退かない!諦めない!挫けない!
ユーシャと遭遇した翌日、念の為待ち伏せのことも考えて私はルクシオンを使い瞬間的に登校し、特にユーシャと遭遇する事もなく私は授業を受けられていた。
ちなみに、ユーシャは通学路の道中に居た。
たぶん怪しまれないよう街に紛れて待っていたのでしょうけど、私にはお見通しだったわ。
「はぁ、なんでわざわざついて行かなきゃいけないのよ、面倒臭い」
「あっルクシアが毒吐いてるぜ、どうしたんだ?ヘイヘイ、ルクシアさんよ」
「うざったいわね····· 確か毒は無いけれど····· スパイスはあったわね、クシャミが止まらなくなるスパイスを振りかけられたいかしら?」
「お?風で全部お前の所に吹き戻してやるけど?」
「その前に光速で逃げるわ」
が、結局面倒なヤツに絡まれる宿命なのか、マッハが絡んできた。
面倒なのから逃げたのに、ここでも面倒なやつに絡まれたら本末転倒ね。
まぁ、しつこく勧誘する気が無いだけユーシャよりマシでしょうけど。
「はいはい、いつまでもケンカしてないで移動するよー」
「分かったわ、命拾いしたわね」
「いやクシャミが止まらなくなるスパイスじゃ死なねぇよ」
言い返されたルクシアは顔を顰めながら、さっさと教室移動を始めた。
·····が。
ガラガラッ
「あぁルクシアさん、丁度いいところに」
「嫌な予感」
「先程、ユーシャと名乗る傭兵の方からスカウトが正式に届きましたわ」
「私、帰宅部なので帰ります」
「え゛、ルクシアちゃん格闘部じゃ·····?」
「そもそもまだお昼にもなってませんわ」
嫌な予感が的中してしまった。
よりにもよって、1番面倒な方法で来られてしまった。
学院に大して正式に求人スカウトをされると、流石に避けようが無い。
当然断れるけれど、必ず1度は会って話さなければいけないのよね·····
「わかったわ、ただこっちにも予定はあるの、そこは考慮してくれるわよね?」
「えぇ、生徒優先ですから」
「じゃあ3年後でお願いするわ」
「無理ですわ」
「そうよね、じゃあ3ヶ月後でお願い」
「長いですわね····· ですが分かりましたわ、ユーシャさんにお伝えしてきますわ」
そう言うと、先生は予定を伝える為に教室から出ていった。
そして数秒後に戻ってきた。
「3ヶ月後って貴女、卒業してるじゃないですの」
「チッ····· バレたわ」
このまま騙されてれば良かったのに。
「はぁ····· 次は本当の予定よ、1週間後でお願い」
「少々長いですが····· まぁ良いでしょう、今度こそお伝えしてきますわ」
今度の予定は何とか認められたのか、先生が教室に戻ってくる事は無かった。
「·····1週間って」
「旅してるヤツらが1週間も足止めされてたら流石に諦めて次の町に行くわ、ソレ狙いね」
1週間後を予定してると最初に言えば断られたかもしれないけれど、最初に大きな数字を伝えたら感覚がおかしくなって先生もまんまと騙されてくれた。
あとは1週間後に予定をすっぽ抜かして逃げればこっちの勝ちね。
「ふふふ·····」
「悪い笑い方してる·····」
◇
が、勇者はそう簡単には諦めない。
その後、なんやかんやあって私は1週間後の予定よりも早くユーシャと面談する羽目になってしまった。
·····というより、同日中に面談する事になってしまった。
「やぁ、昨日ぶりだね」
「変態ストーカーでも、こうやって学院のシステムを悪用すれば会えるんだから、ほんといいシステムよね」
「違っ」
「何が違うのかしら?こっちは断ってるっていうのに会いに来るんだから」
そして開口一番に、私はユーシャを責めた。
これくらいやらないと、変態は理解出来ないでしょうから。
「·····確かにそうかもな」
「流されないで下さい、おほん、ユーシャ殿に変わり私めが説明をします、私たちは傭兵団『ユーシャパーティ』として、魔王討伐を目指し旅をしております」
「厄介なのが出たわね····· えぇ、噂は聞いてるわ」
しかし、私の言葉で少し引き気味になったユーシャに代わり、パーティの副リーダーか参謀らしき初老の男性が話し始めた。
どうやらユーシャは流されやすい性格らしい。
·····けれど、こっちは一筋縄ではいかないわね。
「で?」
「で?と申しますと·····」
「私をスカウトしてどうしたい訳かしら、死地に送り込んで死ねと?」
「そこまで極端な事は言っていませんよ、勝てる見込みがあるからこそ私たちは魔王討伐を目指しているのですから」
「あぁ、各地で集めた仲間が何人も居る、なんたって全員で挑めば上位のドラゴンでも倒せるからな」
「そんなので倒せるかしら」
「·····なに?」
私の脳裏に過ぎるのは、たった1度しか見ていないが強烈に印象に残る、魔王の理解不能な一撃だ。
一瞬の隙もなく、広い魔王城内の敵を一掃したあの攻撃は、ただ威力が高い私の攻撃では不可能な
『完璧に制御され当たる敵を指定して的確に殲滅させられる』
という事をやってのけていた。
正直、正面切って戦って勝てる相手じゃないとは思うわ。
というか、ユーシャって地獄耳なのね。
ぼそっと言ったのに聞き取られたわ。
「最前戦で戦ってきたから、魔王の目撃情報や交戦記録が残ってるのよ、それによると魔王が出てきた場合の9割以上が部隊は壊滅、大半が捕虜にされているわ」
「その噂は聞いたな」
「えぇ」
魔王の噂は真偽不明な事が多かったけれど、『瞬時に部隊長だけが全員討ち取られた』というような、リーダーだけ狙い撃ちでほぼ同時に殺害された記録が何個かあった。
やはり、あの不可視の一撃を食らったと見て間違いない。
「私は負けが確定している戦いに興味はないわ」
「やってみなきゃ分からないだろ、そして君が居れば魔王だって倒せる」
「·····どうせ、スカウトしてきた皆に言っているのでしょう」
「そうですね、皆に言っておられます」
「ちょ」
「ですが、その皆が集まれば魔王に匹敵する力となりますよ、ですから貴女を我々のパーティに加えたいと思い、こうしてお時間を頂いております」
·····しつこいわね。
いい加減面倒だし、ハッキリ断ろうかしら。
「はぁ····· とやかく言ってくるからハッキリ言うわ、興味無い」
「そうか····· でも魔王を倒せれば英雄として·····」
「私、強者と戦うのは好きだけれどそういうのに興味は無いの、御免なさいね、じゃあ魔王討伐でも精々頑張りなさい」
私は立ち上がると、そのまま部屋の外に出
「·····そのステータスは嘘なのか?チートじみたその値は偽装か何かなんだな」
「はぁ?」
「俺は相手の能力が見える、君が『光速』で動ける事も、攻撃力が有り得ないほど高いのもな」
·····こいつ。
光の速度を知ってるのかしら。
私とフィジクス先生くらいしか、その速度を知らないというのに。
「貴方、何者よ」
「日本から異世界転移してきた、勇者だ」
「えっ·····
ニホン出身の悪質ストーカーね、変態から格上げさせて貰ったわ」
「待っ」
私はメモをとり、警備隊に通報するため部屋から出ようとした。
「そこまでして戦いたくないのですね、·····本当は強いって噂は嘘なのではないですか?」
「あ?」
カチンッ
·····と、私の頭の中で何かがキレる音がした。
「確かにな····· ステータス偽装は難しいけど出来ない訳じゃない、それなら納得だ」
「·····表に出なさい」
「うん?」
「表に出なさい、光の速度で殴ってやるわ」




