第12話 「どうぞシャロと呼び捨ててください」
「話を戻しますが、そういった理由から、私個人としては分不相応な二つ名だと思っているんです」
「なるほどね。真面目なんだな、シャーロット団長は」
ぶっちゃけ、俺なら気持ちよくその二つ名を名乗る。
もう間違いない。
むしろ喜んで名乗る。
「見て見て俺の二つ名!カッコいいだろ!」って自慢する。
マジでそんなカッコいい二つ名を貰って、名乗らないなんてありえない!
なんてことを考えていると、
「どうぞシャロと呼び捨ててください、勇者ユーキ・イサミ様」
シャーロット団長が言った。
「え?」
っと、思わず聞き返す俺。
「救国の英雄たる勇者ユーキ・イサミ様に、『シャーロット団長』などと偉そうに呼ばせるなど、あまりに不遜というものです。どうかシャロとフランクに愛称でお呼び捨てください。私もその方が気が楽ですし」
そう言うとシャーロット団長は目をキラキラさせて、にっこりと笑みを浮かべた。
「あはは、俺は別に呼び方とかはあまり気にしないからさ」
さすがにこれは、よいしょが過ぎていると感じて、苦笑いする俺。
「ですが――」
「勇者だから偉いとか、そういうことは俺はそもそも思っていないしさ」
「そうなのですか?」
「俺的に、勇者ってのは偉いとか不遜とか、そういうのじゃないんだよなぁ。もっとこう情熱的な感じで、『勇者参上! 俺が来たからにはもう大丈夫だ! さぁここからは俺が相手だ!』って熱く生きるのが、俺の思い描く勇者っていうか。そもそも呼び方にこだわるとか、それがもう勇者らしくないと思うんだよな。でさ――」
………………
…………
……(長いので割愛)
俺は俺の思い描く理想の勇者像を、シャーロット団長に熱く語って聞かせた!
ふぅ、ついつい真剣にマイ勇者観を語ってしまったぜ。
シャーロット団長はそれはもう熱心に、目をキラキラさせながら俺の勇者トークを聞いてくれたから、話が止まらなかったよ。
あーあ、前世でも、こんな素敵な美人上司の下で働きたかったなぁ。
そうそう、聞いてくれよ。
俺が長年務めていたブラック企業なんてさ。
あまりに多すぎる業務量を課せられて、それに俺が少しでも不満を言ったら「グダグダ言い訳してんじゃねぇよ! 口動かす暇があったらとっととやれよ!」で一方的に封殺されてきたからなぁ(´;ω;`)ブワッ
「おっしゃることはよくわかりました」
シャーロット団長がこくんとうなずいた。
「わかってくれたか」
「ですがそれでも、私にとって命の恩人であり、それだけでなくあの強大な[ブラックハウンド]の脅威からブレイブ王国を守ってくれた勇者ユーキ・イサミ様に対して、やはり礼は尽くさなくてはならないと思うのです」
「あー、うん。シャーロット団長は本当に真面目な人なんだなぁ」
俺の長い話をしっかりと聞き、それを理解したうえでなおその結論のままってわけだ。
「ですからどうぞ、シャロと愛称でお呼びください。たしか、勇者ユーキ・イサミ様は呼び方にこだわらないお方なんですよね?」
「あー、うん」
俺はさっき『そもそも呼び方にこだわるとか、それがもう勇者らしくないと思うんだよな』と言った。
それは俺にも当てはまるよね、とシャーロット団長は言ったわけだ。
「ですよね?」
シャーロット団長が念押しするように言ってくる。
「わかったよ。これはもう降参だ。頭がいいんだな、シャロは」
最終的に自分で言った言葉を使われて、セルフ完全論破されてしまった俺は、シャーロット団長ではなくシャロと、愛称で呼んだ。




