第11話『疾風の姫騎士』シャーロット・アルビオン
「これは失礼しました。私はブレイブ王国・親衛騎士団の団長を務めますシャーロット・アルビオンと申します。以後、お見知りおきを、勇者ユーキ・イサミ様」
姫騎士さん――シャーロット・アルビオンはそう名乗ると、美しい所作の騎士礼を見せた。
「綺麗なロングの金髪はなんとなく見たことがあるなって思ったら、あの有名なシャーロット団長さんか! 俺、去年の建国記念パレードで見たよ! って言っても、群衆の後ろの方からだから、顔とかまでは見えなかったんだけどさ」
ブレイブ王国の建国を祝う年に1度の大パレードで、魔導ロボ――特に親衛騎士団仕様のツノあり[パラディン]は目玉中の目玉だ。
その時に操騎士がオート歩行させた[パラディン]の手の平に乗りながら、周囲に手を振るのが恒例となっているのだ。
もちろん、普段はほとんど見ることができない[パラディン]と操騎士が見れるとあって、それはもうものすごい人出だったので、俺は遠目からしか見られなかった。
なので操騎士の顔までははっきりとは見えなかったのだが。
それでも団長と紹介されたまだ若く、長く美しい金髪の操騎士がいたことは、はっきりと覚えていた。
「勇者ユーキ・イサミ様にお名前を知っていただいていたとは、光栄です」
「そりゃ名前くらい知ってるっての。この国じゃ王家の次に有名な人物だろ? 『疾風の姫騎士』の二つ名は近隣諸国まで鳴り響いてるって話だし。『ブレイブ王国に翼の騎士あり。疾風をまとう美しき姫騎士に、触れらる者この世になし』ってね」
俺は吟遊詩人たちがよく弾き語りをしている有名な一節を口にした。
なんでもシャーロット団長は風魔法の使い手だそうで、シャーロット団長の駆る[パラディン]は風魔法による圧倒的な機動力でもって、相手を翻弄し、敵に触れらることなく勝ってしまうのだと言う。
しかしその名前を出した途端に、シャーロット団長の顔が真っ赤になった。
「そ、その二つ名で呼ぶのはやめてください」
「え、なんで? めちゃくちゃカッコいい二つ名じゃん?」
「いつの間にかそう呼ばれるようになってしまっただけなんです」
「そうなのか? でも相手に触れられずに勝っちゃうんだろ? すごくないか?」
「あれは意図的に誇張して言っているだけで、実際の戦闘ではそんな一方的に相手を倒すなんてことはありませんから」
「あ、そうなんだ。まぁちょっとくらいは話を盛ったほうが、盛り上がっておひねりも増えるもんな」
吟遊詩人ってのはそういうお仕事だ。
「それももちろんありますが、ある種のプロパガンダですね」
「プロパガンダってことは、あれか。他国に対しての牽制ってことか。ブレイブ王国にはこんな強い操騎士と魔導ロボがいるんですよ、攻めてきたらひどい目に合いますよっていう」
「一言プロパガンダと言っただけで、そこまで理解されるとは。その若さで政治・軍事的な素養までお餅とは、さすがは勇者様です」
シャーロット団長が感心したようにうなずいた。
キラキラした目で俺を見ている。
「こ、こほん……ま、まぁな」
あまりにキラキラした瞳をしていたので、前世の日本で見たロボットアニメ――特にガンダムとかマクロスあたりから得た薄っぺらいにわか軍事知識だとは、ちょっと言いづらい俺だった。




