光の意外な弱点
「·····しくじったわ」
「ど、どうなってるのそれ·····」
「1回しっかり再構成しないと無理ね·····」
私は今····· なんて言うべきなのかしら?
本当に意味がわからないけれど、体が何重にもブレて分身したみたいになっていた。
幸い、ルクシオンは解除していなかったから体には影響は無かったけれど、逆に言えばこの状態が戻るまでルクシオンを解除出来なくなってしまった。
しくじったわね·····
寮の部屋に正面から入るのがめんどくさいから、変なことをしなかったら良かったわ
「どうやったらそうなるの·····?」
「狭い隙間を通り抜けたらこうなったわ····· そこの隙間が2本のところだったのよね」
「えぇ·····?」
ルクシオンを発動中は体の形を変える事が出来て狭い隙間でも通り抜けられるのだけれど、今回通り抜けたのは隙間の間隔が狭い格子だった。
すると体が突然波打ち始め、通り抜ける頃には体が何重にもブレてしまったのだ。
これは『二重スリット実験』で起きる現象で、光が波と粒子の性質を持つが故に発生する不思議な現象なのだが、ルクシアは『ルクシア・ターディオン』という個であり、光という波でもあるが故に発生した珍奇な現象だ。
既存の物理学ではこんな事は起きない事に留意していただきたい。
「はぁ····· 光って本当に訳分からないわ·····」
「訳分からないものなのに使ってるんだ」
「便利だから仕方ないのよ、まぁでもこういう時は·····」
「こういう時は?」
◇
「で、この状態なんだけど何か知らないかしら」
「おじゃまします·····」
「知らねぇよ」
「·····そう」
私は原因を究明するため、とりあえず知ってそうなフィジクス先生に頼った。
でも先生もこの状態について何も知らなかった。
「ていうかお前、俺の部屋に勝手に友達連れてくるな」
「良いじゃない、減る物も無いでしょう?」
「お前らが来ると紅茶の茶葉が無くなる、それとこの部屋の空間も減るな」
「あ、あの、わたし····· コーヒー派です·····」
「ワガママだなお前ら」
そうは言いつつも、ちゃんと2人分のコーヒーと紅茶を淹れるあたり、フィジクスはルクシアより圧倒的に常識人だ。
「で?どうしたらいいのかしら」
「·····一回解除してみたらどうだ?」
「死にそうだからやめるわ」
体がブレて、しかも数人に分裂したような状態でルクシオンを解除したら、本当にどうなるか想像もつかない。
もしかしたら、そのまま即死する可能性があるのだから何も考えず解除するなんて事はもってのほかだ。
·····ただ、ルクシオンって結構魔力の消費が多いのよね。
日光に当たって光を魔力に変換していないと私の魔力量でもすぐに魔力切れを起こしそうなのよ·····
「紅茶ができたぞ」
「助かるわ、·····あっ、ルクシオン中は飲めないわね、解除」
「あっちょ、待ってルクシアちゃん!」
「おい待て、解除は·····」
「「「「何よ、って何よこれ!?!?!?!?!!?」」」」
紅茶ができて手元に来た瞬間、ルクシアはあっさりとルクシオンを解除してしまった。
その瞬間、幾重にも重なって更に分身していたルクシアが、一斉に元に戻ってしまった。
が、ブレるようになっていた部分は自然と戻り、普通のルクシアへと戻って特に大きな問題は無かった。
·····のだが。
「え、なによこれ、どうなってるの?」
「わたしがごにんいる!?」
「いみが分からないわ、しかもなんか·····」
「身長がちがうわね、私たちは12さいくらいかしら?」
「·····どうしてこうなったのかしら?」
二重スリットの効果により、中央は濃い光でその左右は少し薄く、その更に外にはさらに薄い光の線が投影され、計5本もの光になっていたのだが·····
なんと、それが反映されたのか一番外側は8歳くらいのチビッ子ルクシアに、その内側は12歳くらい、中央の普通のルクシアは元々の年齢くらいと、年齢の違う5人のルクシアに分裂してしまったのだ。
もう物理学は完全に破綻したと言えるだろう。
魔法は時に科学を凌駕するのだ。
「知るかボケ····· あぁ頭いてぇ····· コイツほんとにいつもやらかすな·····」
「あ、あの、私頭痛止めの魔法使えますけど·····」
「·····胃にも頼む」
「あっ、はいっ」
5人に増えたルクシアが大慌てでワチャワチャする様子を見て、フィジクスはだいぶ頭が痛そうに机に肘をついてで頭を抱えた。
そこへすかさずルビーが来ると、フィジクスの頭痛やストレス性胃炎を治してしまった。
「ふーん、私って昔から意外と可愛かったのね」
「どのねんれーでもかわいいってしれてよかったわ」
「8さいくらいの私だと舌ったらずになるのね、·····って私もちょっとそうかしら」
「わっ軽い」
「はなしてー」
「·····もう一回頼めるか?」
「え、えっと、乱用はあんまり····· でもわたしも自分に掛けとこ·····」
ルクシアが自分同士で何やらふれあいを始めたところで、ルビーも頭痛がしてきたのか自分に痛み止め魔法を掛けた。
非常識すぎるルクシアが5人に増えた事に耐えられる者なんてこの世に存在しないのだ。
たぶん魔王でもストレス性胃炎でぶっ倒せるだろう。
「お前ら····· もういい加減出て行ってくれ····· あっルビーお前は残れ、腰痛の治癒もついでにお願いできるか?」
「あっはいっ、やります」
「「「「「その前に紅茶追加でもらっていいかしら、全員分」」」」」
「お前ら全員帰れ!!!今すぐ!!!!出ていけ!!!!!」
5人分紅茶を淹れさせられそうになったフィジクスはブチギレて、ルクシア5人組を部屋の外へ投げ出したのだった。
ちなみにその後、ルクシア軍団はルクシオンを発動して合体したら普通に元に戻ったらしい。




