夏の夜
治くんが得意のコオロギを食べる一発芸を披露する。子供の頃は本当に食べているのだと思っていたが、飲み込むふりをして相手に見えない様に上手いこと逃がす。ある意味名人芸だ。
「楽しい人ですね、治さん。良い夜ですね」
いつの間にかサクラが隣に来ていた。椿さんは少し離れたところで楽しそうに盛り上がっていた。本人はコミュ障だと言っていたが根が明るい人なのだろう。
「今日はどうやらお話聞ける感じではなさそうですね。あっ、手持ち花火があんなにたくさん?!」
この辺では迎え火・送り火の代わりに手持ち花火をすることが多い。治くん家は親戚や近所の小さな子供たちが大勢来るので、毎年尋常じゃない量の手持ち花火を用意している。もう22時近いので子供たちに花火をさせてお開きの流れのようだ。
「私…参加してきます!蒼汰さんも行きましょ!」
花火を振り回す子やアスファルトに煤で絵を描く子、暗がりにダッシュする子供たちに混ざって花火をした。ふんわりと火薬の匂いが夜に溶ける。夏休みを実感する。
「あんまり遠くに行っちゃダメだよ〜!山に入ったら見えなくなるよ〜」
保護者の1人が急いで追いかけたが、子供たちが何人か大分遠くまで走っていった。大人が追いかけてくるのが楽しいらしくキャッキャと笑いながらますます暗がりへ行ってしまった。田舎は街灯が少ない。近くに小川もあるので落ちたら危ない。
「治くん、コレ借りるよ」
側にあったLEDランタンを借りて追いかける。




