食いしんぼ大公妃とほったらかした大公の夜の過ごし方
マリーズが厨房で夕食の手伝いをしているとメグが戻ってきた。
「どうだった?」
「お姉さんの家まで送って行って説明してきたのですが、お姉さんが大変心配されまして、この状態で離れた場所で暮らすのは心配だから、大公領じゃない場所で療養するなら自分も一緒に行きたいと。
お義兄さんも自分は大工だからどこでも仕事を探せるから直ぐにでも離れたいと言ってます。マーサは着いてからずっと泣いて怖がってましたからね。
それからマリーズ様に大変申し訳ないことをしたので謝罪したいとも二人が言っていました」
「そう。じゃあお義姉様に連絡しておいてくれる?早便を使ってね。それから、もらったお金は使えば良いのよ。返す必要なんてないわ。指示に従って言われたことをしたんだから正当な報酬よ。
慰謝料として使えば良いの。それを使って一日でも早く王都のジョフロワ公爵家に向かわせて。
着く頃にはお義姉様が準備しておいてくれるでしょうから」
「かしこまりました。そのように手配します」
「メグ、私をお人好しだと思ってるでしょ?」
メグが困った顔をしてこちらを見ていたので聞いてみた。
「そうですね。ここまでする必要はあるのかとは正直思いますが、あの二人を大公領から出すのには賛成です。
あの女の手の者がいなくなれば必然とマリーズ様の悪い噂は消えていきますから。
これからどんな手を使って来るのかわかりませんが、これまでの手は封じておけますしね。
それに、マリーズ様が面倒見が良いのはよくわかっていますから。放っておくことなんてなさらないとは思っておりました」
「そうね。でも私の為でもあるのよ。完全な善意でやっているわけではないの。だから謝罪とか今更いらないわ。無事逃げてくれればいいのよ。
それに、もう好きにさせないって決めたの。私の将来だもの」
「その意気ですよ」
メグに励まされてマリーズはほほ笑むと手を動かし始めた。
ラファエルから仕事が忙しいから一緒に晩餐は摂れないと連絡が来たのは夕方前だ。今まででは考えられないことだ。一緒にという連絡はあっても一緒に摂れないと連絡が来たのは初めてなのだ。
フレデリックに確認したら、夕食を摂らずに仕事をして、マリーズと一緒に部屋で焼き菓子を食べるのを夕食代わりにすると言っているそうだ。
そこでマリーズはそんなことはさせられないと考えた。
焼き菓子は美味しいがあくまでもお菓子で夕食の代わりになど以ての外だ。
それならその時間に簡単に食べられるものを作ってはどうかとマクギーに相談した。
するとそば粉のガレット巻はどうだと言われたのだ。
そば粉に水と卵と塩を入れて混ぜ、フライパンを使って薄い生地を焼く。それを何枚か作り、今日の夕飯のメニューから包めるものを選んで載せてくるくる巻いて両端を折る。それだけで立派な夜食になるのではないかと。
マリーズは皿洗いをしながら生地を焼くのを繰り返した。そして残り物で申し訳ないと思いながらも皿から包むものを選ぶ。
まずはチキンのソテーに粒マスタードを使ったソースをかけレタスを載せたものを二つ。厚切りハムとチーズとトマトのを二つ。サラダの横に輪切りにされていた卵を更に細かく刻んでマクギー特製のソースと混ぜ合わせたものとベビーリーフを和えて巻いたものを二つ。
簡単だが手に持って食べられるので便利だ。
「ありがとうマクギー」
「いいえ、それもマリーズ様がお好きなものをアレンジしたものですからね」
「そうなの。王都では小麦粉を使っていたの。大公領はそば粉が取れるからそば粉は体にも良いし、お昼の定番メニューにするのも良いかもしれないわね」
「良いですね。先日小麦粉のを出したのですが、結構評判が良かったんですよ。一度小麦粉とそば粉の両方で出してみて反応を見てみます。
大公領ではそば粉は水で練って湯がいてスープに入れて食べるか、捏ねて蒸して甘いたれをかけて食べるのが定番でしたから新しい発見です」
マクギーはこの一か月でたくましくなった。心も体も。一気に身長が伸び関節が痛いと言っている。マリーズにしたら羨ましくて仕方がない。
もう少し身長が欲しかった。その方がもっと色んなドレスが着られるのにと。
料理担当のみんなと食事を摂るのは今日が最後だ。食事をしながらみんなと笑って話し、また真剣に料理について語るのはとても楽しい時間だった。
だがもう、マリーズの手を離れる時が来た。いつまでもマリーズが見ていては他と差があると思われるので仕方がない。寂しい気持ちを押し殺す。
明日からは食堂で一人に戻る。ラファエルが一緒に食べてくれたら嬉しいのに。
マリーズはそう願いながら食事を最後まで楽しんだ。
「明日からは完全にみんなに任せます。とっても良い料理担当班が出来上がったと思っています。
体を第一に考えて、無理せず働いて欲しいです。
たくさん食べてたくさん眠り、そしてたくさん話し合ってみんなならではの料理担当班が完成するのを楽しみにしています。
怖いことを言うようですが、いずれ大公城でも晩餐会を行うことになるでしょう。もしそうなれば料理を作るのはみんなです。
私の披露宴の時のように城下から持って来てもらうなんて私はしませんよ!
みんなの実力がもっと上がるまで晩餐会はしません。みんなの成長を楽しみに待ちたいと思います。
それから、私の元に集まってくれてありがとう。とても感謝しています。
新しい仕事で苦労も多かったと思います。それでもみんなは付いて来てくれました。
本当にありがとう」
マリーズが挨拶すると拍手が起こった。
「感謝しているのは僕たちも同じです。マリーズ様のおかげで楽しく仕事ができています」
「そうです。料理がこんなに楽しいなんて思いませんでした。色々試せて楽しいです」
「食べている人たちの顔が明るくて見ていて嬉しくなります。そうさせているのは自分たちなんだなあって」
マリーズは最後の片付けまで手伝うと厨房を後にした。
部屋に着くとまだラファエルは仕事中のようだった。先に湯浴みを済ませましょうというメグたちに従って湯浴みをし肌を整えてもらう。
そしてワンピースに見えなくもない夜着を着せられると何だかドキドキした。こんな姿でラファエルの前に出なければならないのかと。
「何をおっしゃっているんですか。もう夜着姿は見られているのですから今更です」
カレンが楽しそうに仕上げとばかりに指先にクリームを塗ってくれる。
そして応接室に移動して待っているとしばらくしてラファエル側の中扉が開いた。
「遅くなってすまない。待たせてしまった」
「いいえ。そんなに待っていませんよ」
ラファエルも湯浴みをしたのか髪の先から雫がポタリと落ちた。
ローテーブルを挟んで三人掛けのソファーに向かい合って座る。マリーズの前にはユーリの店のパウンドケーキが一本そのままお皿に載せられたものが置かれている。その横にはカトラリー。
ラファエルの前には焼き菓子三種類とマリーズが作ったそば粉のガレット巻。
「お食事がまだだと聞いたので簡単なものですが今日の夕食の料理を使って作ってみました」
「マリーズが作ったのか?」
「作ったといっても、その巻いている皮、そば粉を使った生地だけです。他は料理担当が作ったものからもらって巻いただけですよ」
ラファエルがしげしげと料理を見ている。
「意外と器用なんだな」
ラファエルがぼそりとつぶやく。
「意外は余計ですよ、ラファエル様。確かに私は食べる専門ですけど、ちょっとくらいならやれるんです」
「すまない。侮辱したつもりはない」
マリーズの言葉に慌ててラファエルが訂正してくる。マリーズはそれがおもしろくて笑った。
「侮辱されただなんて思っていませんよ。本当は気にしてません」
「なら良かった。言葉には気を付ける」
マリーズの言葉に安堵の表情を浮かべるとラファエルは食べようと皿に手を伸ばした。マリーズもパウンドケーキにナイフを入れる。
「おい、まさか一本食べるつもりじゃないだろうな?」
「そのまさかです。このまま食べてみたいくらい美味しいんですよ。ラファエル様の前には切ったものが置いてあるのであとで召し上がってみてくださいね。
大公領で穫れるフルーツをお店でドライフルーツに加工して作っているんですって」
そう言いながらマリーズはサクサクと切ると口に放り込む。
「恐ろしい腹だな」
「そうですか?ラファエル様もお腹が空かれたでしょうから召し上がってください」
「ああ、いただこう」
ラファエルは手に取ると一口食べてみた。
「美味い。鶏肉と粒マスタードが合うな」
「良かったです。三種類ありますから他のもどうぞ」
ラファエルは一つ目を食べ終えると別のを手にした。
「これも美味いな。ワインが飲みたくなる」
「準備いたしましょう」
ラファエルの言葉に控えていたフレデリックがラファエルの部屋からワインの瓶とグラスを持ってきた。
ラファエルはそれを受け取ると次々に食べて行きあっという間に皿は空になった。マリーズはそれを見て作り過ぎたかと思ったが食べきってくれて良かったと笑顔を浮かべた。
「オレはワインはあまり飲まない方なんだがこの料理にはワインがよく合う。
マリーズ。また作ってくれないか?」
「え!良いですけど。きっと中身は変わりますよ?厨房のその時のメニューで作りますから」
「それで構わない。夜食が欲しい時は前もって伝えるから頼みたい」
ラファエルがマリーズを見てくる。
「わかりました。でも、事前連絡は絶対ですよ!」
「ああ善処する」
その後はラファエルに料理担当班が明日からマリーズの手を離れて完全に独立することを伝えたり、またその成長ぶりを力説したりと主にマリーズがしゃべるのをラファエルが聞いている光景が続いたが、ラファエルは嫌な顔をせず静かに聞いてくれている。
その後もマリーズは大公領に来て感じたことや思ったこと、楽しかったことなどを順番に心の赴くまま話した。
ラファエルから時折質問が入るが短い質問なのですぐにマリーズはそれに答えた。
「大公領のことをよく知っているな」
マリーズとの会話の中で感じたのかラファエルが聞いてきた。
「そうですね。婚約が決まってから淑女教育とか他の勉強もしながら結構大公領についても勉強したんです。何も知らずに嫁ぐのはダメだと思いまして。
いずれラファエル様のお役に立てる、ようにと、思いまして・・・」
マリーズの声が最後には消えそうになった。そうだった、何もしなくて良いと言われていたのに何をペラペラとしゃべっていたのか。俯くマリーズにラファエルが声をかける。
「何を俯くことがある。勉強してくれたことに感謝・・・・・」
ラファエルはハッとした。自分は何を言おうとした?いや、何を言った?マリーズが大公領について勉強してくれていて嬉しかったからそのまま口にしようとしたが自分にそれを言える資格はあるのか?
ラファエルが言ったのだ。初夜の時に。大公妃としてすることはないと。自分の邪魔をするなとさえ言った。
だがマリーズはこの四年、大公妃になるべく勉強してくれていたのだ。話していてわかった。その知識量はかなりのものだ。大公領の役人以上に知っているかもしれないと思ったほどに。
相当努力したのだろう。知識として知っているだけではなくそれを活かして話すことができるレベルだ。そんな努力をマリーズはこの四年ずっとしてくれていたのだ。
それはラファエルと結婚し妻として支える覚悟を示すものだ。
それも手紙の返事もほぼ毎回一緒のことしか書かないラファエルの為にだ。
赤い目が怖い?もしそうならこんなに大公領を知ろうとしないだろう。
大公妃という地位が欲しい?それならそもそも赤い目が怖いなどとは言わないだろう。
マリーズは固い決意と共にラファエルの元に来たのだ。それなのに自分は人から聞いた話を鵜吞みにして勝手に怒り冷たい態度を取った。
王命で決まったこととはいえ、マリーズはラファエルの為に最大限の努力をしてくれていたにもかかわらず。
彼女はどんな気持ちだっただろうか?これほど努力したのだ。マリーズが傷つけば良いと思って放った言葉なのだからきっとラファエルの想像以上に傷ついたに違いない。
妹を思うばかりに頭に血が上り、自分で真実を見極めなかった。
これでは大公とは名ばかりだ。この二年何をやっていたのか。
「ラファエル様?」
固まったまま動かないラファエルにマリーズの声が優しく問いかけてくる。
何故彼女はこんな自分に優しい言葉をかけてくれ、夜食まで作ってくれるのか?
今は良いが、大公領に来た時は酷い噂で苦しんだだろうに、自分の力でそれを覆し信頼を得ている。
もちろん、ラファエルの信頼もだ。真実を知るまではなどと言っていたが、とっくにそれは建前だと気づいていた。マリユスが持って帰ってくる情報は妹を納得させるためのものだ。
目の前にいるマリーズがそもそも真実なのだから。
自分が酷い言葉を投げつけ放っておいたくせに。このままでは自分が許せない。あの夜の自分を呪いたい。
ラファエルは立ち上がるとマリーズの側に行き片膝を付いた。そしてその手を取る。小さな手だ。
「マリーズ。初夜の時、酷いことを言って悪かった。オレがちゃんと調べなかった為に辛い思いをさせた。申し訳ない。
オレの妻になる為にこんなにも勉強をして準備をしてくれていたというのにオレは何もしなかった。どうかこんなオレを許して欲しい」
「ラファエル様」
「マリーズは立派な大公妃だ。オレはまだまだ大公としては頼りないからどうか支えてほしい」
繋がった手から移って来るマリーズより少し高いラファエルの体温がマリーズの心を温かくしてくれる。
「許すも何も、私は怒っておりません。確かにあの夜傷ついたのは事実です。涙も流しました。でもそれは理由を知れば仕方がないことだと思いました。
私自身がラファエル様に信じてもらえるようあの時流れていた噂を払拭するべく対応するしかないと思いました。
ラファエル様。私を信用してくださいますか?」
ラファエルはマリーズの手の甲に口づけるとマリーズを見た。
「もちろんだ。マリーズはオレの大切な妻だ。だがどうかこの償いはさせて欲しい」
「償いだなんて。そんなの必要ありません。そのお言葉だけで充分です」
ラファエルはマリーズの隣に座るとその手を握った。
「そういうわけにはいかない。欲しいものはないか?」
マリーズは首を傾げて考える。そう言われてもなあと。充分好きなことはやらせてもらっている。まだやりたいことはあるがそれは今ここで言うことではないだろう。
嫁いできて辛かったのは最初だけ。ラファエルが好きだと実感し、そしてこうして側にいさせてもらえている。今は幸せなのだ。まだまだ戸惑うことも多いけれど。
「じゃあ、欲しいものをもらっても良いですか?」
「もちろんだ!何が良い?」
ラファエルの目が期待に満ち溢れている。
マリーズはそっと手でその目を隠すと顔を近づけた。そしてその唇に触れるだけの口づけをする。
その途端バッとラファエルが後ずさり手で顔を覆い俯いた。
「ラファエル様、嫌でしたか?申し訳ありません」
ラファエルの反応にマリーズはしゅんと下を向いた。
「嫌じゃない、本当に嫌じゃない。頼むから誤解しないでくれ。ただ驚いただけだ。本当だ。マリーズは何も悪くない」
ただラファエルが思っていたことと違って驚いただけだ。まさかマリーズから口づけられるとは思ってもみなかった。しかも欲しいものと言われたのだ。
それが自分との口づけだと誰が思うのか?嫌われて当然の自分に自ら口づけてくるなど思ってもみなかった。
柔らかい手で目を塞がれ甘い香りがしたと思ったら唇に柔らかい感触がしたのだ。ほんの僅かな間。時間にしたら1秒もないかもしれない。
ラファエルの体が勝手に動いていた。驚き過ぎて。わかっていたらもっと味わいたかったのに。
「本当に怒ってらっしゃいませんか?」
まだ聞いてくるのか。
「怒っていない。嫌でもない」
「なら良かったです」
そう言って笑うとマリーズはお茶を一口飲んでいる。ラファエルはその唇から視線が外せない。
その肩に腕を回し自分から口づけしたい衝動をラファエルは堪えた。まだその時ではない。
「ああ。本当に嫌ではないからな」
マリーズはその言葉に笑顔を浮かべるとはいと答えた。
その後は穏やかに他愛の無い会話を続けた。
そしてそろそろ眠りにつく時間。
ラファエルはどうしたものかと考えていた。一昨日はラファエルの意志ではなかった。もちろんマリーズの意志でもない。不可抗力だ。
昨日はラファエルの意志でマリーズが寝ている間に勝手に寝室に入って横に寝た。いや、抱き枕にした。
今日はどうする。マリーズがうとうとしてくれればベッドに運ぶという口実で寝室に連れて行き、そのままおろして一緒に眠りにつくのにとマリーズを見たが、マリーズにその気配は全くない。
だがラファエルは今夜も一緒に眠りたい。その体を腕に閉じ込めたい。
何か察したのかフレデリックと侍女たちが部屋から出て行った。
これはもう、勇気を出すのはラファエルのみだ。マリーズならおやすみなさいと言ってさっさと自分の寝室に一人で行きかねない。
そうはさせないとラファエルは立ち上がりマリーズを見下ろした。
「さてそろそろ寝るか」
そう言ってマリーズを抱き上げる。
「きゃっ!」
マリーズが驚いたのかラファエルの胸元にしがみついた。
「ラ、ラファエル様!」
「動くと落ちるぞ」
そう言ってラファエルはマリーズを抱えたままマリーズの寝室の扉を開けその体をベッドにおろした。そして自分もその隣に横たわりそっとマリーズを抱き寄せる。
「今はこれ以上しない。ちゃんと全てが片付いたら本当の夫婦になろう」
ラファエルの言葉にマリーズの心は嬉しさの余り震えた。
「はい」
それだけ答えるのが精一杯だった。
マリーズは実は自分から口づけしておいて後悔していた。ラファエルを見ていて思わずしてしまったが部屋には自分たち以外にも人がいたのだ。
メグたちだけならまだいい。だがフレデリックもいたのだ。
よく考えずに大胆な行動をしてしまったことに、やってしまったと後からじわじわ後悔の念が湧いてきたのだ。
だからその後からは何を話していたのか実はよく覚えていない。そして抱き上げられて今に至る。
それでも拒否されなかったことや、信用されていることが嬉しくてどこまでも駆けていけそうだと思ったのは間違いない。
ラファエルに抱きしめられ眠るのは三回目。ちっとも慣れない。いつか慣れる日が来るのかしら?とマリーズが思っていた時ラファエルがマリーズの首元に顔を擦りつけてきた。
そしてぺろりと舐めたのだ。まだ残る噛み痕を。
「んっ!」
「痛むか?」
消毒するかのように何度も舐めてくるラファエルに、マリーズはこれ以上しないって言ったじゃない!と混乱した。
「い、痛くないです」
「そうか、なら良かった」
やっと舐めるのを止めたラファエルは、今度はマリーズの胸元に何度も頬を擦り寄せている。
「ん、ちょっ、ラファエル様」
「柔らかい」
ラファエルの言葉にマリーズの鼓動はどんどん早くなり、そのうち爆発するのではないかと心配になってきた。
「マリーズ。こんな気持ちは初めてなんだ。ずっとこうしていたい」
やだー!もうこの人!なんなのよー!マリーズは心の中で叫ぶ。このままでは眠れる気がしない。落ち着かせないと。
マリーズは胸元に顔をうずめているラファエルの頭を撫でた。
毛先がまだ少し湿っている。それでも触り心地のいい髪に指を絡めながらそっと労わるように何度も撫で続けた。
それが気持ちいいのかやがて寝息が聞こえてきた。
「やっと眠ってくれたわ」
マリーズはほっとして小さくつぶやくと、ラファエルの頭を胸に抱きしめやがて眠りについたのだった。