第17話 ディナーの時間
とまぁ、こうしてみんなの無事が確認して俺はホッとしたのだが、シャロは話し終わっても笑顔のままその場を動かないでいた。
「ええっと、他にも何か俺に用があるのか?」
俺が問いかけると、シャロが言った。
「はい、そろそろディナーの時間ですので、ユーキ様とご一緒できればと思いまして」
「そういや、もうそんな時間か」
窓の外へと視線を向けると、もうすっかる暗くなっており、照明魔法器や松明、ランプの明かりなどがいたるところに見える。
魔導ロボットの市街戦によって甚大な被害を受けた二等エリア――と言っても全部ではなく主な被害区域は俺が住んでいた辺りに限られるのだが――とは打って変わって、一等エリアは特に被害もなく変わらぬ日常が保たれているようだ。
そしてディナーという言葉を聞いた途端に、俺はハンパない空腹を覚えてしまった。
ぐ~~~~~!
俺の空腹を代弁するかのように、お腹が盛大に鳴る。
思わずお腹に手をやってしまった。
同時に、勇者シリーズでも主人公のお腹が鳴るシーンってよくあるよな、などと思ってしまい、ちょっとハッピーになってしまう(相変わらずの勇者シリーズ脳)。
「ふふっ、かなりお腹が空いておられるようですね」
「ま、まぁな」
なんだろう。
女の子にお腹の音を聞かれるのって、すごく気恥ずかしい。
こんな気持ち、俺は初めて知ったよ。
「ですがご安心を。こんなこともあろうかと、既にスペシャルなディナーの準備を整えてありますので。さぁ、食堂へ行きましょう。ご案内いたします」
シャロが俺の手を取って部屋の外へと連れ出す。
「よろしく頼むよ。空腹を意識した途端に、ヤバいくらいにお腹と背中がくっつきそうでさ」
俺は手を引かれながら、食堂へと向かった。
◇
「なんか、思ったより狭いんだな。もっと大きなのをイメージしていたんだけど。他に利用者もいないし」
食道に着くなり、俺はそんな感想をつい漏らしてしまった。
食道はこじんまりとしていて、20人もいれば満席になりそうなくらいの広さしかない。
ここセント・ガーディアンは近衛騎士団の本拠地だ。
1000人近い騎士を抱えており、さらには食事や洗濯といったそれを支えるスタッフもいる。
どう考えても狭すぎる。
「ここは上級騎士向けの食堂なんですよ。いくつかある一般食堂を利用してもいいんですが、団長の私がいるとなれば、皆さん食事時も気が休まらないでしょうから」
「ああうん、納得。それはあるよなぁ」
シャロの説明に、俺はしみじみと同意した。
上司と一緒に食事とか、俺もブラック企業時代のつらい記憶しかなかったから。
パワハラ上司のつまらない自慢話やら倫理観の欠如した武勇伝を延々と聞かされた挙句に、「さすがですね」「しびれるなぁ」「すごいですね」「センスあるっすね」「尊敬しかないです」などとひたすらおべっかを使い続けないといけないのだ。
しかも奢ってくれるわけでもなく、自分の分はきっちり自腹で払わされる。
ただただ疲れるだけで、美味しいご飯もまずくなるってなもんだった。
「それと、時には下の者には聞かせられない話もありますので。というわけで、幹部は主にここを使う感じですね」
そう言うと、シャロは食堂と調理場を仕切っているカウンターへと向かうと、中にいた料理服の女性に声をかけた。
「料理長。勇者ユーキ様をディナーにお連れしました。伝えて置いたスペシャルメニューをよろしくお願いしますね」
「あいよ! すぐに持っていくから座って待っててな!」
とても威勢のいい答えが返ってくる。
シャロが席の一つに座ったので、俺もその向かいに座る。
間をおかずにすぐにディナーが運ばれてきた。




