番外編 食いしんぼ大公妃の二人の侍女の役割分担
メグとカレンではメグが2年先輩だ。侍女育成専門学院で1年被っている。
メグは美人な上優秀で有名だった。後輩たちの憧れだったのだ。もちろんカレンも。
誰もが王宮勤務をするだろうと思っていたからジョフロワ公爵家に就職したことに驚いた。
稀にしか出ることのないジョフロワ公爵家の侍女募集は確かに魅力的だが難関だ。それに受かるとはさすがだと誰もが思った。
そして働き始めて間もなく結婚したメグが何故ジョフロワ公爵家を選んだのかもカレンはわかった。
メグの夫は幼馴染の王宮勤めだということで同じ職場を避けたのと、ジョフロワ公爵家は使用人に対して手厚い待遇があるからだ。
カレンはさすがメグ先輩は先を読んているなと思ったのものだ。
そして2年後、カレンの就職の時も珍しくジョフロワ公爵家の募集が出たのだ。こんな短期間に出ることは滅多にない。
カレンは迷いなく応募すると見事採用されたのだった。
それからずっと一緒にマリーズ付き侍女をしている。
始めカレンはメグのようになりたいと思ったが、そもそもの性格が違う。カレンではメグになれない。
それならカレンはカレンらしくマリーズに仕えようと思った。
メグがマリーズをメインで補佐し、カレンはそれを支える。メグがマリーズの髪を結っている間にカレンが化粧をする。そんな風に。
その他にもお互いの性格を考えて行動し、いつしか連携が取れるようになっていた。正に阿吽の呼吸だ。
大公城でもそれが生かされた。メグがマリーズに頼まれたことをしている間にカレンは情報収集に努めた。
貴族の世界は情報戦だ。上手く正確な情報を掴み、また上手く情報を流す。
カレンはこれに長けていた。
「カレンはいつも凄いわ。どうやったらそんなに情報が集まるのよ。私には無理だわ」
メグが褒めてくれるとカレンは嬉しい。
「メグこそ人を上手く使うじゃない。仕事も早いし」
「私のは習ったことを実践しているだけよ。カレンは行動力が抜群だわ」
「ロリアンはどんな子に育つかしらね」
カレンの言葉にメグは考え込んだ。人を育てるのは難しい。実際に子育てしているメグは壁にぶち当たることも多々ある。
でも子育てと仕事を教えて育てるのは全く違うものだ。
「二人で協力してロリアンにしかなれない侍女に育てましょう」
そう言うメグにカレンはうなずいた。
「じゃあちょっとマリーズ様に頼まれたことをしてくるからここは頼んだわよ」
わかったと手を振るカレンはこうやってメグに頼られるのも嬉しい。メグはいつまで経ってもカレンの憧れだ。
そんなメグはマリーズの手足となり仕事をするのが好きだ。何故ならマリーズは人より何事も真剣に多く頑張る。朗らかに笑い、周りを明るくする。そんなマリーズを泣かせる人間は許さないと決意している。
何故ならいつも侍女にもメイドにも優しく、仕えたいと思わせるものをマリーズは持っているからだ。
今日はとにかく忙しい。王都のマリーズの義姉に経緯を説明した手紙を書き、それを早馬便で出しに行く。
そしてロレッソとマーサのところに行き、密かに逃亡するための準備を整える。
両方貸家で良かった。持ち家だと逃げるには時間がかかってしまうから。ロレッソに至っては店を持たせてもらったというが、店の持ち主はあの女だ。これでは雇われ店長なだけ。売り上げもだいぶ取られていたようだ。
ジョフロワ公爵家に着いた時に見せる書簡も渡した。
難しい仕事に見えるがメグにかかれば簡単にこなしているように見えるだろう。実際優秀過ぎてどちらでもあっという間に準備が整った。
路銀も確認し、念の為渡されていた分を使って補給もした。
メグはマーサを見送った時には心地よい疲労感を感じていた。
「マリーズ様の為になることができたわ」
そう独りごちるとメグはマリーズの元に戻った。
最近マリーズとラファエルの関係が変化してきた。これはチャンスだ。
マリーズを正真正銘の大公妃にする。
これは結婚式の翌日、カレンと二人で誓ったことだ。
三年前学園に入学したマリーズが置かれた状況と同じことが、学園以上の規模で起こっていたのだ。
マリーズが大公家に嫁ぐ為にどれたけ努力したかを間近で見てきた。
こんなこと許せるわけがない。二人で現状を回復するべくそれぞれのやり方で行動することにした。
そして漸くやってきたこのチャンスだ。
いずれこの二人は本当の夫婦になる。これは確信している。
メグは思った。カレンもさっさと結婚して乳母になってほしいと。
その為にやることもできたなとメグは楽しい未来を想像し仕事を再開した。