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決戦、万魔殿

 眠りの神ヒュプノスに攫われたセーラの奪還を焦る一行は万魔殿(パンデモニウム)の三層まで降りていた。

 一、二層と変わらず暗闇が広がるフロア。


「いったい何層まであるんだ…」


 これまでは下級悪魔しかいなかったが、三層からは中位の悪魔も現れ、即殺、瞬殺が厳しくなり体力の消耗は避けられなかった。各層は迷路になっており、悪魔の中にはレアな武器防具や回復アイテムを持ったものもいたのが救いであった。

 ジュリアンは『ポセイドンの三又鉾』をそのまま持ちつつ、クロノスが愛用していたレア武器、堅固無比な金属アダマンタイトでできた刃を持つ『アダマスの大鎌』を使って文字通り悪魔を狩り取っていった。


(パッぱかぷぉ~っぷっぷくプー!)


 突如トランペットのけたたましい高音が鳴り響き、闇の中から複数の悪魔が現れる。

 フクロウの頭部に人型の胴体、鋭い長剣を持った悪魔と、猫の頭部に灰色の装束姿でトランペットを吹いている悪魔、そして尻尾が複数あるイタチのような下位悪魔を多数引き連れていた。


 二刀流の武士オルドが、すかさずノートパソコンを開き、箱庭アプリで確認する。

「データによると、ラッパを吹いてる猫はベレト、フクロウのほうはアンドラス、二匹ともソロモン王の72柱で中位以上の悪魔だ、特にフクロウのほうは凶暴で不和と殺戮を司る」

 オルドのそんな情報は聞かずにジュリアンが炎を纏った『アダマスの大鎌』で猫悪魔ベレトに斬りかかった。


「ニャッ」


 猫悪魔は演奏を止め、トランペットで鎌を受けるが、楽器が砕けたため自らの両爪で受け止める。そのまま炎が全身に燃え移り暴れ回るベレト。


「フギャァァ!」


 そこにフクロウ悪魔アンドラスが長剣でジュリアンに攻撃を仕掛ける。防御するジュリアンこと邪神サトゥルヌスの左腕は鋼のように硬く、ガギィンと残響音だけが木霊する。憤慨し更に斬りつけようとするアンドラスだが、燃え盛る火炎に巻かれ、チイッと舌打ちをして剣で炎を払いながら後ろに飛び退いた。全身に火が回り暴れていたベレトはやがて消し炭となり動かなくなった。


 オルドは流麗な動きで二本の刀を操り、イタチの下位悪魔を次々と斬り殺す。カイも氷柱のミサイルで援護する。

「雑魚は任せろ!」

「……」

 一人残ったアンドラスは貯めていた力を解放しジュリアンに飛びつき渾身のパンチを繰り出す。ジュリアンは両腕で防御するも力を分散できず、壁まで吹き飛ばされた。


「コイツ…馬鹿力が」


 アンドラスは狂ったような雄叫びをあげてジュリアンらパーティーを威嚇する。

 そこにパトラの呪文詠唱が終わる。



« 怒炎爆烈獄(セバルチュラ) »



 雄叫び中のアンドラスの周りを、魔力によって作られた結界が包み、閉鎖空間内で異界の青白い炎が燃え上がる。


「アンギャアアァァァ……ァ…ァァ」


 中心温度が一億°Cに達するとエネルギーは可視光を超えた領域にシフトし、超高温と超圧力の下で結合した原子核によって凄まじい爆発が引き起こされ、フクロウ顔悪魔の身体は魔法の盾ごと蒸発した。


 カイとオルド、それにジュリアンが目を丸くしてパトラのほうを振り返る。


「危ねえ……こんな地下でそんな呪文を使って上層から崩れてきたらどうすんだ」

「結界内に収めてる」

 パトラが冷静に答える。


 オルドがアプリでパトラのステータスを見ると魔力の数値は桁違い、いやカンストして更に上昇しているようであった。


(彼女だけでこの地上を滅ぼせるんじゃ……)


 オルドはこの幼い少女に危機感を持った。今は味方だから良いが敵にしたらと思うと、冷たい汗が流れた。ジュリアンと目が合う、ジュリアンも同じことを考えていた。この箱庭に存在してはならない力である、と。


お読みいただきありがとうございました。

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