第14話 セント・ガーディアン
「行くってどこにだ?」
「それはもちろん我々、近衛騎士団の拠点です」
「近衛騎士団の拠点って――え!? まさか『セント・ガーディアン』!? 一等エリアってことか!?」
「はい、そうですね」
「マジか! 俺、一等エリアって一度も入ったことないんだよな」
その言葉に俺はおおいに驚いた。
が、それも無理はないのだ。
俺たち庶民の住む二等エリアと。
王城と、貴族や大商人の屋敷があって、それを守る騎士がいる一等エリア。
2つのエリアは川や塀によって明確に分けられており、二等エリアの住民は理由なく一等エリアに行くことはできないのだ。
そして近衛騎士団の拠点であるセント・ガーディアンはその一等エリアにあり、訓練場なども兼ね備えた巨大な軍事施設として知られていた。
ちなみに近衛騎士団というのは「王都を守護する特別な騎士団」というくらいの意味であって、他国のように「王族に忠誠を誓う専用騎士団」というわけではない。
日本で言うと東京都は警視庁、その他は県警みたいな感じかな。
一等エリアだけでなく王都全域の警備や治安維持を任されており、街道に出没する野党狩りなども行っていて、なのでかなりの人員を抱える大組織なのである。
当然、セント・ガーディアンもめちゃくちゃ大きな施設だった。
(俺は二等エリアから遠目に見たことしかないが)
「この度のお礼と、できれば今後のことについてお話をさせていただければと思うのですが、いかがでしょうか?」
「今後のこと……とは?」
な、なんだろう?
俺を勇者と認めてくれる以上は、どうこうするってことはないんだろうけど。
それでもブラック企業勤めで「強制飲み会」だの「社長が心酔する気持ち悪い意識改革セミナー」だの「日曜日にゴルフ接待(運転手をやらされる上に休日扱い)」だのなんだの。
偉い人に連れていかれる=ロクな目にあわない、な構図が俺の中で完全無欠に完成してしまっていて、そのせいで少しだけ警戒してしまう俺だった。
もう身体に染み込んでしまっているというか。
それが態度に出てしまったからか、シャロは小さく苦笑をした。
「そのように警戒なさらずとも大丈夫ですよ。近衛騎士団長として、救国の勇者たるユーキ様を放っておくわけにはいかないというだけですから。最大限のおもてなしさせていただきます」
「そうか。ならよかったよ」
「ふふっ。[ブラックハウンド]に石を投げたりと、かなり積極的な方に見えたのですが、ユーキ様は意外と心配性なのですね」
「あーうん、どうなんだろうな。あ、そうだ」
「どうかされましたか?」
「避難した孤児院のみんなやシスターの無事を確認したいんだ。みんなは先に避難したから大丈夫だと思うんだけど、俺のことは探してるだろうからさ」
とりあえず俺が無事だと知らせて安心させてあげたい。
「ユーキ様は孤児院の出身なのですね」
「ああ、そうだ」
「わかりました。私が責任をもって安否の確認と、またユーキ様が無事であることを伝えましょう」
「マジか? 助かるよ。近衛騎士団長さんが責任をもってやってくれるなら安心だ」
俺はホッと胸をなでおろすと、シャロに孤児院の名前と、責任者であるシスター長の名前を告げた。
というわけで、もろもろの話し合いが終わり。
「それでは参りましょうか。私がご案内いたします」
「ああ、行こうか!」
シャロに連れられてしばらく歩いていくと、エリアを分ける巨大な橋が見えてきた。
「この橋はセント・ガーディアンの正門と直結しているんです」
「へぇ」
「大人数の騎士が一気に移動できるように、この橋は王都で一番広さがあるんです」
「ふへぇ」
なんて解説を聞きながら橋を渡ると、騎士の詰め所があって、完全武装の騎士が何人も目を光らせていた。
「ご苦労様です」
しかしシャロが一言、声をかけると、騎士たちからは見事な敬礼が返ってきて――それだけだった。
面倒な手続きを全部すっ飛ばして、顔パスで通るシャロに感心しながら、俺もくっついて詰め所を通り抜ける。
こうして俺は初めての一等エリア――近衛騎士団の本拠地たるセント・ガーディアンへと足を踏み入れたのだった。