鱗粉タトゥー
カイの右腕にある鱗粉のタトゥーに口が出現し、恐ろしく低い声ではあったが明瞭に言葉を喋った。
「ぎゃあああああ」
取ってくれぇぇと叫びながら、カイは鱗粉の付いた肘のあたりを身体から遠ざけて走り回る。マリアも気持ち悪がりカイから逃げる。
「あなたはだあれ?」
セーラがカイの痣に向かって優しく訊ねてみるが、痣は口を結んで返事をしない。
「それは呪術の刻印ね。思い当たることはない?」
パトラはパニック状態のカイを宥めるように訊ねた。
「天界の唯一神が特別に肉体を再生してくれたんだが、気づいたらこのシミというか痣ができていた」
カイは涙ながらに答える。
「擦っても取れない、単なる蝶か蛾の鱗粉だと思っていたが…この前は痣から高熱のガスが噴出されたし」
「鱗粉を触媒とした呪術、だね」
パトラが無情に断言する。
「オルド様が何か言いかけてたから、知ってるんじゃないかな。いったん戻りましょうか」
セーラが話を纏めるように言った。
「賛成~! 雪山は寒くて過酷だから嫌」
マリアが手を挙げる。
「その前に…」
セーラ達はアポロンとアレスを十字の張り付けから解き、地面に埋めて墓を作った。
それから一行はいったんオルドの地下室に戻った。しかしオルドはおらず、八畳ほどの室内は、何者かに物色されたような形跡があった。箱庭アプリの入ったノートパソコンやマジックアイテムの類はなく、デスクには紙とペン、本棚の本は雑多にばらけていた。
「誰かがここに来たのかも」
セーラは警戒して言った。
「それで一緒にどこかへ行ったのかなオルドさん」
カイも異世界や転移など箱庭のシステムを詳しく知っているわけではなかった。
「もしかして誘拐された?」
マリアは不穏な空気を感じとり、はっと口に手を当てる。
「だとしたら居場所は万魔殿ね」
「パンデモニウム?」
「ここが世界の中心であるように、冥界の中心にある悪魔の総本山が万魔殿だよ」
パトラは懐かしむように言った。
「カイのその痣だけど…悪魔の刻印の一種だとすると、位置情報の送信や盗聴機能もあると考えないとね」
説明するパトラは心做しか嬉々として見えた。
「そんな、じゃあ早く取らないと」
「無理に切り落としたりすると呪いが発動するよ」
「クソ…こんなちっこい痣が」
「高熱ガスを吹いたのも宿主を守る機能かな、あの低い声が恐らく術者で」
「この痣のせいでオレ達の言動が筒抜けに」
「まだ決まったわけじゃないよ、呪術にも色々あるから、ねぇ術者さん」
パトラの問いかけに痣の返事はなかった。
「すまん、みんな、とんでもないものを持ち帰っちまった」
「落ち込まないでカイ、呪術だとしたら必ず解呪方法があるはずよ」
「わたしの兄も氷漬けのままだし、術者以外が解呪するには相応の代償がいる」
珍しくパトラが語る。
「例えば上位悪魔がよく使う赤爪邪呪詛という強制力の強い呪術は、解呪に別の人間の生の心臓が必要。呪いが発動すると肉体は完全に破壊され、哀れなウデムシに再構成される。こうなってしまうと、いかなる手段を用いても復元は不可能になる」
ごくりと生唾を飲み込むカイ。
「でも、カイのその痣は喋るし、情報に特化した呪術かもしれない」
慰めるようにパトラが言う。
カイは思った、そんな呪術ごとき、またバグっちまえば無しにできるさ、だがアプリはオルドさんが持っていったか、敵の手に渡っちまったか、あれがないとどうにもならん……。
「パトラさんがいて良かった、色んな呪術があるのね、知らなかった、ありがとう」
セーラは気を遣ってパトラにお礼を言った。
「しかし、何とかオルドさんと連絡をつけないと」
カイは頭を掻きむしり焦って呟いた。
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