食いしんぼ大公妃はどうやらほっとかれるようです
マリーズが大公領に来てから一週間。
あっという間だった。
連日カレンは城内で聞き込みや噂の訂正など、マリーズに好印象を持つ人間を少しずつ増やしていった。
マリーズとメグは城下に出て食べ歩きや買い物をした。一度フレデリックに言って誰もいない厨房を見せてもらい、必要な調理器具なども買い揃えた。
それらは全てマリーズの部屋のクローゼットの中に今はしまわれている。
まだ大公家の人間ではないから口を出したくないからだ。
そして式の前日公爵家一行がやってきた。
「お義姉様!」
マリーズはためらわずまず義姉に抱きついた。それを優しく受け止めて抱きしめ返してくれることに嬉しさと寂しさを感じた。
もうすぐマリーズは大公妃になる。そうなれば大公領から出ることは少ないだろう。今までみたいに抱きしめ慰めてくれる温かな腕は遠く離れた王都だ。
「マリー。部屋に案内してくれる?」
義姉に言われて家族を自室へと案内した。
「マリー、いい部屋じゃないか。家具もアンティーク家具でかなりの値段だろうに。マリーには勿体ないな」
「お父様。差し上げませんよ」
「いくらなんでも欲しいなんて言わないよ」
「お!このクマはさすがにベッドには置かないんだな」
「ヴィクトル!」
兄の言葉に一瞬部屋が凍ったが義姉に叱られる兄を見てすぐに溶けた。
部屋には久しぶりに家族が揃い楽しい時間が流れる。こうやって子どもでいられるのもあと僅か。
「ラファエル様は良くしてくれるかい?」
父の言葉にまだ一度も会えてないとはさすがに言えない。
「ええ。何も不自由ないくらいよ」
と言葉を濁す。
「じゃあ父さんたちは宿に戻るよ。出席者は全員どこかの宿に泊まるようにってことだったから」
「うん、わかった。また明日ね」
「式の時間前に来るからね。ドレスはメグに渡したから任せておけば良いわよ」
「ありがとう、お義姉様」
家族を馬車止めまで送り手を振ると現実感が増してきた。
色々な問題はあるが、とにかく明日は結婚式を乗り越えよう。
その後色々なことを片付けて行こう。
マリーズは不安に揺れる中浅い眠りについた。
式当日。空は晴れ渡り、鳥がさえずりそよ風が吹くとても穏やかな日となった。
マリーズは聖堂の新婦の控室でメグとカレンにドレスを着せてもらい化粧をし髪は結い上げた。
ドレスは真っ白な生地に白い糸で精緻な刺繍が施された逸品だ。童顔を消すためにレースもリボンもつけなかった。
胸元に白い花のコサージュをつけ、ダイヤの首飾りと耳飾りをつける。
「お綺麗です。マリーズ様」
メグが鏡を前に置いた。
「本当にお綺麗です。いつもの愛らしさがこのドレスを着ると美しさに変化しましたね」
鏡に映るマリーズはカレンの言う通り、いつもより少し大人に見えた。
これで少しはラファエル様に近づけたかしら?もうどんな顔だったか記憶にほとんど無い顔を思い出そうとする。
でも今日からはたくさん会えるのだからと記憶を振り切り笑顔を作った。
「ありがとう2人とも。こんなに変わるとは思わなかったわ。2人の腕が良いからね」
「とんでもない。マリーズ様が元々お美しいからです」
「そうです。少し童顔なだけで元々の顔立ちがお綺麗なんです」
「お時間です」
聖堂の聖官が呼びに来たようだ。
「じゃあ行ってくるわね」
マリーズは二人に笑って手を振ると控室を出た。二人にもわかったはずだ。控室には新郎が迎えに来るのがこの国では普通だがラファエルが迎えに来なかった。
それでマリーズの扱いはわかったようなものだ。
望まれていない。
しかし、悲しい顔をするわけにはいかない。幸せそうにしなければ家族や来賓が不審に思う。
マリーズは聖堂の扉の前に立つ男を見た。やっと二度目に会う夫となる男だ。
黒い短めの髪に赤い瞳。
さすがに正装を着ているんだな、とマリーズは思った。
真っ直ぐ見つめ扉が開く前に声をかけた。
「お久しぶりです。ラファエル様。ジョフロワ公爵家長女マリーズです。
これから大公領と領民の為に一生懸命努めますのでよろしくお願いいたします」
「ラファエルだ。行くぞ」
その一言で扉が開く。
マリーズは真っ直ぐ前を向いて歩いた。何事もなかったかのように軽く微笑んで。
その時周りが見えていなくて気付けなかった。歩くだけで精一杯だったから。
興味津々の目を向けられていることも、憎しみの目を向けられていることも。
精霊リューディアとスティーナの前で夫婦の宣誓をし互いに署名をする。
そして向かい合うと目を瞑るマリーズの額にラファエルの唇が触れた。
拍手が起こる中、聖堂の扉に向き直って初めて全体を見たマリーズは戦慄が走った。
式場の一番後ろにホランが真っ白なドレスを座っていてこちらを見ているのだ。
結婚式で白のドレスを着れるのは新婦だけ。誰でも知っていることだ。それなのに敢えて白を着てきたホランに空恐ろしいものを感じた。
何故衛兵や聖官は止めなかったのか。入れるべきではないだろう。
晴れの日にこんなことが起こるなんて。義姉の方を見ると気付いていて心配そうにマリーズを見ていた。
疑いは確信に変わる。卒業後ホランは領地に住んでいると聞いて安心していた。もうお茶会で会うことはないと。しかし学園でマリーズにしたように、大公領でも同じことをしたのだ。
大公領に入り、ラファエルの婚約者は我儘な令嬢だと。本来自分が選ばれるはずだったのに横取りしたと。家人も使ったかもしれない。そうでなければこんなにマリーズについて悪い噂がたつわけがないのだ。
ラファエルもホランの存在に気付いただろうが何も言わずマリーズの手を取るとそのまま歩き出した。
マリーズはただそれに従い歩く。聖堂の扉を出たところで扉が閉められた。
ラファエルが近くの護衛に何か言っている。護衛は頷くとどこかに消えていった。
この後は披露宴だ。ラファエルを見るとラファエルもこちらを見ていた。
「また後で」
それだけ言うとラファエルは去っていった。
マリーズは涙を堪えて控室に一人戻った。
「マリーズ様?」
戻ったマリーズの様子が変なことに気付いたメグが声をかけてきた。
ぐっと涙を堪えると明るく聞こえるようにあったことを話した。
「式場にね、ホランがいたんだけど、驚くことに白いドレスを着ていたわ」
「え!そんな非常識な!」
「本当に驚いちゃって。執念深いにも程があるって思ったわ」
「いやいや、執念深いというかなんというか。それでバルべ侯爵は式に出ることを許可したっていうのが常識的にどうなんですか?」
「周りに誰もいなかったの。一番後ろに座ってて。あのまま披露宴に出る気かしら?」
「それはあんまりです!衛兵に叩き出してもらいましょう!」
「ふふ、そんなわけにはいかないわよ。出席するならすればいいわ。私は私のやるべきことをするだけよ」
三人で大公城に戻ると簡単にドレスや髪を直す。その時にマリーズは髪はハーフアップに変えてもらった。
ホランが結い上げていたからだ。
髪に白い小花を散らし、ダイヤを外すと全てルビーに変えた。一粒ずつ、ルビーの首飾りと耳飾り。もちろんラファエルの目の色だ。
ラファエルに紫の物を見に付けて欲しいとは言わないが自分は身につけたい。
四年ぶりに会ったラファエルは初めて見る人のようだったが、不思議とマリーズに対して嫌悪や怒りを感じることはなかった。
ラファエルなりにこの結婚をある程度受け入れているのだろう。そう判断したマリーズはラファエルの為にできることをしたい、そんな感情が突如芽生えた。
お互い望んだ結婚ではないかもしれないが、これから共に歩んでいくにはお互いを知り、助け合う事が必要だ。
まずはマリーズがラファエルに歩みよって関係を構築して行こう。
マリーズがそう決意を新たにした時にゴードンが呼びに来た。
大公城で行われる披露宴の食事は全て、城下のレストランで作ったものを運び込んだそうだ。さすがにあれを来賓に出すわけにはいかないからだ。
ゴードンの後ろを付いていき、披露宴会場の扉に行くと既にラファエルが待っていた。
「お待たせ致しました」
「いや、問題ない」
扉が開かれ拍手の中マリーズはラファエルの腕に手をかけると歩き出した。
もちろん笑顔を浮かべて。
貴賓席に座ると次々お祝いの言葉を述べに人々がやってきた。
マリーズのことを愛らしいとか美しいとか言いながらも目の奥では探るように見ているのが伝わってくる。一人ずつ名前と顔を覚え笑いかける。
それに耐えながらどれだけ経っただろうか、ジョフロワ公爵家の番になった。
「大公殿下、大公妃殿下、この度はご結婚おめでとうございます。大公家の更なる繁栄を心よりお祈り申し上げます」
代表で父が寿ぎの言葉を述べる。
「娘はちゃんと育てたつもりです。どうかよろしくお願いいたします」
父の言葉に涙が溢れそうになった。
しかし今は泣くところではない。様々な人がこちらを見ているのだ。
「ああ、とても優秀だと聞いている。期待している」
「ありがたきお言葉。マリーズ、しっかり努めなさい」
「はい、お父様」
ホランを見かけなかったので、ジョフロワ公爵家が最後かと思ったらしばらくしてバルべ侯爵家がやってきた。もちろん、ホランは白いドレスを着ている。
あちこちにダイヤやパールがちりばめられ豪奢なレースが波打っている。
下世話な話だが、値段で言えばマリーズの方が余程高いだろう。シルクの中でも一番の最高級品に一人の刺繍職人が幾日もかけて作りあげたものだ。
派手さに欠けるがわかる人にはわかるもはや芸術品のようなドレスなのだ。
一転ホランのドレスは高いだろう。あれだけの宝石を使っているのだから。だが所詮それまでだ。
あんなにレースを使ったドレスを着れるのは本来十代までだ。デザインに子どもっぽさが出てしまっている。
マリーズも背伸びしたデザインにしたから人のことは言えないが、ホランの年齢を考えればもっと上品さが欲しいところだ。
周りがこちらを注視しているのがわかる。
「ホランさんお久しぶりです。学園を卒業後領地にお住まいだと聞いておりました。
隣の領地になりますから夫婦共々これからよろしくお願いいたしますね」
マリーズは先手を打った。2年も領地に引っ込んでいたホランが何をしていたかわかっているぞ。学園でしたことと同じことをこの大公領でしたんだろう、と。それでもラファエルの妻は自分だと。
「ラファエル様。お久しぶりです。この後お時間をいただけますか?」
マリーズを一切目に入れず放った言葉に一気に会場がざわめいた。
ラファエルはこの後マリーズとのダンスの時間だ。それを自分にしてくれと言っているのだ。
家族の方を見ると義姉が扇で顔を覆っている。きっと怒りで表情が抑えられないのを隠しているのだ。
「大公様いかがですかな?」
バルべ侯爵までが非常識にも娘の言動に乗っている。
しばらくの沈黙の後、
「そのような時間はない」
とラファエルが言うのを聞いてマリーズは安心した。できれば直ぐに断って欲しかったが。
ラファエルはマリーズの手を取るとホランの横を通り中心へと進んでいった。
二人手を取り合い曲が始まるのを待つ。
美しい旋律が奏でられる中、マリーズはラファエルと初めて踊った。
学園に入る前に婚約が決まり、学園での舞踏会はいつもマルグリットと踊っていた。もちろんマルグリットが男性役だ。
王家の舞踏会では父と兄と踊ったことしかない。
初めて完全な異性と踊るマリーズは緊張しながらも優雅に踊ってみせた。
曲が終わると割れんばかりの拍手で、笑顔でダンスを終えることができた。
その後ラファエルがマリーズを紹介して回り、休憩とばかりに家族の元に連れて行かれると、他にも挨拶をしてくるといってラファエルは去っていった。
「マリー!なんなのあれ!どうしてホランがいるのよ!しかも白のドレス!!許せないわ!」
「レティシア、お腹の子に悪いからあまり怒っちゃダメだよ」
兄は過保護だ。妻のこととなると何でもかんでもしたがるので、家では呆れられているが、義姉もまんざらではないようなのでお互い様夫婦だ。
「だって、非常識にもほどかあるわ!しかもこっちは公爵家よ!礼儀をわきまえるべきだわ!」
「まだ諦めてないとは困ったものだな。何かあれば王都に連絡をよこしなさい」
父の言葉にうなずく。
「それにしても、そんなに大公妃ってなりたいものかしら?あんな姿を晒してまで。私だったら他の男を探すわね。だって面倒じゃない。選ばれませんでしたって大勢の前で言っているのと変わらないのよ。見ている方が恥ずかしいわ」
母があっけらかんという。
「はあ、陛下になんとお伝えするか。あまり言うと逆に言われるしなあ。でもこのまま放置するわけにもいくまい」
「そうだね。貴族間の争いはなるべく避けたいし。面倒なことはしないで欲しいよ。娘くらいちゃんと育てろって」
「まあ、子どもの頃から前大公にご子息の婚約者にと娘をとずっと打診してたらしいからもはや執念だな」
「でも前大公はそれを認めなかったんだろ?」
「陛下に選んでもらうとラファエル様が生まれた時から言ってらしたそうだよ」
「へー。じゃあ、バルべ侯爵は陛下に頼まないといけなかったんだね」
「バルべ侯爵家は領地経営のみで、王城での仕事は任されてなかったからおいそれと陛下にそんな大胆な頼み事はできんよ」
そんな風に話している間にラファエルが戻ってきて、家族と別れると披露宴が終焉を迎えた。
マリーズは一日の疲れを取るように湯に浸かり、メグによって念入りに洗われ、カレンによってマッサージを受けた。
薄暗闇の中、薄いシルクのナイトドレスに身を包みマリーズはその時を待った。
初夜である。
緊張で震える手を何度もメグが撫でさすり、ラファエル様に任せれば良いから落ち着くようにと言った。
そしてメグもカレンも出ていき一人。
落ち着かない。
昼間のホランの姿が目に浮かぶ。披露宴では家族に守られていたが、背中に刺すような視線をずっと感じていた。
でもマリーズは大公妃となり、今宵ラファエルの妻になる。
深呼吸していると廊下の扉が開いた。
明かりが差し込む中入ってきたのはもちろんラファエルだ。
しかしラファエルは夜着にもなっておらず、執務中に着るような服を着ている。ベッドに座るマリーズに近付くと上から見下ろしてきた。
「大公になって間もなくオレは忙しい。いづれ跡継ぎは必要になるが今はその時ではない。
オレに愛を求めるな。束縛もするな。最低限妻として尊重はする。
オレの邪魔になるようなことをしなければ好きにしていろ。大公妃としてすることもない。
大公妃用の金はフレデリックに準備させているから、無駄遣いしなければそれでやっていけるだろう。
仕事があるから失礼する。ゆっくり寝るがいい」
それだけ言うとラファエルは出て行った。廊下側の扉から。
この部屋はラファエルの部屋と中で繋がっている。開けたことは一度もないが。
そちらの扉を使えばもし外に誰かがいても、中で何があったかはわからない。
しかし、入ってすぐに廊下の扉から出ていかれると、大公夫妻は白い結婚と言っているのと同義だ。
もしかしたら本当に忙しくて今からまた仕事をするのかもそれない。
それでも、今子どもが欲しくなくても、初夜くらいは一緒にいて欲しかった。
噂は噂。真実はここにあると。
マリーズは立ち上がりクマのぬいぐるみを抱えるとベッドに座った。まるでラファエルの変わりだとでもいうように。
外が明るくなりメグたちが来るまで、ずっとそのまま泣くこともできずに感情を殺しクマに顔をうずめていた。
カチャリという音で中にいた全員が扉の方を見た。
「おまえマジで放置してきたの?可哀想だろうが」
アーロンの言葉にラファエルは少し苛つきを覚え答えた。
「だったらおまえが行ってやれ」
「いや、そういうもんじゃねーだろ?」
マリユスが頭を抱える。
「明日中にはお二人の間に何もなかったことが城内に知れ渡りますね。お辛いのはマリーズ様だけですが」
「今日くらい仕事は休めよ」
「充分休んださ。結婚式に披露宴。これだけやったんだ、仕事の遅れを取り戻したい」
「仕事は今日くらい休んでも問題ないくらいできている。おまえなんなの?あんな可愛い子ほったらかしにして」
「だから、そう思うのならおまえが慰めに行けば良いだろ」
「はあ。あんな噂、まだ気にしてるのか?本人に会ってみてどうだった?」
「どうも」
「嘘だろ?可愛くていい子だったろ?」
アーロンが信じられないという顔をしている。
「そう言えば、城下に精霊が現れたと噂になっています」
突如マリユスが話し始めた。
「子どもが大通りで馬車に轢き殺されそうになっているのを美少女が飛んできて助けたそうです。その時に魔法の薬を子どもに渡した。それを塗ると瞬く間に傷が治ったと。
大公が結婚するに当たって悲しいことが起こらないように精霊が助けに来たんだと。
この噂でもちきりです」
「もしかしてそれって」
「マリーズ様です。護衛に付いているゴードンに確認しました。
マリーズ様は悲鳴を聞くと正に飛ぶように走り子どもを抱えて助けたそうです。
その時に王都から持ってきたという傷薬を子どもの母親に渡しています。
庶民が使うものより高級なんでしょう。治りが早いのは。
そのような方が以前から言われていた噂のような方でないと思うのですが」
ラファエルがマリユスをちらりと見ておまえもそっちにつくのかという顔をしている。
「何にせよ、様子見だ。話はそれからだ。フレデリック、金は充分渡してやってくれ。公爵家にせがまれても困るからな。連日城下に出ているようだし。上がって来る請求書をみれば毎月どれくらい必要かわかるだろう」
「誤解のないように言っておくが、別にドレスや宝石を買っているわけではないらしいよ。侍女と城下を食べ歩きしながら見て回っているという感じだそうだ。たまに買い物をするのも安い物で欲しいものがあると買っているということだ。それらは全部マリーズ様のお財布から出ているそうです」
「侍女が代わりに財布を持って払うか家に請求書がいくものだろう?」
「そういうご令嬢が一般的ですね。でもマリーズ様は自分で財布を持たれて買われていたそうです。
まだ結婚もしていないのに大公家に払わすわけにはいかないとご実家からお持ちになられたのでしょう」
「そうか、おまえたちはあっちの味方になるんだな」
「味方とかそんなんじゃなくて、俺たちはおまえに幸せな結婚生活を送って欲しいだけ。
毎日、仕事仕事でさ。大公を継いで二年。お前は走り続けてきた。前大公に追いつくために。おまえのどこにも失策はない。上手く領地を運営している。
それが領民や大公家に仕える人間の評価として、おまえは慕われているんだ。
だからあんな噂が流れて、みんな怒ったり不満を持ったりしている。
だけど、あの子はそんなんじゃないと思うぞ。大切にしてやれよ」
「アーロン。おまえの言いたいことはわかった。だがオレはまだまだ足りない。やることがたくさんある。当分放置でかまわないだろ」
その場にいるラファエル以外が全員溜息をついた。
このままではいけない。何とかするきっかけが必要だと。