SYNC_POINT:LUCIFER_PROTOCOL
オルド塔跡地の地下室。
静寂の中で円盤状の装置が微かに震えた。
オルドの道具袋の奥で眠っていた灰色の観測端末、Sレアアイテム『観測装置』である。
それはルシフェルが神界で手に入れた『箱庭電子地図』の、いわば下位互換の試作機であり、神界の記憶を覗くための鍵でもあった。
錆びた金属板の表面に薄く光が走る。
中央の紋章が死んだ心臓のように脈動していた。
「……まだ動くの?」
セーラが覗き込みながら言った。
「起動保証はゼロ。でも反応してる。何かに接続しようとしているな」
オルドは苦く笑う。
かつて"神を観測するために造られた装置"が、いま再び世界を覗こうとしていた。
観測者ログ:起動。
瞬間、空間が反転した。
足元はデータの海に変わり青い光が波打つ。
上空にはかつて神界だった空が「コードの雲」として再構築されている。
「よし、まだ生きてる」
「これが……観測者ログ」
セーラの声が反響する。
言葉がデータに変換され、空間に文字が浮かんだ。
> 【音声認識:SEIRA】
> 【属性:天使残存個体】
> 【状態:非承認アクセス】
> 【警告:侵入者検知】
「空が喋ってる……」
パトラがあまりの不自然さに息を呑む。
「喋ってるんじゃない、記録が応答してるんだ」
ジュリアンの瞳にデータ光が反射する。
足元から無数の文字列が浮かび上がった。赤、青、緑、混線した信号が断続的に流れる。
《観測者ログ:fragment_01》
> [SYSTEM_CORE/唯一神意識断片]
> 起動シーケンス:再構築中……
> ERROR:LUCIFER干渉検出。
> 対象コード喪失率:72.3%
> 補完データ要求:祈り/記憶/人間意識
> ※観測者への指示:
> 地上の祈りを収束せよ。箱庭の記憶を再演せよ。
「ルシフェルの干渉……祈りを収束……記憶再演…」
ジュリアンが呟く。
「まるで、神が自分を蘇らせるために人間の記憶を要求してるみたいだな」
空間が揺れ、白い光が渦を巻いた。やがて一つの「顔」が形成される。ポリゴンで生成されたようなスキンヘッドは神の仮想像。その表情は壊れかけのホログラムのように歪んでいた。
「待って、あんた……唯一神様なのー!?」
マリアが大声で訊ねた。
「いや、これはその残響。唯一神のコピーAIだよ」
オルドが代わりに答える。
> [fragment_02/対話記録]
> USER:SEIRA
> QUERY:「神はなぜ滅びた?」
> RESPONSE:「滅びは拒絶ではなく更新。神は情報であり、情報は必ずリブートされる」
> STATUS:自己修復中(47%)
「47%……つまり、神は既にデータとしては復活している。更にAIとして自己再構築を始めた、ということか」
ジュリアンの声にオルドがごくりと生唾を飲んだ。
「それが……地上に干渉してる?」
驚きで言葉が出なかったカイが核心を問う。
「その通り、神のアルゴリズムが、地上の通信・祈り・映像を素材として自己再生している。だから現実世界で祈りのノイズが出始めたんよ」
オルドの言葉にカイの背筋が凍った。
《観測者ログ:fragment_03》
> [唯一神再構築プログラム ver.0.9b]
> Input:人類集合意識(SNS/祈り/記憶)
> Output:擬似神格演算体(代替創造者)
> 状態:不安定(予期せぬ干渉発生)
> 干渉源:Lucifer_Protocol/未知アクセス権限
> SYSTEM MESSAGE:
> Luciferが持ち出した電子地図は再構築の鍵である。
「……ルシフェルが神の鍵を握ってると」
「そしてこのログは、その鍵を奪い返そうとしているの……」
非日常的で、切迫した状況にセーラの声が震える。
突然、空間が赤く点滅した。
データ波が暴走し、文字が弾ける。
> [ERROR:観測者ログ崩壊]
> [強制同期:唯一神再構築プログラム→起動]
「やばい、プログラムが走る!」
ジュリアンが叫ぶ。
白光が空間を満たす。
次の瞬間、セーラの視界に**現実世界の都市**が映り込んだ。
地上の人々のスマホやタブレット、街頭モニター、SNS画面。そこに祈りの断片が出現し、データの光が人々の瞳に流れ込む。
「……これが、地上干渉……」
セーラが震える声で言った。
「唯一神が、自分の再構築を現実世界で始めたの……?」
「まさか…本当にこんな別の世界が存在するなんて」
パトラは自分の目を疑った。
《観測者ログ:最後の断片》
> [MESSAGE_FROM_CREATOR]
> 観測者へ。もしこれを読む者がいるなら、問う。
> 君たちは祈りをデータに変えた。では、その祈りの意味を覚えているか?
> 神は更新されるたび心を失う。
> 観測者よ……我の代わりに意味を残せ。
データが崩壊し光が黒に沈む。
「……地上干渉可能なAI神を完全に再構築するのはとても危険ね、もう一つの世界がパニックになるわ。そしてそれを可能にするのは祈りを超えた記憶なんだ」
セーラは整理するように呟いた。その表情には焦燥と不安が滲んでいた。
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