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食いしんぼ令嬢は調査する

 翌日マリーズは目を覚ますといつも通りにメグたちと朝の支度をした。今日着るのはドレスではなくワンピースだ。色々やりたいこともあるし、動きやすい方が良い。

 メイドに呼ばれ食事に行くとやはり一人だった。朝も忙しいというのか?逆にちゃんと食べているのか心配になる。

 そして気になっているのがメイドたちの空気だ。どうやらマリーズはあまり歓迎されていなようである。特に何をされるでも言われるでもないが、非難がましい目で見れることがある。聞けば良いのかもしれないが、聞いても素直に答えはしないだろう。

 そして案の定今朝も同じような食事だった。豚肉がベーコンにかわっていただけ。どれも味付けは塩である。量もマリーズには少ない。別に体を動かすには十分な栄養は取れているが、物足りないという気持ちに変わりはない。

「フレデリック。ラファエル様にお会いできるかしら?」

「大変申し訳ございません。予定が埋まっておりましてお忙しい為お時間は作れないかと」

 やはりか。結婚式まで会うつもりはないのだろう。

「そうお忙しいなら仕方ないわね。我儘を言ってご迷惑をおかけできないわ。

 じゃあせめて城下を見てきてもいいかしら?」

「城下ですか?それなら許可を取るまでもなくよろしいですよ。ラファエル様からはお好きなようにお過ごしになられるようにと言われておりますから。護衛をつけましょう」

「良かった。じゃあもうしばらくしたらでかけるからお願いね」

 マリーズは食堂を出ると自室に戻った。

 メグとカレンが揃うと今日の予定をマリーズは伝えた。

「二人ともきづいているかもしれないけど、どうも私、歓迎されていないみたい」

「それは何となくメイドの態度で気づいてました。慣れないだけかと思ったのですが、今朝私が使用人用の食堂に入ると騒がしかった食堂がピタッと静かになったんですよ。

 私に聞かれたなくない話をしていたのだろうと思いました。クロードには親切にしてくれる方がいますが、どうも私には近づかないでおこうとしている気がしました」

「そうですね。部屋付きのメイドも専属ではないです。マリーズ様とメグが食事に行っている間にメイドが掃除に来たのですが、私が見ている限りこの部屋の掃除はとりあえずしていますが丁寧さに欠けますね。ベッドメイキングと棚と机を簡単に拭いただけですからね。

 あれが普通ならここのメイドはこの程度のレベルと思うのですが、廊下や廊下の飾り物に関しては埃一つなく磨かれているのを見ると、この部屋に対してだけかもしれないです」

 マリーズは悲しいことにそれが現実だと受け入れるしかないようだ。

「やっぱりそうよね。私もそう思ってたのよね。

 カレンは城内を色々歩いて色々な人に話しかけてみて。あと、話している人がいれば聞き耳を立てて欲しいの」

「情報収集ですね!お任せください!ついでに素敵な男性を探しても良いですか?」

「ふふふ。もちろんよ。素敵な人が見つかると良いわね。昨日のアーロンはダメだった?」

「問題外です!どうみても武闘派ではないですよ。一応鍛えてはいそうですけどまだまだ鍛え方が足りません」

「はいはい。じゃあ理想の相手が見つかったら教えてね。楽しみにしているわ」

「メグは私と一緒に城下に行って欲しいの。欲しいものがあるのと、領民がどう思っているか聞けたらいいわね」

「かしこまりました。着替えた方がよろしいですか?」

「そうね。着替えてくれる?旅行に来たどこかの貴族の娘とその侍女って感じにしましょう。ではそれぞれ開始!」

「「はーい!」」

 号令とともにメグは着替えに行き、カレンはマリーズの髪型を直してくれた。

 マリーズは鞄を持つと実家から出る時に持たされたお金を入れた。持参金とは別に、大公家でマリーズが自由にお金が使えるようになるまでと渡されたものだ。それなりの額になるから掃除に入るメイドには絶対にバレない場所にメグたちが片づけてくれたのだ。

 戻ってきたメグとともに部屋を出るとカレンに手を振り馬車へと向かった。

「マリーズ様。こちらのゴードンが護衛につきます。腕は確かなのでご安心を」

「よろしくねゴードン」

 ゴードンは黙って騎士の礼をとった。

「では行ってきます」

「お気をつけて」

「町に向かってくれる?」

 御者に伝えると返事が返って来たのでそのままローランサン大公領の城下に着くまでの間流れる景色を見ていた。


 城下は賑わっていた。 馬車止で御者に待たせている間に使うようにと銀貨を渡しメグと歩き出す。後ろからゴードンが黙ってついて来ていた。

 カフェや食堂があちらこちらにある。どこからもいい匂いがした。

 公園の側で露店を数軒見つけるとその一軒に近づき何が売っているのか見てみると牛串だった。マリーズは躊躇わず三本買うとメグと恐縮するゴードンにも渡し、自分の分にかぶりついた。かぶりつたといってももちろん上品さを失わない程度にだが。

「美味しい!このタレ美味しいわね。スパイスが甘辛くて」

「お嬢さん観光かい?うちの秘伝のレシピで作ったタレはどんな肉も旨くするのさ」

「凄いのねおじさん。これは牛でしょ?そっちは何かしら?」

「こっちは鴨だよ。鴨もうまいぞ!」

「じゃあいただくわ」

 マリーズはペロリと牛串を食べると鴨肉に挑戦した。

「確かに美味しいわ!同じタレなんでしょ?でもお肉が違うだけで全然風味が違うわ」

「そりゃ良かった。同じタレでも素材で漬けるタイミングを変えているのさ。舌の肥えたお嬢さんだ。しかも良い食べっぷりだね」

「おじさんはずっとここで店を出しているの?」

「ああ、ずっとここだな。他のこの辺の店のも旨いものばかりだよ。良かったら試してみな。

 もうすぐ大公様が結婚するから客人がいっぱいくるからってんでどこも新商品を出してるよ。ちなみにうちの新商品はさっきお嬢さんが食べた鴨肉さ」

「へえ、そうなのね」

「まあでもあれだなあ。我儘公爵令嬢って話だから領民はみんな心配してんのさ。

 オレたちが汗水垂らして稼いだ金で贅沢三昧されたらたまったもんじゃないからさ」

 そこでゴードンがマリーズを自然に店から離そうとするのを押し退けて店主に尋ねる。

「その我儘公爵令嬢ってもうローランサン大公領にいるの?会ってみたいわ。きっと顔もキツイ顔をしてそうね」

「何でも隣のバルベ侯爵家のご令嬢と大公様が結婚するはずだったのに、陛下に無理を言って自分を大公妃にしてくれるように頼んだらしいよ」

「え!そうなの?知らなかったわ」

「この辺じゃ有名な話だ。うちみいたに肉を扱う業者はみんな知っているさ。大公領は農産品、バルベ侯爵領は畜産品でお互い交流しあっているからね。両家が結婚して関係が深まれば肉類の関税が安くなって儲かるのにってさ。

 実際にバルベ侯爵側からは何度も打診してたらしいだよ。オレが聞いた問屋の話では。まあ、結局王命には逆らえないってことだな。っかあ!もっと儲かるかとずっと期待してたんだがなあ」

「そうなんですね。持ちつ持たれつの関係だったんですね」

「まあでもこっちは大公領だから肉なんてどこででも仕入れることができるくらい取引先はあるんだけどな。やっぱ隣の領っていうのは流通面でも楽で助かるんだよ」

「おじさんは詳しいですね。美味しいお料理を作るだけではなく仕入れや流通にも詳しいなんて凄いです」

「お嬢さん、舐めてもらっちゃ困るよ。それが商売人ってものさ。利益を生むためにはどうすればいいかって考えるのが普通ってもんさ。お嬢さんみたいな人には難しいかもしれんがな」

「いいえ。大変勉強になりました。ありがとうございました。また来ますね」

 マリーズは店主に手を振りその場を離れた。その間ずっとメグの眉間にしわが寄っていたが後で撫でて治してあげないととマリーズは考えていた。

「あのマリーズ様・・・・」

 ゴードンが何か言いたそうにしているが今はそれどころではない。他にも行かないと。

「今度はあのカフェに入りましょう」

 マリーズはどんどん歩いて行く。

「こんにちは。席は空いているかしら?二名で」

「お嬢様方どうぞこちらへ」

 ゴードンには外で待ってもらいメグと一緒に席に座った。

「なんなんですか、ここの領民は!我儘公爵令嬢だなんて」

 メグが声を潜めて言う。

「それは後で良いから注文するわよ」

 マリーズとメグはそれぞれケーキと紅茶を頼むと静かにして周囲に聞き耳を立てた。

「聞きまして?昨日あの我儘公爵令嬢がとうとう領地に入ったそうよ。豪華な馬車だったらしいわ。さすが公爵家よね」

「大公城で働いている人に聞いたんだけど、凄い荷物の量だと思ったらそんなでもなかったって。大公様に買わせようとしているんじゃないかって心配していたわ」

「まあ!大公領のお金目当てに荷物が少ないなんて公爵令嬢とは卑しいものね」

「本当に。バルベ侯爵家のご令嬢だったらこんなことにならなかったでしょうに」

「噂で聞くにはとても美しくて謙虚なご令嬢だとか。替えて欲しいわ」

 フォークを握ったメグの手が力み過ぎてフォークが折れないか心配になってくる。

 マリーズも嫌な気持ちを必死に隠しながらケーキを頬張るともう一つ頼んだ。

 周りで話しているのはそれなりに裕福な商家の娘たちだろう。

「いくら公爵令嬢っていってもねえ。まあでも、父親は現宰相様でお兄様は次期宰相様でしょ?家柄では全く問題ないもの。王家との結びつきを考えると妥当なんでしょうけどねえ。

 我儘ってどのくらい我儘なのかしら?金銭感覚が狂ってなければ良いけど」

「本当に。後使用人に酷く当たるような人だと可哀想だわ。だってただでさえ今の大公城はメイドの数が少ないんだから。我儘公爵令嬢のせいでなり手がいなくなると大公様が困るもの」

「何にしても迷惑な話よね~。バルベ侯爵家のホラン様ならこんな心配しなかったのに」

「この婚約が決まってからずっとみんなそればっかりよね」

 まだ我儘公爵令嬢の話をしている。

「メグ行きましょう」

 二人は会計を済ませると店を出た。

 メグの表情に思うところがあったのかゴードンが不安そうにしている。

「買いたいものがあるからお店を探さないと」

 マリーズは敢えて明るく言うと歩き出した。

 しばらくすると目的の店らしきものが見えてきた。

「ああ、あったあった。王都にあるお店の支店ね。さすが大公領だわ」

 マリーズは店に入ると辺りを見回した。欲しい者揃いである。

 そこは調味料や香辛料などの店で、マリーズは持ってきたメモを片手に次々に購入籠の中に入れた。

 大公領に行っても美味しいサラダが食べられるようにと公爵家の料理人がレシピを作ってくれたのだ。これがあれば材料を揃えて混ぜるだけで美味しいドレッシングが出来上がる。 

 他にもお肉にかける美味しいソースやスープや煮込み料理など、マリーズが大公領に行っても王都の味が恋しくなったらいつでも料理人が作れるようにと渡してくれたのだが、その料理人がいないのだから、やることは一つ。

 材料を買って自分で作るのだ。大公領の料理人に伝えられるようにと料理長は料理の仕方も全部教えてくれた。そしてマリーズ自身で説明できるようにとマリーズと一緒にメグとカレンも仕込まれたのだ。

 いずれ自分が大公城の料理を作る。あれでは体に良くない。

 美味しいと思えるものを食べるのは心の豊かさにも繋がるのだ。と、これは料理長の言葉である。

 自宅があって自炊をしたり、食べに出かけたりとする人たちもいるだろうが、基本三食大公城で食べる人ばかりだと聞いている。もちろん公爵家でもそうだった。

 毎日塩味だけのものをこの二年食べ続けた大公城の人たちはある意味凄い。飽きないのだろうか?と思ってしまう。

 だから自分が改善しないと、とマリーズは思った。人一倍食に拘るマリーズは周りの人にも美味しいものを食べて欲しい。できうれば一緒に食べて欲しい。そうすれば楽しい空間ができるのだ。

 マリーズは決意も新たにたくさんの調味料を買った。

 店を出るとゴードンがその荷物を持ってくれた。ありがたい。持って帰ることを忘れて買い過ぎてしまったのだ。

 三人で帰るべく大通りに出て歩いている時だった。

 近くから悲鳴が聞こえ振り向くと道の真ん中に座り込んだ子どもが突進してくる馬車に恐れをなして立てずにいるのが見えた。

 マリーズは迷うことなく飛ぶように移動すると子どもが怪我をしないように抱え込んで道の際へと転がった。

 馬車は離れたところに止まると中から男が一人顔を出し怒鳴りつけてきた。

「死にたいのか!この紋章を見たら道を開けろ!次にわしの馬車の前に出てきたらそのまま轢き殺すからな!」

 叫ぶだけ叫ぶと馬車は去って行った。

 周りでは拍手喝采が起こっている。

「マリーズ様!」

 メグが駆け寄って来るのがわかった。腕の中では少年がわんわん泣いていてそこへ母親らしき人が近づいてきた。

「ありがとうございます。ありがとうございます。ちょっと目を話した隙に道の真ん中にいて」

「坊や、痛いところはない?」 

 マリーズが怪我していないか確認すると手の甲にすり傷がありそこから血が出ていた。泣いているのは恐怖とそれが痛いからだろう。

 マリーズは鞄から塗り薬を出すとその傷に塗った。

「どこのお嬢様かわかりませんが。本当にありがとうございました。何とお礼を言って良いのか」

「この薬は王都で売っているとても傷に効く塗り薬なの。治るまで一日何度か塗ってあげて」

「まあ、こんなものまでいただくなんて。なんとお礼を言えば」

「泣いているお子さんが早く痛みから解放されることを祈るわ。

 それからお礼なんかいらないから教えて欲しいんだけど、今の馬車は誰の馬車なの?凄い剣幕だったけど」

「お嬢様はご旅行で?あれはドリンガ商会の馬車で乗っていたのは商会長です。バルベ侯爵領で肉類のほとんどを請け負っている商会で、大公領に来てもいつも我が物顔で有名です。

 お嬢様に助けていただかなければ本当にこの子はあのまま轢き殺されていたでしょう。そうしてもバルベ侯爵領に逃げ込めば前に飛び出してきた子供が悪いと言って逃げたでしょうしね。

 大公様も他領についてはあまり口を出しません」

「そうだよお嬢ちゃん。勇気があるねえ。ドリンガ商会は大公領が鶏肉以外を育てないのをわかっているからいっつも偉そうなんだよ」

「どうして鶏肉以外育てないのかしら?」

「大公領は年中野菜も果物もとれるだろ?おまけに鉱山もたくさんある。そこに牛や豚も育てたら完全自給自足ができちまう。

 そうなると王家に反逆を疑われかねないから歴代大公様は非常事態の為の鶏肉のみ育てて他は他領から仕入れているんだ。他領のことにも口を出さない。味方を増やしていると思われないようにするためさ。

 それを良いことにドリンガ商会はいっつもああやって偉そうなのさ。あっちだってうちの野菜がないと穀物も少ししか取れないくせに。

 大公領ではみんな知ってる話さ」

 それは勉強不足だった。牛や豚を育てていない領地はたくさんあるからその一つだろうくらいにしか思っていなかったがそんな理由があったとは。

 確かにバルベ侯爵領は畜産業がほぼ全てだ。土が悪く作物が育ちにくいのに反して平な土地で、それを生かして畜産業に力を入れている。それがこんな弊害になっているとは。

「教えてくれてありがとう。さあ、私はもう行かないと」

 それじゃあねと手を振って涙目のメグを連れてその場を去った。

「マリーズ様!あのような危険なことはお止めください。私の心臓がいくつあっても足りません。万が一のことがあったら公爵様方にどんな顔をして会えば良いのか」

「あれくらい平気よ。私だって余裕だって思ったから行ったんだから」

「そんなことおっしゃって!本当は咄嗟に体が動いただけですよね!私の目は誤魔化せませんよ!」

「もう、メグったら。気を付けるわ。でもあの子が助かって良かったわ。お義姉様からもらった薬も持っていて良かったわ」

 そこでゴードンが話に入ってきた。

「マリーズ様は何か特別な訓練を受けられたのでしょうか?自分が言うのも何ですが、僕ではあの場に間に合いません。

 マリーズ様が飛び出した時僕は首を撥ねられる覚悟をしました」

 ゴードンが心底驚いたという顔で聞いてくる。

「特別な訓練なんて受けてないわよ。ただ、王都で学園に通っている時に剣術の講義を受けていて、その一環で素早く動く練習もしただけよ。ほら私小柄で軽いでしょ?だからゴードンとかより素早く動けるだけよ」

「いやいや、そんなレベルでは」

「マリーズ様は剣術もお得意です」

 メグが先程までとは打って変わって我が事のように自慢気に言っている。

「そうなのですか?一度手合わせ願いたい」

「もう良いでしょ。さあ早く帰りましょう」

 マリーズは二人を促し馬車止へと向かった。


 自室まで買ったものを運んでくれたゴードンと別れるとしばらくしてカレンが戻ってきた。その顔は険しい。

「どうだった?」

「どうもこうもないですよ!マリーズ様のことを我儘公爵令嬢と噂しています!輿入れの荷物が少なかったのは早々に大公様に宝飾品をねだるつもりじゃないかとか。

 今の所何も言われてないけど、結婚式が終わったら本性を出すだろうとか。

 残りの荷物は後から来られる公爵様たち一行が持って来ることになっているし、ウェディングドレスだって後から来るのに!

 だから食事中にちょっと仲良くなったメイドに、公爵様たちが最後の仕上げを終えたウェディングドレスを持って来られるんだって話をしたんですよ。そしたら隣のテーブルのメイドに大公様に買ってもらえなかったのか?って笑いながら言われて腹が立っちゃって。

 マリーズ様は小柄だから細かい採寸を大公領ではできないからこっちで採寸してオーダーメイドを作りますって連絡をしたんだって言ってやりましたよ!そしたらそのメイドがムッとした顔してましたけどね!本当にもう、あちこちでムカついて」

「カレンありがとう。悪いんだけど明日もお願いできる?」

「もちろんです。仲良くなったメイドはこの話を聞いてマリーズ様専任メイドになりたいって言ってましたよ。隣のテーブルのメイドとあまり仲が良くないみたいでした」

「あらまあ、一枚岩って感じではないのね」

「マリーズ様。何かおかしいですよね?マリーズ様が我儘公爵令嬢だなんてありえないことが噂になっているなんて。どこからそんな話が出たんでしょう?」

 メグの言葉にマリーズは身に覚えがありまくることを口にした。

「私がラファエル様と結婚するのが気に入らない人がいるのよ。自分が先にラファエル様と出会って一瞬で二人は恋に落ちたそうよ。

 それなのに私が陛下にお願いして大公妃に選ばれたって思っている人が未だにいるの。四年も経つのに」

「それってもしかして、学園に入学された頃おっしゃってた話ですか?」

「そう。未だに気に入らないのね。大公妃に余程なりたかったんでしょ。私は王命に従っただけなんだけど、何故か私が奪い取ったと思っているのよ。」

「ああ、そういえば、そんなことありましたね。でもそんなに愛し合っているなら、陛下に言えば何とかなったんじゃないですか?」

「私もそう思う。別に私は王女じゃないからね。陛下に王女がいないから大公家に嫁ぐには次位の公爵の娘の私が指名されただけなんだけど。

 王妃様のご実家のアルゴン公爵家はもう皆さん当時ご結婚されてたからね。私しか余ってなかったのよ。だから年齢差も6歳あるでしょ?

 ラファエル様にしたら子どもと娶せられたとでも思ってらっしゃるかもね」

「マリーズ様!そのようにおっしゃってはいけません。マリーズ様は素晴らしい淑女です。我儘公爵令嬢なんかではありません」

「そうですよ。でもじゃあ、この城内も城下も、もしかしたら領内もそう思っている人がいるってことですか?」

「そうねえ。今日の感じだとそう信じている人が多そうね。2年間みっちりネチネチ大公領に噂をばら撒いていたんじゃない?」

「迷惑な話ですね」

「でも本当にラファエル様と愛し合っているなら当然よね。どうにかして大公妃の座を狙いにいくんじゃない?ラファエル様も王命だから受け入れたけど、もしかしたら数年で離婚ってことになるかも」

「そんな!マリーズ様は何も悪いことをしていないじゃないですか!」

「それにさっきも言いましたが本当に愛し合っているのですか?後から離婚までして公爵家に嫌われるくらいなら先に断りを入れた方がよくないですか?」

「そこなのよね~。でも今日聞いた話では、歴代大公様は王家に離反の意志はないことを示すために色々されているのよ。だから王命に従っただけで心はどうなのかしら?

 もしかしたら本当にいずれ離婚されるかもしれないわ。

 まあでもとりあえず大公妃は私になるんだから、やれることはやるわ。明日からも色々しないといけないことがあるからよろしくね」

「はい。もちろん私たちはマリーズ様の味方ですからね」

「ありがとう。二人とも」


 その頃城下では、小柄でとんでもない美少女が羽が生えているかのように飛んできて、大通りで馬車に轢き殺されそうになった子どもを助けたと話題になっていた。

 旅行客らしいが、どの宿にもその姿がないからその日のうちに大公領を発ってしまったのかと残念がる人が多かったらしい。一度見てみたかったようだ

 ただ、わずかな時間の出来事であることと輝いて見えていたことで、実際にその場にいて顔を覚えているものはあの親子以外いなかった。

 その為噂は噂を越え、その少女はもしかしたら精霊だったのではないかと言われるようになるのに三日しかかからなかった。

 その間もマリーズは城下に出ていたにも関わらずに。

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