右クリックメニュー
「あうぅッ!」
セーラは激痛に耐えながら飛ばされた右腕を見上げた。
今は神の光虫の加護がないため、マリアのヒールと自らの再生力に頼るしかなかった。
「きゃああセーラ!!」
少し離れたところからマリアが叫び、急いで回復呪文をセーラにかける。
血飛沫がスルトの身体にかかり、その部分が蒸発し湯気が立ちのぼる。
戦況を見て攻撃呪文の詠唱を始めるパトラ。
スルトは体勢を崩しているセーラに向けて第二の攻撃を繰り出す。
« 竜破・崩烈!!»
複数の斬撃が収束しセーラの胸部を狙う。
セーラはバスローブを使って闘牛士がムレタを扱うように舞ってその攻撃をいなす。
突如駆け出すカイ、地下室へ向かう。
「すまない! セーラ、考えがある!」
(えぇっカイ、どこへ……)
セーラが唖然とする。
「逃がすかよ!」
スルトは偑刀していた脇差を取り出し、両手武器を使った遠距離攻撃を行おうとする。
それを阻止しようとセーラが聖光気を纏った左手で手刀を繰り出し、スルトはやむなく応戦する。
セーラの右腕は既に止血され、その断面からは小さな手が生えてきていた。
« 怒血熾焔衝 »
パトラが火炎の呪文を発動する。
複数の火柱がセーラの周囲に立ちのぼり、対象を焼き尽くさんと燃え盛る。
「今度はこっち!?」
セーラは羽根で身体を包み込み超高熱に耐える。
「ふん…! 耐火したか」
パトラは苛立ちながら、禍々しき瘴気を発する第二の呪文の詠唱を始めた。
「禁呪か! やめておけパトラ!」
スルトが制する禁呪とは、呪文の制御を誤ると、物質界に膨大な負の影響を及ぼす可能性がある危険な呪文であった。
「二対一なんて卑怯よ!」
マリアはヒーラーであり、できる事が限られている自分を嘆いた。
◆
一方、オルドの地下室に辿り着いたカイ。
暗い部屋の中でノートパソコン起動の青白い光がカイの顔を照らす。
「アレフ…まずアレフの項目を」
「dead」
「やはり、あいつはもう……」
「いや、今はそんなことより、えぇと、左を押しながら右クリック…」
連打すると、以前は反応しなかった右クリックメニューが出現した。
"保存"
"元に戻す"
「保存って何だ、保存してどうなる?」
とりあえず適当に村人を選択して"保存"をクリックするカイ。
データがコピーされデスクトップ上にダウンロードされる。
フォルダを開くと、メモ帳に意味不明な記号などの羅列がびっしりと記されていて、カイには皆目見当もつかず、解読できなかった。
(もしかして…この文字化けしたデータは村人のそれまでの人生が全て記録されているのでは? 読めなくとも全部消してしまえばどうなる……それを上書きアップロードすれば、記憶、いや存在自体が)
しかし、カイには当然アップの仕方などわからなかった。
「オルドさん…もっと教えておいてくれよ」
諦めてアプリのメイン画面に戻るカイ。
ふいに目に付いた、見覚えのある名前にカーソルを当ててみる。
(オルド…alive)
箱庭を更新しています。しばらくお待ちください…… …… …… …… …… …… …… ……
「更新……オレ、何した?」
カイは驚き、座っていたパイプ椅子からずり落ちた。