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第16話 勇者のたった一つのわがまま

 俺の想像以上に豪華で綺麗なバスルームで、俺はしっかりと汚れを落とし、じっくりと湯船につかった。


「あー、気持ちいい……孤児院じゃあ熱いお湯につかるなんて贅沢は出来なかったからなぁ……」


 しみじみとお風呂の気持ちよさに浸ってから、バスルームを出ると、まっさらな着替えが用意されていた。

 白地に赤いラインの衣装が入った、少し軍服っぽい洋服だ。


「これって近衛騎士の隊服だよな?」


 早速、着替えてみるとサイズはいい感じにピッタリ。


 しかも。

「ソード〇アート・オンラインの血盟騎士団っぽい隊服で、めちゃくちゃカッコいいぞ!」


 脱衣所の大きな鏡の前で適当にいろんなカッコいいポーズをとってみたのだが、そこに映った自分はもはや別人のようだった。

 しかもちょっと中二っぽいのが、俺の琴線にとてもマッチしている。


 勇者ロボの操騎士(パイロット)になったうえに、お風呂に入ってリフレッシュしたのもあって、俺のテンションはダダ上がりっぱなしだ。


「隊服だけあって機能性もすごくいいんだよな。見た目はちょっと堅苦しそうな服なのに、着心地はいいし、動きやすい」


 どんなポーズを取っても、生地に伸縮性があるおかげで、肘とか膝が突っ張らないのだ。


「せいや! はっ! とぅ! でいやぁ!!」


 そんな風に俺が一人でキャッキャ盛り上がっていると、コンコンとノックの音が聞こえてきた。

 エントランス部屋の入り口のノックの音が、俺のいる脱衣所まで聞こえたのは、おそらく魔法によるものだ。


 魔法は庶民にはあまり縁がないものだけど、貴族階級なんかは魔法を利用することでかなり便利な生活ができるっぽい。

 まぁ、それはそれとして。


 脱衣所を出てエントランスホールに行き、入り口のドアを開けるとそこにはシャロがいた。

 シャロは俺を見るとにっこりとほほ笑んで、言った。


「さっそく着替えられたのですね。お似合いですよ」

「サイズもピッタリだし、着心地はいいし、動きやすいし、なによりカッコいいよなこの服。マジサンキューだよ」


「ふふっ、気に入っていただけて良かったです」


「それで、何か俺に用があるんだよな?」


「はい。孤児院の皆さん全員の無事が確認されましたので、急ぎそれをお伝えに参りました」


「マジか! 良かったぁ~~」


 俺はテンション上げ上げの中で唯一、気がかりだった孤児院のみんなが無事だったことを知って、大きく安堵の域息を吐いた。


「ただ、孤児院は先の戦闘によって半壊してしまったので、当面は避難所に身を寄せるそうです」


「そっか……。あのさ、なんとか支援してあげられないかな? これまでの運営もかなりかつかつだったし、再建とかはちょっと厳しいと思うんだ。その分、俺はこの国のために貢献してみせるからさ」


 とてもズルいお願いだった。

 ある種のわがまま。

 だって「俺」がこう言ったら、シャロは当然こう答えるからだ。


「救国の勇者たるユーキ様のお身内の皆さまです。復興に際しては当然、最大限の便宜を図らせていただきます」


「助かるよ」


 だよな。

 当然、そう答えるよな。

 だって勇者である俺のお願いは、シャロにとってはなによりも最優先事項なのだから。


 こんなことは本当の勇者なら絶対に言わない。

 それでも俺は、これまで俺の面倒を見てくれたシスターたちや、ずっと一緒に育ってきた孤児仲間たちをなんとかしてあげたかったのだ。


 だけどこんなことはもう金輪際しない。

 俺は勇者として、分け隔てなく困っている人を助ける。

 守るべきみんなを守る。


 俺の目指す勇者とは、勇者シリーズの主人公とは、そういう存在であるべきだから――!

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