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ユーシャ、接近中


「え?何?ユーシャがこの町に向かってるのかしら」


「らしいぜ?なんでも『ルクシアスパイス』を求めて向かってるんだってよ、故郷の味に似てるんだとか」



 ギルドの仕事でスパイスを仕入れて納品した後、顔なじみになった職員からユーシャとやらがこの町に向かっているという情報を聞きつけた。


 そして目的は私が仕入れて調合し販売している『ルクシアスパイス』で、たぶんだけれど見つかれば面倒な事になるのは間違いないと私は思った。



「お前も気をつけとけよ、ぜってぇ面倒事になるからな」


「えぇ、変に値段交渉とかされて粘られたら迷惑だもの」

「あっそっちか?お前の事だからすぐに決裂して暴力沙汰になる方だと思ってたんだけどな?」


「·····そこまで酷い性格じゃないわよ」


「まぁどうでもいいけどよ、結構な実力者みてぇだから下手に手を出したら無傷じゃ済まねぇはずだし、ユーシャってやつはどうも各地で強者を集めて魔王討伐のために向かってるみてぇだから、お前もスカウトされるかもな」


「ふぅん?」


「·····断るなら言葉で断れよ?拳で断ったら大変な事になるからな?」


「気をつけるわ」



 で、どうもユーシャとやらは魔王を倒すべく魔族の領域を目指し進んでいるみたいで、その道中にあるこの国にも立ち寄るようだ。


 そしてそこで私の作ったスパイスと出会い、入手のためにその出所であるこの町へ向かってきているようね·····

 確かに面倒だわ、·····うぬぼれるつもりは無いけど私って最近は実力もかなり高くなって、サポートも攻撃も出来るようになったから勧誘される可能性は十分あり得る。


 それに私は学校があるから付いて行くつもりなんてないし、そのうち魔王と魔族との戦いに出兵するのは確定なのだから、死に急ぐ必要は無い。



「というか、変質者よねそいつ」

「場所によっては衛兵に追いかけ回されたって噂もあるな」


「やっぱりそうよね」


 そのユーシャとやらだが、渡り歩いてきた各国の町々で実力者を勝手に連れて行こうとしているため、場所によっては捕まりかけたりしているお尋ね者でもある。

 この国ではまだお尋ね者ではないが、その噂はギルドを通じて広まっていた。



「それにソイツ、なんで国外から来てるのに魔王討伐を目指してるのかしら·····」

「謎だよな····· ユーシャの使命だからとか言ってるみてぇだけど、なんでウチの国と魔族の国の戦争に首突っ込むんだか」



 魔王との戦い、と聞くと人類VS魔族というイメージを持つかもしれないが、実は通常の戦争とあまり変わらず国家間のいざこざがあり、もうかれこれ数世紀は小競り合いを繰り返しているのが事実だったりする。

 故に他国が関わる事もあまりないのだが、なぜかユーシャは積極的に関わろうとして更に各国から実力者まで募り、魔王討伐を目指している変人だ。


「別に魔王を倒したところで戦争が終わるとは思えないけれど·····」

「あぁ、魔族の国は軍部とかもあるからな、簡単には止まらねぇだろうな·····」


 そして戦争はゲームと違い王将を倒しても終わる事は無い。

 特にこの戦争は、そう簡単に終わる事は無いだろう。


 だからユーシャが魔王を倒そうとしている事はほぼ間違っている。


「ただ魔王は魔族の心の支えだろうからな····· 最強の魔族と名高いし倒せば士気も下がるだろうから停戦交渉くらいはいけるかもな」


「·····そうね」


 そう言った私の脳裏に浮かんだのは、魔王城が汚水スライムが溢れかえり頭を抱えてゲッソリした顔をして寝てしまった、苦労人の魔族の顔だった。

 あの調子では、魔王を倒したところで魔族の侵攻は止まらないだろう。


 ·····けれど、その魔王を倒すのは難しいでしょうね。


 一瞬で広い城内の汚水スライム全てを消滅させた魔王のあの技を見る限り、光速で攻撃でもしない限り正面から倒すのは無理だと思うわ。


 だからユーシャが暗殺狙いとかでなければ、魔王は決して倒せないはずね。



「まぁ世の中には変な奴なんてごまんと居るもの、そういう奴も居るわよ」


「お前もそっち側だしな」

「そうかしら」


「·····そういう奴だったなお前って、ほらお前は報酬も受け取ったんだしとっとと行けよな?」


「確かに邪魔よね、じゃあ行くわ」

「おぅまたな、ユーシャには気をつけろよー」


「えぇ勿論」


 私は報酬をマジックバッグに入れると、ギルドでいい感じの依頼が無いかをちょっと探してから、放課後の夕暮れ時という事もありさっさと寮へと帰った。





 寮に戻った私は、先に勉強をしていたルビーと一緒に勉強を始めていた。



「むー····· ねぇルクシ」

「魔法理論における総魔力量の定義は自然界に存在するエーテルとも呼ばれている魔素に自分の固有魔力を混合させた物、が正解よ」


「なんでわかるの?」


「チラ見してたのよ」


 こんな感じで、問題が解けず悩んでいるルビーに助言をしながらだけれど。



「間違えたわ、正しくは『自分の』じゃなくて『自身の』だったわ」

「どっちでも良くない·····?」


「あの先生はそれだけで減点してくるわ」


「·····そうだった」



 どの世界でも、理不尽な採点をしてくる先生は居るらしい。

 ちなみに過去にルクシアはこの教科以外満点で、たったひと言の言い回しが違っただけで1点減点された恨みがある。



「ありがと、ルクシアちゃん」


「お礼なんていいわよ、いつもの事だし復習にもなるわ」

「こわ·····」


「復讐じゃないわよ」


 なんて他愛もない会話もしつつ、ついでに勉強もしながら、私はとある作業をしていた。


「·····なかなか居ないわね」

「なにが?」


「今話題の『ユーシャ』よ、この街に向かっているって噂を聞いて、私のスパイスも探しているようだから念の為先に顔を見ておいてやろうと思ったのよ」


「何するつもり?」


「私、信用が無いのね····· なんか勧誘とかもしている危ない人物みたいだから、遠目で見て逃げられるように顔を見ておきたいのよ」


「そういう事かぁ」


 そういう事で、私は西の方から来ているという情報から、西方の町を軽く探していた。


 なんでも珍しい髪の色をしているらしいから、見れば何となくわかるだろう。


 ·····まぁ、夜だから見えにくいけれど。



「変な髪色·····ねぇ、どんな色かしら」


「ピンク·····はよく居るよね、青とか赤もいるし····· 緑もエルフの人に時々いるし」

「紫とかあまり見ないわよね、あと金はいるけど黄色は見た事が無いわ」


「うーん····· そういえばルクシアちゃんの髪の色も珍しいよね」


「えっ?そうかしら·····」


 ルクシアは自分の軽く結った長髪を顔の前に持ってきた。

 艶やかな黒髪が魔導ランプの光で濡れたように照らし出され、確かに珍しい髪色だと思い出した。


 この町の人は大半が金髪で、時々桃色や赤青緑ピンク白など様々な髪色の人が混ざる。


 けれど、黒髪は意外と珍しく全体の5%も居ない。



「·····案外、勇者黒髪なのかもしれないわね」


「でしょ?黒髪黒目も珍しいし、そうかもよ?」


「助かったわ、ちょっと探してみるわ」



 その後も暫く勇者を探したものの、黒髪の人物が多すぎるのとどの辺まで近付いているか不明だったため、特定は出来ずある程度候補は絞って今日の捜索は断念したのだった。



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