ライナス
「Another storys-1」
箱庭システム運営の裏側
ジュリアンはどちらかと言うと物静かで真面目な青年であった。
ソロとは大学時代からの友人で、授業そっちのけで新しいアプリの開発に励んでいた。
「お前が作ったこのハクスラ、なかなか面白いよ」
ソロが単純に褒めると、
「まだ改良の余地があると思わないか」
と、返すジュリアン。
幼き頃から親友と呼べる存在がいなかったジュリアンにとっては、ソロとの何気ない日々が楽しかった。
箱庭システムの開発計画に賛同し、集まった有志は数多くいたが、最終的に残ったのは彼ら以外たった三人であった。
そして、その三人もそれぞれ仕事や勉学に居場所を移し、アプリの運営からは一歩引いていた。
実質、箱庭アプリの管理はジュリアンの担当となり、有事の際はレポートにまとめて他のメンバーに通達していた。
三人は年齢も離れており職業や性格も千差万別で、彼らは箱庭の情報だけ得て危険は避け、裏であれこれ実験をして楽しんでいるようにジュリアンには思えた。
そのため、ジュリアンは箱庭運営の過程で全知全能の唯一神の存在を設定した。
それは箱庭内において万能の、まさしく神様のはずであった。
しかしバーチャルの唯一神は期待通りには機能せず、箱庭はユートピアとはほど遠い世界となり、リセットを繰り返した。
(ジュリアンの精神は次第に病んでいった。)
最近、箱庭にあるトラップが仕掛けられているのをジュリアンは発見した。
ジュリアンはその行為を行っている人物の正体をなかなか特定できずにいたが、ついに突き止めた。
人物の名前はライナス。
アプリ開発に最後まで残った、他の三人のうちの一人で、ジュリアンとは親ほど歳が離れた労働者の男であった。
ライナスは箱庭内の、あるキャラクターを改造して独立して行動させ、世界をディストピアに導いていた。
そのキャラクターとは、世界を裏から操らんとする存在であり、データ上の名前はハデスとなっていた……。