ユーシャ 襲来
それはある日の帰り道の事だった。
『おい、聞いたか?ユーシャってやつがサイクロプスを引きずりながらこの町に来たらしいぞ』
『嘘だろ?』
『マジだって、俺見たもん』
「·····げっ」
ちらっと聞こえた噂話だったが、どうやらユーシャがこの町に到着してしまったらしい。
確か5日前に見た時は3つ隣の街に居たはずなのに、もう到着しているなんて·····
たぶん、道中の町は補給をしたくらいで通り過ぎたのかしら。
何にせよ迷惑ね、しばらく警戒して過ごさなきゃじゃない。
「はぁ····· 面倒臭いわ·····」
「なんの事?そんなため息ついてたら幸せが逃げるわよー?」
「面倒事に巻き込まれそうな気配がしてるのよ」
「なるほどね〜、うんうん、相棒なら絶対巻き込まれると思ってた」
「まだ巻き込まれてないわよ·····」
まだと言ってるあたり、避けようがなく面倒事に巻き込まれると自覚しているようで、ルクシアは顰めっ面を晒した。
数々の面倒事を起こして大騒ぎを起こしているルクシアでも、面倒事に巻き込まれるのは御免なのだ。
なんともはた迷惑な主人公である。
そしてそろそろ、そのツケが回り始めてきていた。
『で、なんか例のスパイス作ったヤツ探してるらしいぜ?』
『ルクシアって子だったか?おっ閃いた、見つけて報告したら謝礼くれるんじゃね····· ん?』
その瞬間、噂話をしていた町人2人と、私の目がバッチリと合ってしまった。
「「あ」」
「あっ」
マズいわ。
「居」
「『ターディオン』」
パコォンッ
「ぐべらっ!」
「ひっ、ひでぇっ!何すんだ!」
「黙ってて頂戴?」
私は丸めた教科書で町人Aの頭を死なない程度の威力で叩いて気絶させた。
ちなみにターディオンは解除して叩いた。
そうしないと殺しちゃうもの。
「絶対面倒事が起きるから、私の存在は黙ってて頂戴、いいわね?」
「は、はいぃぃっ!ワカリマシタァ!」
ルクシアの脅しが効いたのか、町人Bは気絶しかけのほぼ気絶している町人Aを連れて逃げ出した。
これでもう安泰だろう。
「ふぅ、何とかなったわ、これで面倒事にも巻き込まれないでしょうし今のうちにさっさと帰るわよ」
「ごめん相棒、無理みたいよ?」
『やぁ、君が噂のルクシア・ターディオンさんで間違いないかな』
「げっ」
サルートの方を振り返ると、隣に見慣れないけれど見た事はある顔の男が立っていた。
噂の『ユーシャ』とやらだ。
·····たぶん。
「おっとその前に俺が名乗らなきゃな、俺は勇者ハマモト ユージだ、魔王討伐を目指し仲間を集めながら旅をしている」
「帰るわよ、サルート」
「えっ?」
「待っ、話くらい聞いてく
「っと、ふっ!」
「あっショートカット使う?その方が早いもんね」
私はサルートの手を掴むと、時々使う裏ルートを利用してユーシャ・ハマモト・ユージとやらから逃げ出した。
そのルートは私たちしか通れない·····
「マジかよあの2人、ひとっ飛びで屋根の上に飛び乗って逃げれんのか·····」
『ひょっとしたらユージに匹敵するんじゃない?』
『ふむ、凄まじい逸材ですね』
『仲間に加えられたら心強いかもねぇ』
『ユージが好みそうな顔だったしぃ?』
『·····強いな』
「あぁ、皆ごめん、つい先走っちまった」
屋根の上をぴょんぴょんと飛んで逃げるルクシアとサルートを見ることしか出来なかったユーシャの元に、旅路で集めた仲間が集合してきた。
「なんだアイツら」
「只者じゃない雰囲気がしてるわね」
「魔法学院の生徒に話しかけてたぜ?」
「実力者をスカウトしてるって言ってたしソレか?」
「おっじゃあ俺行ってくる」
「やめとけ雑魚が」「なんだとてめぇ!!」
「っと、野次馬が増えてきたな····· 皆、移動しながらあの子を追いかけよう」
そして止まっていたユーシャ達も、野次馬から逃げるついでにルクシア達を追いかけ始めた。
◇
「·····ちっ、面倒臭いわね」
「どうすんの相棒、これじゃ埒が明かないけど」
あれから30分、逃げたはいいもののユーシャは諦めようとせずに私たちを探し続けていた。
·····それが厄介なのよね。
「別に私1人ならいいんだけれど、貴女が巻き込まれるのが嫌なのよね·····」
「あら優しい、こういう時見捨てて逃げたりしなかったっけ?」
「しないわよ、そんな事」
「相棒ならそう言うと思った ·····で?どうするの?」
「どうしようかしら·····」
別に私1人巻き込まれるなら無視して逃げ続けるのだけれど、サルートも一緒に探されてると困る。
無関係なのに変に巻き込まれて時間を奪われたら申し訳ないし、戦争に行く気もないのに連れて行かれて死なれたりしたら本当に嫌だもの。
だから、取れる選択肢はもう1つしか残っていないのよね·····
「はぁ、面倒臭いわ····· サルートはこのまま帰りなさい、アレは私1人で対応するわ」
「おっ殴り合いする?」
「場合によってはそうなるわ、じゃあまた明日」
「おっけー、じゃあお先に〜」
そう言うと、サルートは屋根の上から自前で自慢の豪華な傘を開いて反対側へとふわっと滑空するかのように飛び降りた。
そして私は、サルートとは逆の方に·····
つまりユーシャが居る方へと飛び降りた。
◇
「どこ行ったんだ?見た感じこっちだったと思ったんだけどな」
シュタッ
「·····探してるのは私かしら」
「おっ居た」
屋根から降り立った私は、改めてユーシャの全身を観察した。
顔つきは見慣れないから分からないけれど、たぶん美形と呼んで良さそうな····· けれど、妙に自信が溢れ過ぎててイラッとする顔つきね。
体付きは、一応実力者という噂は嘘ではない筋肉が付いていて、身に付けている鎧もかなり質が良さそうだった。
そして腰から下げた私の木剣と似た形の妙な装飾の曲剣は、只者では無い雰囲気を放っていた。
·····そこそこ強いわね。
「で、何の用なのよ、帰って明日の授業の予習しなきゃだから手短に頼むわ」
「おう、端的に言うと『俺の仲間にな
「断るわ」
「は、早っ!」
シュッ
「そうよ、私は『光』、だから速いに決まってるじゃない」
「ッッッ!!?なん、いつの間に俺の後ろに!!」
私は瞬時にルクシオンを発動し、ユーシャの背後に回り込んだ。
「もう一度言うわ····· 断る」
「っ、·····!!!?!?なん、なんだ、そのステータスは·····ッ!!??」
「うん?どういう事?」
ユーシャは私を改めて見た瞬間、目を見開いて驚いて固まってしまった。
「·····まぁいいわ、もう追いかけないで頂戴、迷惑なのよ」
私はその隙をついて逃げる事に成功し、無事に寮に到着すると、ルビーと一緒に授業の予習を進めたのだった。
【オマケ】
勇者が見たルクシアのステータス
攻撃力 :EX+(条件付き)
耐久力 :C
スピード:MAX(299792458 m/s)
射程距離:S+
持久力 :S+
精密動作:E
成長性 :C
魔力量 :∞(条件付き)




