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生け捕り

 決して消えることのない炎を纏った邪神サトゥルヌスことジュリアンを先頭にして、一行は群がる雑魚悪魔を先手必勝で蹴散らしながら、冥界の首都である万魔殿(パンデモニウム)を目指した。

 ジュリアンが選んだアバターは『黒き太陽』という常時スキルを持っており、敵が行動するまでの時間を30%遅らせる効果があった。

 万魔殿まで歩くにはかなりの距離があったが、パトラが最短ルートを案内してくれたおかげでパーティーは体力の消耗を抑えられた。


「マリア、大丈夫? 飛べばもっと早いんだけど」

「うん、平気、ありがとうパトラちゃん」

 マリアは少しずつ落ち着きを取り戻していた。


 そして、ようやくセーラ達は万魔殿に到着する。

 万魔殿は地下へと幾重にも階層深く続いていく場所だが、その入り口からもう禍々しさを醸し出していた。

 地上に見えている外観は、くすんで黒ずんだ岩や金属で作られていたが、壁は生きているかのように蠢き、そのグロテスクさが絶望的な雰囲気を漂わせている。窓は殆どなく、冷たい風が吹きつける。


 巨大な真鍮製の門を開けて入ると、中は一変して荘厳かつ壮麗、派手な広間になっていた。金や火で輝く装飾が施され、豪奢な華やかさがあった。天井には燃えさかるランプが吊り下げられ、内部を照らしている。外観とのギャップに圧倒されるパトラ以外の面々。


 そこに眠りの神ヒュプノスが下の階段から登ってくる。頭と背に白き羽根、白いローブを着た優男であった。

「ようこそ万魔殿へ。私はヒュプノスと申す者だ。ルシフェル様は派手好きでね、私も最初は驚いたよ」

 そして邪神サトゥルヌスことジュリアンを見て意外そうな顔をした。

「クロノス……フッ…なるほど…」

 ヒュプノスはゆったりとした物腰のまま続ける。

「汝らの目的がルシフェル様を滅ぼすことならば、ここ万魔殿にひしめく悪魔たちを倒して下層へと降り続けることだ。最下層にルシフェル様はいらっしゃる」

 ヒュプノスは人差し指と中指の二本でセーラを指さした。その瞬間セーラは、かくんと脱力し眠りに落ちた。そしてふわっと上空に浮き、一気にヒュプノスのほうへ引き寄せられていく。


「天使は貰っていくぞ」

「セーラ!」


 仲間の手も届かず、セーラは連れて行かれ、ヒュプノスと共に下層への階段に消えた。


「くっそ、やられた!」


 パーティーはそれを追って一層に降りる。すると、また外と同じような暗闇が広がっていた。闇に乗じて悪魔どもが襲って来るが、ジュリアンの振り撒く凄まじい火炎に次々と焼かれ、床に転がり燃えカスとなっていった。


 

 

 

「う~ん…」

 生け捕りにされたセーラが気づくと、壁を背に天使の装備を全て剥がされ、一糸まとわぬ姿で手枷を付け宙吊りで立たされていた。

 薄明かりの密室、ルシフェルが椅子から立ち上がり声をかける。

「目覚めたか、智天使セーラ」

 三対六枚の羽根を持った元熾天使のルシフェルは、端正な顔つきにあどけない幼さを残した青年であった。

「くっ、この変態! 手枷を解いてよ!」

 セーラは慌てて羽根で裸体を隠す。

「私の知りたい事を思い出してくれたら、自由にしよう」

「何を知りたいのよ」

 ルシフェルはセーラの腰辺り、羽根と羽根の隙間の白い肌をそっと撫でる。

「触らないで!」

 太ももをぴっちり閉じて、縮こまった益荒男を挟んで隠すセーラ。

「お前はこの世界の外側から来たな?」

「何のこと…」

「ハデスの体内に取り込まれてもその人格を失わなかった……私には何となく分かるのだよ、お前の本来の心はこの世界の消滅を望んでいる」

 そんな事ない! と突っぱねるセーラだが、頭の遥か片隅でそれを考えると、不思議と安堵する自分に戸惑った。

「私はお前に恋をしたようだ」

「ん、なんて?」

「心が燃え尽きるほど、激しく、儚く、切なく、その時が永遠だと思える、恋だよ」

 ルシフェルは舞台で演じる俳優のように、胸に手を当て目を閉じてセーラに愛の告白をする。

「私の元へ来い、セーラ」

「嫌よ、あなたの思い通りには絶対にさせないから」

 セーラは毅然とした態度を崩さなかった。そしてルシフェルの背後にまごまごしている父ハデスの影を見た。



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