断罪決行
海皇ポセイドンはその肉体を箱庭界に顕現させた。
正体は元々箱庭に設定され眠っていたポセイドン神に転移し、もてる全ての魔法装備でその身を包み、神器の鉾を手に再び箱庭内に降臨した暴走ジュリアンであった。
ジュリアンは機能の多くがエラーとなった箱庭アプリのせいで、システム側から制御できなくなった全ての悪を自分の手で削除する使命感を持った。
自身が神になったつもりで裁きを断行する決意を固めていた。
悪魔どもは片っ端から街を荒らし回っていたので、居場所はすぐに分かった。
混沌の魔導師とも合流しており、街を占拠し住人を狩りながら、あの天魔複合した異形の怪物とはまた別の所業を進めていた。
ジュリアンは奴らを始末してから、ライナスの痕跡も見つけ次第、潰して消去していくつもりであった。
「神は常に冷酷非情に、悪を断罪する」
そして最後はあの四つ羽根の天使セーラとそれを加護する神を、自らが設定した神をこの手で…。
準備、装備、手段はあらゆるものを用意した。
負けるはずが無かった。私は真の神となった、この箱庭での海皇ポセイドンとして、相応しい力を持ち、行使できる。冥府の神ハデスとはいえ所詮はNPC、この力で抑えられぬはずはなかった。
ゆったりと歩き空間をワープしてジュリアンは現地に到着した。
「ん? 誰だ貴様は」
がらんどうの鎧戦士たちを従えて街を暴れ回るスルトは、地獄の八本足の馬スレイプニルを手に入れ、黄金ではなく黒い甲冑で身を包んでいた。
「神器…あいつ。やっぱり生きてた」
パトラは魔法使いらしからぬ踊り子のような薄い生地の服を身に纏い、家屋の二階から突き出た木板の上にちょこんと座っていた。
「混沌の魔導師、消えてもらうぞ」
スルトらを差し置いて魔導師に目を向けるジュリアン。
「外の者よ……我は不滅、我の意志とは無関係にな」
魔導師は不気味な二重音声で答える。
「やはり、お前たちは危険だな」
ジュリアンが見下して言う。
「旦那、あの武器には異常なパワーがある、神器ってやつだ」
云うや否やスルトはスレイプニルで更にスピードを増し海皇に斬り込む。
ジュリアンは神器ポセイドンの鉾を胸の位置で回転させ、天に翳すよりも素早く多方面にその威光が照射される。
「まずい!」
スルトが事態を察知するも今度は間に合わない。
ジュリアンの全ての挙動はマジックアイテムの効果により倍速化していた。
放たれた光は咄嗟に纏ったパトラと魔導師のシールドを薄紙のように貫通する。
「ぬぅおおおおお!!」
ポセイドンの威光を受けたスルトは黒甲冑が全て引き剥がされ、パトラは肉体が縦に裂けスライムに、混沌の魔導師は枯れ干からびた老人に、そして、それらをジュリアンは鉾でまとめて薙ぎ払い両断した。悪魔どもの断末魔の悲鳴が辺りに響き渡る。
「歯ごたえのない。真の神に対しては何人たりとも無力か」
各地の人々を苦しめたスルト、パトラ、ハデスの三悪魔を一瞬のうちに滅ぼしたジュリアンに、街の人々は手を合わせ、「神様……」と崇め讃えた。
そこにやっとセーラが到着する。
「これはこれは。神の加護を得た天使セーラ、早かったな」
ジュリアンは恐ろしいほどに冷たい視線をセーラに向けた。