時差なのかしら、これ
続いて私がやってきたのは、故郷の星の隣にある『戦星』だ。
ここもあっという間に到着して、私は地表へ降りたっていた。
「·····すごい景色ね」
辺りは見渡す限り、赤褐色の地面で覆われていてお世辞にもいい場所とは言えなかった。
「けれど、この星は息が出来るのね」
だが、他の星と違い戦星はなんと呼吸ができるほどの大気があった。
ここでルクシアの知らない情報の解説だが、戦星は火星の1.5倍ほどの体積を持つ星だ。
ちなみにルクシアの住む星も地球の1.5倍ほど大きい。
そのため、戦星は現実の地球とほぼ同じ質量を持つため、完全におなじでは無いが海抜数千mほどの高さと同等の大気圧を持っている。
故に、ルクシアは久しぶりに『ルクシオン』を解除する事が出来ていた。
「あら?植物も生えてるのね····· 高山に生える草と似てるわ、まぁ寒いものね、ここ」
戦星は太陽からかなり遠く、その影響で表面温度はかなり低い。
だが酸素があるため、辛うじて水や植物が生えており、ちらほらと緑も見えている。
他の星と比べると明らかに違うその光景に、ルクシアは·····
「·····私の星の方が豊かね」
あんまり感動していなかった。
緑も水も豊かな、そして何よりここには見渡す限りでは存在しない生命が存在している地球と比べるのは、明らかに間違いだ。
「魔物の1匹でも居れば面白かったのだけど····· はぁ、次に行くかしら」
そうして宇宙を見上げ、ルクシアは光となって飛び去って行ったのだった。
·····その足元を、小さな虫のようなサイズの哺乳類みたいな魔物が通り過ぎていた事に、ルクシアは気が付かなかった。
◇
(·····? なんだか、少し時間が掛かったかしら?まぁ気の所為よね)
次にやって来たのは、戦星の更に外側に位置する巨大な惑星、現実で言うところの木星に該当するガス惑星だ。
光速でも40分以上掛かるほど離れているが、感覚が狂っているルクシアにとっては一瞬に感じられた。
(それにしても····· 大きいわね、そして明るいわ)
そして、この世界の木星は現実とは少しどころか、かなり見た目が違う。
大きさが若干大きいことで惑星を構成する水素ガスが核融合反応を引き起こし、僅かにだか赤く自ら輝いているのだ。
(いい感じに光の補給が出来るわね)
準恒星と呼んで差支えのないほど輝くその星を利用し、ルクシアは魔力を補給して観光を始めた。
(·····惑星探索って意外と暇かもしれないわね、あの星の中は確実に何も無いでしょうし、入ったら『ルクシオン』でも助からない気がするわ)
そう、惑星観光は大半の星は観光には向いていないため、実は結構暇になることが多い。
学術的な調査であれば無限に時間を費やせるのだろうが、そんな目的で来ていないし興味もないルクシアにとっては、見栄えのしない景色でしかなかった。
(さっさと次に行こうかしら····· 次はあの環がある星ね)
ルクシアは驚異的な視力で目的地の惑星を見つけると、その方向を目指して光速で移動を始めた。
◇
(ここは結構面白いわね、遠くから見たら綺麗な環だったけれど、近くで見ると岩の集まりだったのね、凄いわ)
次の星は土星に該当するガス惑星で、巨大で見事な環を持っていた。
·····が、ここに来るまでにやはり光速で40分ほど掛かっているのだが、ルクシアはあまり気にしていないようで観光を初めていた。
(どうしてこんな環が出来るのかしら、私の住む星には無いのに·····)
説明しよう
強大な重力を持つ星、例えば木星や土星などは衛星が星に近すぎるとその重力で星を粉砕してしまう『ロッシュ限界』という法則があり、それに従って粉砕された惑星が環のようになっているのだ。
地球などは軽く、そのロッシュ限界の範囲も狭い事により環が出来にくく、なおかつ破壊されたとしても惑星に引き込まれて隕石になってしまうのだ。
(世の中には不思議な事が多いわね····· 色々見れるようになって改めてそう感じるわ)
この世界では全く未知の現象によって作られる星々を見て回ったルクシアは、詳しく理解はしていないものの無事に楽しめているようだった。
(この先にも星はありそうだけれど····· あまり代わり映えもしないわね、帰るとするわ)
そんな訳で、ルクシアはさっさと帰る事にしたのだった。
◇
「お、おかしいわね····· なんでもう昼過ぎなのよ」
夜中に出発したルクシアが帰ってくると、何故か既に日が傾き始める時間になっていた。
体感ではあまり時間はたってなかったにも関わらず、理解不能な時差が生じていた。
「おかえり、ずいぶん長く旅してたけど、どこ行ってたの?」
「星を見に行っていたんだけれど····· おかしいわね、移動は全部数秒だった気がするから、普通に見て回ったのも1時間ちょっと程度のはずなのに」
またまた説明しよう!
この現象は『速度による時間の遅れ』と呼ばれる相対性理論の一種で、時速2万8800kmで飛ぶISS(国際宇宙ステーション)などは年間0.009秒遅れ、光速に近づくほどその遅れが激しくなる現象だ。
日本人向けに言うなら『ウラシマ効果』と呼べば理解しやすいように、体感ではたった数秒しか経過していないのに、外では何ヶ月も経過しているような現象が現実にも起きている。
身近なところで言うと、一年中飛び回っているジェット旅客機に搭載されたアナログ式の時計は極わずかにだが時計がズレる事があるらしい。
もっとも、80年間乗りっぱなしで数秒寿命が伸びるか否か、という感じられないレベルの誤差だが·····
だが、光速は違う。
光はあまりの速さに時が止まっていると言われており、仮に光速に極限まで近付ける宇宙船があれば、その船内はまるで『浦島太郎』のように気が付けば何十年も経っているなんて事が起きるかもしれない。
そんな現象が、魔法で物理法則を崩壊させたルクシアに報いを与える玉手箱の煙のように襲いかかっていた。
「·····じゃ、じゃあ、もし光の速度で何年も掛かる場所に向かっていたら、私は·····」
「え?しらないけど·····」
「·····そうよね」
が、そもそもこの世界に相対性理論なんてまだ知られていない。
というか何でもアリな魔法のせいで相対性理論が時々というか頻繁に壊されるせいで、発見はだいぶ後になるだろう。
「まぁそんなことどうでもいいわね、変な法則なんていくらでもあるし、やろうと思えば魔法で何とかるでしょうし」
「へー」
と言った所で、窓の外が急に騒がしくなってきた。
誰かが騒いでいるようで、空いていた窓から怒号が聞こえてきた。
『貴様、貴様ァ!!!なに物理法則を壊しておる!相対性理論を、完璧な法則を壊しおったな!!』
『ちょ、ちょいまちっ!!ここ異世界だから!石投げ込まないで!勝手に戻ってこないでってかここアンタの世界じゃないから!!ほら帰るよお盆ももう過ぎたし!!』
『離せ!!私は彼奴に正しい物理法則を教えにゃならんのだ!!!何がファンタジーだ、何がフィクションだ!!!』
「·····窓の外が騒がしいわね」
「だねぇ」
窓の外を見ると、怒り散らす白髪の老人を銀髪の少女が必死に引き止めているのが見えた。
この街は色んな人が集まる場所だから、変なやつも時々来るのよね。
この前は鼻でクルミを転がしながら旅してる妙な旅人が来てたわ。
アレもその類でしょうね。
『ほら帰るよ!ってか強制連行だから文句言わないでよね!!』
『ふん!』
老人は少女に引きずられながらも、こちらに舌を出して挑発しながら少女が展開したワープゲート·····
「えっ!!?何よあれ!?」
「なになに!?」
「·····空間に穴を開けて、どこかに消えていったわ」
「で、伝説の空間魔法の使い手だったの·····?」
宇宙最速は光、光速と言われており、その速度は実は宇宙の広さと比べればとても遅い。
この太陽系を脱出するのに1日も、隣の恒星に行くのに何十年もかかるほど遅いのだ。
だが、それを打ち破る理論は一応存在している。
それが、目の前で少女が行った魔法『空間超越』だ。
ワープは魔法でも再現が厳しく、あまりの難易度に人力での再現はほぼ不可能と言われていた。
それを難なく、特に儀式も魔法陣も何も使わず展開し去っていった少女は、桁違いの存在という事を示していた·····




