妻にメロメロ大公、食いしんぼ大公妃に叱られる
朝、ラファエルが目覚めるとマリーズのうなじが目の前にあった。どうやら後ろから抱きしめたまま眠ったらしい。白いうなじをぺろりと舐めるとマリーズの小さな声が聞こえた。風邪をひくといけないと布団の中にマリーズを引き込み、その柔らかな体を抱きしめ直すとラファエルは昨夜のことを思い出し、にまにまするのを止められなった。
初めての時、慣れていないのは当たり前だがマリーズはラファエルにされるがままだった。その後もまだ慣れない感じが初々しくて愛しさと共に嗜虐心が湧き、ラファエルは思うまま一方的に思う存分その体を味わっていた。
そんなマリーズが最近少し慣れて来たのかベッドの上では色香が増し、ちょっとした反撃をしてくるようになったのだ。
不意打ちで口づけをしてきたり、昨日は耳をしきりに触ってきたのだ。細い指にくすぐられ、ラファエルが何故耳を触るのか?と問いかけると形がカッコイイから好き、と言う。だからカッコイイのは耳だけか?と問うと、ラファエル様は全部カッコイイと言う。しかもラファエルの腕の中切れ切れの声で。
これはこれで良いとラファエルは約束も忘れて頑張ってしまった。
「起きたらどうしよう、怒られるのか?」
そう思っていたらマリーズの目が開いた。
「おは、、、、」
そこまで言いかけてマリーズは慌ててぐいぐいとラファエルの腕の中から出ると転げ落ちるようにベッドから降り、側に落ちていたラファエルの夜着を羽織った。そしてたぶたぶとさせながら腰紐を締めるとサイドテーブルに掴まりながら立ち上がりラファエルを指差した。と言っても袖が長くて指先が見えていないからそうだろうと思うだけだが。
「ラ、ラファエル様。約束を破ったので今日から一週間お相手しませんからね!
ラファエル様はラファエル様のベッドでお眠りください!」
「ちょ、ちょっと待て!一緒に寝るのもダメなのか?!」
「だってもう約束を破ったのです。一緒に寝ていたらまた約束を破るかもしれません!」
マリーズはふんと横を向いた。相当お怒りのようだ。確かに途中からもう止めてと言っていたが止めなかったのはラファエルだ。
「マリーズ、すまなかった。だから一週間何もしない。だけど一緒には眠らせてくれ」
マリーズは横を向いたままだ。これはまずい。マリーズの側で眠れないなどとあってはならない。何が何でも回避しなければ。
「マリーズ。悪かった。もうしない。約束は守るから、頼むから一緒に眠らせてくれ」
マリーズの足がふるふると震えている。立つのもやっとなのだろう。
ラファエルはマリーズを抱き上げベッドに座ると、マリーズを見下ろした。艷やかな金色の髪を撫で「頼むから」と言うとマリーズがくすくす笑い始めた。
「そんなに怒ってませんよ!でも約束は約束なのでなし崩しにはしません!でも一緒には寝ます。
私も淋しいから」
そう言うマリーズは一際可愛くて抱きしめたまま離したくないとラファエルは思った。
ぎゅっと抱きしめる力を強くする。
「ラファエル様痛いです」
マリーズが訴えてくるがラファエルはその手を緩めたくない。
「もうしばらくこうやっていさせてくれ」
「もう。しょうがないですね」
結局マリーズがやはり折れてくれた。
この2年ラファエルは怒っていた。ずっとという訳では無いが、マリーズの話を耳にしたり、マリーズから手紙が届くと心の中が冷たく怒りが溢れる思いをした。
初めて会った時に真っ直ぐ自分を見てきたあの少女はどこに行ったのか?と更に怒りが増した。
さすが公爵家の令嬢、完璧な淑女の所作で挨拶をし優しく微笑む少女はいつしか怒りの対象になっていた。ラファエルはマリーズに初めて会った時に子どもだなと思いながらも好印象を持っていたのだ。
彼女なら大公妃として立派に務めてくれるだろうと。
しかし2年経った頃から悪評を耳にするようになった。王都にいたという人物がそう言っていたのだ。
他にもいつの間にか城下でも城内でもその話で持ちきりになり、最後には妹を傷つける発言をしていたことを知らされた。
それからマリーズへの心は閉ざしたのだ。
しかし実際にマリーズに会ってみて違和感を感じた。それは小さな事からだったが、だんだん大きくなり、いつしかマリーズがラファエルの中に住み始めた。結局直接確かめ、マリーズの言うことが真実だと思いマリーズを信じた。
それからもっとラファエルの中に住むマリーズは大きくなり、そして氷のようだったラファエルの心を溶かし温めてくれた。
花を見れば美しいと素直に言葉にし、木に止まる鳥を見て可愛いと思い、空を見上げて天気が良ければ喜んだ。今もマリーズは住み続けている。
噂に惑わされたラファエルが悪い。ちゃんと真実を見極めなかった。だから自分は断罪される人間だ。
だがその前にこんな嘘を流しマリーズを苦しめた人間には報いを受けさせる。
ラファエルはそう誓いマリーズの頬に頬を寄せた。




