食いしんぼ大公妃は食事改善の準備を始める
マリーズは大公城に戻ると部屋にも寄らずフレデリックの執務室へ向かった。
ノックをすると応えがあったので入室する。
「マリーズ様。お呼びいただければ参りましたのに」
「用事があったから城下から帰って直ぐに来たのよ。いきなりなんだけどお願いがあるの」
「ええ、何でもおっしゃってください」
「まずは一人侍女見習いを私に付けようかと思って。明日から来るから門番にメグに呼ばれて来たという子を私の部屋に案内して欲しいって伝えてくれる?」
「ええ構いませんが、王都から来られるのですか?」
「いいえ、さっき見つけたの。侍女にならないかって声をかけたら頑張りますっていうから決めてきたの。可愛い子よ。身元は大丈夫だから安心して。もう私のお金って使えるのかしら?」
「ええ、準備は終えておりますから上限を越えるまで何も言いませんのでお好きに使ってください」
「じゃあ、侍女服が必要なんだけど、とりあえず、明日、使用人の服を作っているお店にカタログと150センチくらいの子が着る標準サイズの侍女服を何点か持ってきてもらって欲しいの」
「かしこまりました。直ぐに手配します。でもそれでしたらマリーズ様のお金を使わなくてもよろしいのですよ。使用人の服ですから」
「そう?ありがとう。メグたちにも新しいのが必要だからお願いしてもいいかしら?」
「もちろんでございます」
「ありがとうフレデリック。あと、これが一番大変なお願いなんだけど、明々後日から三食、厨房を私に任せて欲しいの。一か月で良いわ。
今兵士の皆さんが交代で作ってるけど、何と言うか、美味しいんだけど、栄養に偏りがあるのと味に偏りがあるのでちょっと皆さんの健康が心配になって。
明後日一人料理人見習いが来るからカレンに呼ばれたと来た子を同じように私のところに案内してほしいの」
「その方もまさか今日見つけて来られたのですか?」
「ええ。でもまだ見習いよ。料理人には程遠いわ。
でも、私たちとその子で一か月料理を毎食作ります。それが気に入ったという使用人、兵士でもいいけど、そういった人が出てきて、料理専門で働きたいという人が出てきたら完全に料理人としての雇用に変更して、大公城専用料理人として欲しいの。
ラファエル様は健康に気をつけなさ過ぎなんじゃない?」
「そうですね、食に関してはあまり関心がないようです」
「でしょうね。でも美味しくてバランスの取れた食事は脳を活性化して仕事の効率もあがるわ。少しでもお忙しいラファエル様のお手伝いをしたいの」
フレデリックが嬉しそうにしている。
「かしこまりした。そのあたりは手配しておきます。お任せください」
「しばらくは今ある食材で作るけど、色々手配したいからいつも食材を買っている商人を近々呼んで欲しいの。
たくさんお願いしたけど、ほら、私やることがないでしょ?でも部屋でじっとしているのも逆に疲れちゃうし、何かしたいなって思って。
もしラファエル様がすぐに止めろっておっしゃるなら止めるわ。それまでは試させてほしい」
「はい。マリーズ様だと気づかれるまで私も黙っておきましょう」
「ありがとう!王都からたくさんレシピとか作り方とか教えてもらってきたから楽しみにしててね!」
マリーズはそう言うとフレデリックの元を後にした。
「マリーズ様。私たちの服も新しくしてくださるのですか?」
カレンが嬉しそうだ。
「もちろんよ。今着ているのは公爵家で支給されたものでしょ?だから大公城で働く用に新しく何着か作りましょう」
「嬉しいです!」
カレンが手を合わせて握りしめている。
「メグにも早く伝えないと」
「明日カタログから二人で選んでね」
明日の予定が決まるとマリーズは楽しくなってきた。
いよいよマリーズがやりたいことができる。
ラファエルの邪魔をしなければ好きなことをしてもいいと言ったのだからやりたいことをする。
それは自分の為でもあり、誰かの為でもあり、できればラファエルの為になること。
少しずつでも良いから大公領の人と大公城の人、それからラファエルと親しくなれるよう、マリーズはやれることはちゃんとやって行こうと思った。
その結果、マリーズが願った結果にならなくてもそれはマリーズのやり方が悪かったのだから、また違う方法を考えてやってみよう。
この地を去ることになる日まで。