第15話 歓待と勇者道
「当面の間はここをお使いください」
シャロにそう言われてまず案内されたのは、それはもう豪勢な部屋だった。
「こ、ここを!? 見るからに高そうなんだが!?」
室内を見て驚いた俺が、思わずシャロに視線を向けると、にっこりと満足そうな笑顔が返ってくる。
「さすがユーキ様、ご慧眼ですね」
「ご慧眼もなにも、さすがにこれは見たらわかるっての。マジすごいよ」
何がすごいってまず超広い。
正確に言うと、今いる部屋自体はそこまで広くはないんだが、部屋の中には扉がいくつもあって、その先におそらく別の部屋があるはずだ。
言うなればここは、いつくもの部屋へと続くエントランスホールなのだ。
扉の数は10を超えているので、これなら大家族でも余裕で生活できるだろう。
さらには足元にはふかふかのカーペットが敷いてあって、試しに足踏みしてみても、物音ひとつしないときた。
照明器具などもインテリアと一体化しているし、机やイス、棚などは見るからに高級品だ。
壁には大きな風景画も飾られている。
好奇心に駆られて、試しに一つの扉を開けてみると、そこは寝室になっていた。
ベッドはキングサイズっていうのかな?
滅茶苦茶大きくて、3人くらいなら余裕で寝れそうなビッグなベッドが鎮座している。
「すっげぇ……!!」
何から何まですごすぎて、もうさっきからこの言葉しか出てこないんだが?
俺、しばらくここに住まわせてもらえるの?
驚愕する俺に、シャロが説明を続ける。
「ここは貴賓向けの特別な客室なのですが、セント・ガーディアンのすぐ近くには王城や王侯貴族の方々のお屋敷や、高級ホテルがあるので、ほとんど使われていないんですよね」
「近くにいくらでも泊まるところはあるんだし、だったらわざわざここに泊まる必要はないよな」
「はい。なので自由に使っていただいて構いません」
「っていうか俺が使ってもいいのかな?」
「ふふっ。救国の勇者様に使っていただかずに、いったい誰に使っていただくと言うのでしょうか? どうぞご自由にお使いください」
「せっかくだし、ご厚意に甘えだせてもらうよ」
こんな機会、前世でも今世でも一回もなかったからな。
お金持ちになった気分をちょっとだけ味合わせてもらっても、バチは当たらないだろう。
「それとシャワールームはそこの左のドアを開けたところにあります。戦闘でかなりお疲れでしょうから、どうぞ身体を洗って一息ついてください。湯船もついていますので」
「部屋にお風呂まであるのか。すごいなぁ」
前世の日本のホテル並みだ。
この世界の庶民の生活水準じゃとても考えられない。
「もし広いお風呂が良ければ大浴場もありますが、そちらは他の騎士、職員たちと共用になってしまいますね」
「了解。じゃあ早速、部屋のお風呂に入らせてもらおうかな」
「着替えはすぐに用意いたしますね」
今更だけどもともとボロだった俺の衣服――孤児院のは使い古しばかりだ――は、がれきの下敷きになりかけたり、ロボットバトルに巻き込まれたりして、泥やほこりまみれでかなり酷いありさまだった。
こんな格好じゃ、シャロの顔パスがなければセント・ガーディアンには絶対に入れなかっただろう。
「いろいろとありがとな」
「とんでもありません。新型魔導ロボの奇襲を迎撃し、私の命も救ってくれたのですから、これくらいは当然のことです」
シャロがキリっとした声で言い切った。
心からそう思っているのだろう。
「そうかもだけど。俺は俺がやるべきことをやっただけだし、こうやって歓待してくれた以上は、俺も感謝の気持ちを伝えるべきだと思うんだ。だからありがとう、シャロ」
「ユーキ様は本当に礼儀正しいお方なのですね」
「ま、俺は勇者だから」
勇者たるもの、勇者として恥ずべき行動はしてはいけない!
勇者シリーズの主人公たちがみんなそうだったように、俺も勇者になったからには、彼らに恥じないカッコいい勇者になって見せる!
それが俺の勇者道だ!
(すがすがしいまでの勇者シリーズ脳)
というわけで俺は早速、部屋に備え付けのお風呂に入って、疲れと汚れを落としたのだった。




