら」
ここで押し問答しても、それこそ対策を練るシャロの貴重な時間を奪ってしまう。
よって俺はシャロに部屋まで送ってもらうことにした。
シャロは俺を部屋まで送り届けると「おやすみなさい」と告げてから、仕事に戻っていった。




