授業こそ学生の本質
カリカリカリカリ·····
「·····」
カリカリカリ、シャッ
「·····」
ペラッ
「·····」
さっきからルクシアが無言で何をしているのかというと、勉強だ。
ルクシアはまだ学生、いつも変な所に行って何かやらかしている訳ではなく、むしろ普段は真面目に学校に通い授業を受けているのだ。
「えー、『ドラゴンの脛を蹴る』はたとえ強いドラゴンであってもゴブリンでも人間でも脛はぶつけるとかなり痛く悶絶するということから、曲解が重なり『別にどれでも同じ』という言い回しになっており·····」
「·····ドラゴン関係の諺、何個あるのかしら」
ちなみにドラゴン関係の諺は30個以上あると言われている。
そのうち半数近くがドラゴンが痛い目にあう諺となっており、人類のドラゴンに対する恨みが見て取れる。
·····ちなみに今は国語の授業だ。
「にしても、ユーシャはどいつなのかしら」
で、ルクシアは既に授業内容は先に勉強しているため、一応メモはしながらも別の作業をしていた。
片方の目だけで千里眼を発動し、件の『ユーシャ』とやらを探しているのだ。
そして先程、ユーシャが男だったという情報を思い出し、候補が2/3ほどまで絞り込めていた。
「で、どこ出身か分からない顔をしてるって言ってたわね····· 見慣れない顔つきの黒髪の男ね」
「何ですの?もしかして占いで出た運命の殿方の事ですの?」
「危険人物よ、なんか実力者をスカウトして回ってるらしいわ」
「わ、わぁですわ·····」
独り言をぶつぶつと言っていると、隣の席にいたオーロラが話しかけて来た。
どうやら占いで出た運命の人の事と勘違いしているらしい。
ちなみに私は占いは全く信じない派よ。
昔、占いでしばらく雨は降らないって言われて喜んでピクニックに行ったら大雨に振られて酷い目にあったのよ。
もう二度と占いなんか信じないわ。
それに、人をスカウトして回る不審者なんかが運命の人なんて嫌だわ。
「ではここは····· ルクシアさん」
「はっ、マズい聞いてなかったわ·····」
「に聞いても確実に答えられますね、なのでマッハさんお願いします」
「は!?よりによって俺かよ!!」
せ、セーフね·····
授業は真面目に受けないとこういう事があるから困るわ。
はぁ、早く卒業したいわ·····
でもあと少しで卒業だから、最後まで頑張ろうかしらね。
私は卒業がそろそろ近づいてる事を思い出しながら、千里眼を解除した。
「·····ん?今見えたのって·····あっ見えなくなっちゃったわ」
◇
その後は、千里眼を使って授業をサボる事もせずに真面目に授業に取り組んでいた。
残る試験はあと1回、それも総まとめ的な座学だから特に気をつけるべき所も無いけれど、念の為に終わりに向かっている授業をしっかり聞いた。
「魔法は放つと属性により違いはあるが矢のように必ず落ちる、だからその偏差を正しく理解する事が戦いの中では必要だ」
「もう知ってる」
「·····だが皆は感覚的にそれを覚えるよう言われ実習で身に付けたはずだ、だから今日はその偏差を数式で求める」
「必要かしら、これ」
お昼明けの授業は計算で、魔法が距離によって落ちてくる現象の計算を行うという物だった。
「昔使っていた光魔法なら必要だけれど、光速魔法には意味が無いわね」
私の使う光速魔法はどんな距離でも直進して相手に命中する。
その射程は光が減衰して届かなくなるまでだから、理論上は無限大。
·····だけれど、この星は光になって分かったけれど丸くて、湾曲しているからかなり離れた地上の敵は地面に隠れて見えなくなってしまう。
つまり、偏差撃ちが出来ない光は地平線の向こうに居る敵は攻撃できないのよね。
まぁ、そうなったら空からうち下ろせばいいのだけど·····
それが高速魔法の利点であり欠点でもあるわね。
ちなみに、光は重力により湾曲して動く。
ブラックホールが特に有名で、強すぎる重力により光でさえ脱出できない。
またブラックホール以外でも強力な重力を放つ中性子星や、更には太陽でも光を僅かに歪めている事が判明している。
そしてこの星自体も重力があり、目に見えないほどだが理論上は光が屈折しているはずだ。
まぁ、その値は極めて僅かなノイズ程度の数値のため、通常の光速魔法の使用時に気にする程の物でも無いのだが。
閑話休題
「落ちる距離の計算はこういう感じだ、概ねお前たちが実習で掴んだ感覚と同じ値になったはずだ」
「なるほどな、·····つまり計算しなくても出来る俺らってスゲェって事だろ」
「デルタ、5点減点だ」
「はぁ!?なんでだよ!!」
「·····フッ」
「あってめぇ、今笑ったな?」
「嘲笑よ」
「どっちみち笑ってんじゃねーか!」
「さらに騒ぐなら倍の減点にするぞ」
「·····」
デルタは黙った。
ただでさえ危険な成績なのにこれ以上減点されては卒業も怪しくなるからだ。
「ふふっ」
ちなみにルクシアは大丈夫なので普通に笑った。
ついでに特に減点も無かった。
◇
「結局、計算するより感覚で覚えた方が適切でしたわ」
「えぇ、戦場じゃいちいち計算なんてしてられないわよ」
「遠距離から砲撃する時とかは必要になるんじゃない?わたし攻撃魔法は使えないから必要になりそうだし·····」
「あら、ルビーさんは治療専門ですわよね?なら砲撃に関する知識も必要ないはずですわ」
「·····だよね」
授業が終わり、帰りの支度をしながら私はクラスメイトと雑談をしていた。
それと同時に、授業中は中断していたユーシャ探しも再開していた。
「うん?ルクシアちゃん、何か見てるの?」
「それ何ですの?」
「遠くの景色を見る魔法よ、なんかユーシャが私を探してるって言うから、上手く回避出来るように顔を覚えようと思ったのよ」
授業中の捜索を中断する時に、最後に見た人物に私は少し違和感を覚えていた。
あまり見た事の無い顔つきで、外国の人のような感じがしたからもしかしたらユーシャだったかもしれない。
だから、最後に見ていた3つ隣の町を私は探し回っていた。
「なるほどですの、あの噂のユーシャですわね」
「ゴーレムに蹴られても平気ってどんな人なんだろ·····」
「知らないわ、ただ見た目は普通の青年の可能性が1番高いわ」
「へー」
興味無さそうね。
まぁいいわ、そろそろ特定できそうだから帰りながらしっかり探すとするわ。
「·····なかなか居ないわね、それっぽい人はさっき見かけたのだけれど」
「ルクシアさん、それ私のおカバンですわ」
「気が付いてないみたいだし私たちのも持ってもらえるかな」
「これオーロラのだったわね、交換よ」
私は自分のカバンを持つと、画面を見ながら帰路についた。
「·····あっ、コイツだわ」
「えっ?見つけた?」
「どんな方ですわ?」
と思った瞬間、画面にユーシャらしき人物が映りこんだ。
既に隣町に向かう馬車に仲間と共に乗り·····
もしかしたら自前の馬車かもしれないけれど、既に街の外に出ていたわ。
で、ユーシャは噂の通り黒髪黒目の男で、見慣れない顔つきだから分からないけれど私と同世代くらいの歳ね。
装備はかなり整えてあって、仲間を見る感じかなりしっかりしたパーティではあるらしい。
「ふーん、コイツね、覚えたわ」
『·····ッ!!?!?』
「え?·····マズい、気が付かれたかしら」
が、暫く見ているとユーシャが突然目を見開いて騒ぎながらキョロキョロと周囲を見渡し、千里眼を見つけたのかこちらの方をじっと見てきた。
少し移動しても目線がついて来なくて、かなり動いたら目線が付いてきたから多分おおよその場所しか分かってないのでしょうけど、初めて見ているのがバレたわ。
魔王でも気が付かなかったというのに、気が付けるなんて相当な実力者ね·····
『!』
「あっ、チッ解除されたわ」
「そんな事できるんだ」
「いまの殿方がユーシャですわね?初めて見る顔つきでしたわ」
「ますます面倒ね····· 会わないに越したことはないわ」
私はユーシャの危険度を心の中で数段引きあげて、この街に来たら絶対に会わないよう立ち回ろうと決意したのだった。




