打倒、開発者
よく晴れた青空の下、一行は氷漬けにされたスルトの前に到着した。
路上の真ん中に聳え立つ、巨大な氷の棺。
今のカイには圧倒的に魔力が足らず、やはり解呪は出来なかった。
「生きてるの?」
「悪魔の生命力なら…」
「術者はカイかと思ったけど」
唐突にパトラが呟いた。ハデスの幹部、超上級悪魔の洞察力は甘くなかった。
「違うわね。あなた程度の魔力で兄は封じ込められないはず」
「あぁ(ふぅ…)」
「カイはね、箱庭っていう…」
「マリア待て」
「箱庭? それは何なの?」
「この世界のことだよ」
セーラが代わって説明する。彼女には何となく感じることができた。この世界を見つめるもう一つの世界の存在を。
「まさか、そんなのあり得ない」
パトラは驚きを隠せず否定した。
「オレ達は試されてる」
かぶりを振るカイ。
「それでも、あなた達は世界を守るために戦うんだね」
「もちろん」
セーラが即答する。
「ね、カイ、マリア」
「あ、うんまぁ…」
「パトラちゃんはやっぱりあっち側?」
マリアが悲しそうに訊ねる。
「わたしは中立かな、戦いよりもアイテム集めのほうが好き」
「じゃあ一緒にオリュンポス山に行こ!」
一緒にいる口実ができたことをマリアは素直に喜んだ。
「まずは生き延びた神様に会わなきゃ」
自らを鼓舞するようにセーラは言った。
◆
冥界の万魔殿に住まう堕天使ルシフェルは、六対十二枚の羽根をたたみ、漆黒のテーブルに向かって筆を取った。
そして、半紙に一気に文字を書き上げた。
『宇宙創造』
達筆であった。
「貼っておけ、マモン」
「へぁっ!」
人間の身体に二つの黒いカラスの頭を持つ『強欲』の悪魔マモンは、半紙を受け取ると、粘着性の唾をつけて壁に貼り付けた。
「私はこの世界を作り変える」
ルシフェルは尊大な態度で語った。そして墨汁に筆を浸し、もう一筆書いた。
『打倒開発者』
「貼っておけ、マモン」
「へあっ」
マモンは命じられるまま壁に半紙を貼り付けた。ドクドクと蠢く肉壁はまるで生きているようであった。
そこに金の冠を腰部に結びつけた美しい女魔オノケリスが話に混ざってくる。
「ルシフェル様、開発者とは何者でしょうか」
「我々にとって最大の敵だ」
「天界の神々よりも強力なのですか……」
「あんなものは前座や」
「ですが、まだ二神が生存しております。どうなさいますか」
「んん、目障りだな」
オノケリスは目を細めて千里眼でオリュンポスを見通す。
「どうやら二神は他種族と手を組むようですね」
「ハッハッハ!! 脆弱なる者どもに頼るほど落ちたか」
思わず哄笑するルシフェル。
「私が行くまでもない。マモン、まとめて片付けてこい」
「へ、へぁっ…?(わい一人で?)」
「『色欲』のアスモデウスよ」
ルシフェルが呼びかけるとマモンの横で付き従っていた悪魔が返事をした。
「へるぁ!」
アスモデウスと呼ばれた悪魔はマモンの副将として歩み出た。その容貌は牛、人間、羊の三つの頭にアヒルの足と蛇の尾を持った凶悪なキメラであった。
「主人と共に我が怨敵を討ち滅ぼしてこい」
「へぶるァ!!」
アスモデウスの怒号が地獄の暗黒竜を呼び寄せる。マモンと共にその背に乗り込むと、竜はゆっくり羽ばたき爆風を起こして出陣していった。
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