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呪言

 オルド、ジュリアン、セーラ、カイの四人は、ヒーラーであるマリアを中心に囲み陣形を組んだが、パトラはやはり参加せず少し離れたところで、物憂げに戦況を眺めていた。


(パトラちゃん……)


 マリアがパトラの心情を気にする。


 パトラは冥界に戻るか、このままパーティーに残るか迷っていた。レアアイテム探しはいつでもできる、仲間、仲魔……フラッとパトラの足が敵側に向かう。


「パトラちゃん行かないで!」


 マリアの声に、はっと立ち止まるパトラ。



 そしてベルフェゴールはセーラ達の陣形に一斉にゴーモンデーモンをけしかける。

 しかしオルドが一瞬のうちに二本の刀で、襲い来る全てのデーモンを切り捨てた。

「雑魚は任せておけ」

「すごいけど、本命をやっつけてくださいよオルドさん」

 カイが頼み込む。


 上空から巨大な蝿の化け物が、親指大の白い卵を大量に産み落とす。ボトボトと粘液まみれの卵がセーラ達に降りかかる。

「うおおおおぉ」

「気をつけろ! 身体に入られると、寄生されて大量の子供を生み出すぞ」

「むぐぐぐぐ!(気持ち悪い!)」

 カイは粘液で身体に絡みつく卵を振り払う。鱗粉タトゥーが高熱ガスを吐き、卵を焼き払っていく。


「人間めが」

 そう呟くとベルフェゴールは、見ていてくださいと言わんばかりに上空と背後を気にかけながらセーラに飛びかかった。

 ベルフェゴールの薙刀のような両剣と、粘液にまみれたセーラの鉞がかち合う。その間隙にカイの魔槍ロムルスがベルフェゴールの身体を貫いた、ように見えたが残像を残してベルフェゴールは空におり、カイに向かって両剣を振り下ろす。

「くらえぇぇぃっ! 地球剣・愛国富士山落し!」

「獲られる…!」カイが覚悟した瞬間、ジュリアンが敵を見ずに三又の鉾でベルフェゴールの土手っ腹を貫いた。今度は残像ではなく、ぐふっと口から血を吐くベルフェゴール。

 その背後からタナトスが呪文の詠唱を終える。


「まずい! 死の呪言だ」



« 死霊叫喚(サヴァタージ) »



 セーラ達全員の精神にズシンと重く強烈凶悪な死のイメージが襲う。

「耳を塞げ!」

 オルドの声も虚しく、マリアとカイはあまりの精神的負荷に意識を失ってその場に倒れた。ジュリアンも予想外のプレッシャーに膝を着く。

 呪言に耐えきったセーラがキッとタナトスを睨みつける。お付きのアグラトと目が合う。アグラトはタナトスの後ろに隠れながら戦闘に不参加のパトラのほうをチラと見た。


「我々が来るまでも無かったな」


 上空のアスタロトはそう吐き捨て、ベルゼブブと共に万魔殿に引き上げる。タナトスとヒュプノスも女魔を連れ飛び去っていった。



 ───静寂。



「仲間の死体を放置していきやがった……」

 オルドが倒れているカイとマリアを揺すり起こし、膝をついて立ち上がれないジュリアンに肩を貸す。


「くそっ、このキャラクター(佐々木小次郎)では勝てない」

 ようやく立ち上がったジュリアンは苛立ちを隠さず嘆き、武士姿のアバターごと音も立てず瞬時に消えた。

「相変わらず、自分の事しか考えない奴やな」

 オルドが嘆息する。

「もっと強力なキャラに乗り換えるつもりだろう…」

 そう言ってる間に再び出現したジュリアンの姿は、燃えさかる炎に包まれてはっきりと目視できなかった。


 邪神サトゥルヌス。

 ゼウスによって討たれた父クロノスが邪神として蘇り「夜の太陽」と呼ばれた姿で、顔と腹部と四肢が常に燃えており、あらゆる対象を焼き尽くす、巨人ティターン神族の長を素体としてジュリアンは再び降臨した。


「灯りいらずだな」

 オルドは皮肉混じりに言った。

「ああ、怖かった……マリア、朝だぞ」

 ようやくカイが起き上がる。

「……カイ」

 マリアは目を覚ますも、まだ震えていた。

「呪言に精神を蝕まれた直後は、トラウマとしてダメージが残るんだよ」

 少し離れて見守っていたパトラが、へたりこんでいるマリアの隣にしゃがむ。

「大丈夫よ、マリア。今度はわたしが守るから」

 パトラは何か吹っ切れたように、小刻みに震えるマリアを抱き寄せた。チラチラとそれを気にするセーラ。マリアはモテるなぁとカイが寂しげに呟いた。


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