ボスも楽勝よ
「·····明らかに敵が強くなってるわね、一撃だけれど」
現在、私は35階までやって来ていた。
そして徐々に、敵に私の攻撃に耐えてくる者が現れ始めた。
·····いえ、正確には攻撃が効かないタイプの敵、と言うべきかしら。
『オオオオオオオオオ·····』
「ちっ、厄介ね」
それは、魔法攻撃以外は攻撃が通らない霊体系の魔物、ゴースト等だ。
あの熱と爆風の中でも平然と攻撃を仕掛けてくるんだもの、最初は驚いたわ。
·····でも、弱いのよね。
「『ガンマ線』照射よ」
『オ”オ”オ”オ”!!?!?!?!?』
ジュボァッ
「楽勝ね」
私はゴーストに対して、紫外線のさらに外側に存在する光線、ガンマ線を照射した。
その瞬間、霊体であるはずのゴーストは瞬時に浄化されるかのように焼失した。
·····ガンマ線と言っているけど、使い始めたら脳裏にこの名前が浮かんできたのよね、新たな魔法を見つけると自動で名前が付与される事があるみたいだけれど、私も初めてそれが起きて驚いたわ。
ちなみに、どうやらゴースト系の魔物は紫外線に弱いみたいで、更にその上の波長のガンマ線となると瞬時に滅殺できるみたいなのよね。
ほんと便利だわ、·····人に向けて使うとシャレにならない程の猛毒を発するみたいだから、こういうダンジョン内でしか使えないけれど。
「さて、安全も確保できたし戦利品でも見ようかしら」
で、35階までに集まった不壊のアイテムは15個を超えた。
そのうち、8個はゴミだったが残りの7個は使い道がありそうなモノだった。
「壊れない短剣が出たのが一番ね、使い道があり過ぎるわ、それに壊れない革袋が物凄く助かるわね」
特にその中でも、壊れない短剣と革袋が便利な当りだった。
この地獄めいた環境でも壊れない袋は探索にもってこいで、口をしっかり閉じればなんと外の熱は遮断してくれるのだ。
·····衝撃はそのまま伝わるから、油断してさっき手に入れたボスの守っていたハンマーが粉微塵になったのは惜しかったわ。
高く売れそうだったのに。
「でもいいわ、不壊の布を詰めれば衝撃吸収も出来るし」
でも27階で手に入れた、壊れない布切れ(3m)を袋の中に詰め込んだことで、衝撃もある程度吸収できるようになり不壊でない物もある程度持ち運べるようになった。
この装備が充実していく感じ、たまらなく楽しいわね。
「·····要らない物も多いけど」
が、当然あたりもあればハズレもある。
一番のハズレは壊れない水入り瓶····· ではなく『壊れない水』だった。
意味が不明で、確かにあの爆発の中でも蒸発せず耐えたけれど、何に使うのか全く理解不能だった。
結局、そのあと手に入れた壊れない短い棒をワイン瓶に力業でねじ込んで水を保管しているのだけど、たぶん後で短い棒諸共捨てるわ。
·····みたいな感じで、ハズレばかりだった。
「はぁ、でも防具は出ないわね····· 胴部分は別に要らないから手足だけでもいいのに」
といった感じで、ルクシアは見事に物欲センサーにやられて欲しかったものが全く出てこなかった。
ダンジョンがどこまで続いているかはわからないが、この調子だと出てくる感じがせずかなり困っているのだが·····
『貴様、貴様ァ!!!』
「·····?」
『貴様だ貴様!!なんで後ろに誰かいると思った!!』
「さっきからゴーストが多いから後ろに誰かいると思ったのよ」
『·····確かにそうだが!この状況では貴様しか居ないだろう!!』
そう思っていた所に、謎の声が響いてきた。
どうやら、ダンジョンのマスター的な存在から話しかけられたようだった。
しかも相当怒っているようだ。
「なんでそんなに怒ってるのよ、牛乳でも飲んで落ち着きなさい」
そりゃあんなことをしたら怒るに決まっている。
『貴様が我がダンジョンの階層をメチャクチャにしたからだ!!!!!何をどうしたら階層まるごと更地の地獄にできるのだ!!!』
ほら言わんこっちゃない。
既に20階以上を全ての生命を拒絶する地獄に変えてるのだから、誰だって相当怒るに決まってる。
しかもルクシアは知らないが、度重なる大爆発の影響が外にも出はじめ、既に塔の外装はボロボロに崩れ始めているのだ。
そりゃこだわりの強いダンジョンマスターなら激怒するに決まっている。
「私、効率重視派なのよ」
『正攻法を使え!!!!!』
ダンジョンマスターの方がマトモなのはだいぶおかしいが、ルクシアには通用しない。
「別にルールなんて無いのだからいいでしょう?」
『マナーはあるだろうが!!!』
「ちっ、うるさいわね、反省してるわよー」
『きっさまぁぁぁあああああああああ!!!40階で待つ!絶対殺してやる!!我が名ヴァ』
ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!!!!
ルクシアは反省してるとか言いながら、オーク型貯金箱を亜光速で投げた。
当然35階は消し飛んだ。
◇
「チッ、しけてるわね·····」
現在は38階跡地へと到着し39階を目指していた。
追加で手に入れた不壊のアイテムは2個、どちらも使い道のないゴミだった。
「はぁ、さっさと攻略して次のダンジョンに向かおうかしら、目的の物もないし使えないわねホントに」
ちょっといい感じの物は沢山あったけれど、目的の防具はどこにもなく私はあきらめ気味で、トボトボと落ち込みながら階段を登っていった。
·····と、いうところで誰かが39階の入口に立ちはだかった。
「貴様ァァァアアアア!!!もう許さん!貴様が滅茶苦茶なダンジョン攻略をされては我が困る!だから今ここで殺してやる!!!」
「誰かしら?」
「知らんのか!!!」
「知らないわ」
「さっき話し掛けたばかりだろうが!!我は真なる吸血鬼であり(略
ここで解説だが、このダンジョンのマスターは吸血鬼だ。
だからダンジョンの階層は薄暗く、日光が無いように設定されていたのだ。
そして本題だが、この世界には吸血鬼が2種類存在する。
一つはいまルクシアの目の前にいる『吸血鬼』という人間の血を啜って生きる魔物で、人間の血液を吸い続け人間に近い見た目に進化した吸血コウモリの末裔の魔物だ。
魔物の中でもかなり知能が高く、実力も高いため相当な強さを持っているのが特徴と言える。
ちなみに弱点は吸血鬼といえばという感じの全てが弱点となっている。
で、もう一つは『亜人族』という魔物には属さない人間の一種の『ヴァンパイア族』が居る。
こちらも人間の血を吸うため混同されがちなのだが、吸血鬼とは違い血液は生命維持に必要な物ではなく『嗜好品』で、人間だけでなく動物などの血液から魔力を吸い取る事で力を獲得できる種族だ。
まぁ飲まなすぎると体調不良を起こすため、嗜好品とは少し違うが死にはしない。
さらに吸血鬼とは大きく違う特性として、吸血鬼にある弱点のほぼ全てが通用しない。
流水は平気で渡れ、ニンニク料理は好き嫌いはあるが食べれる、銀製品は平気で、心臓に杭を刺されても····· いやそれは生物として普通に死ぬが、基本弱点は無い。
ちなみに十字架はこの世界には無い。
で、唯一の弱点は日光なのだが、ヴァンパイア族は太陽光に当たると過剰にビタミンDを生成してしまう体質を持ち、酷い者だと冬の曇りの日に外に出るだけで倒れてしまう事がある。
日光が弱点で吸血をするという事が似ている、というだけで吸血鬼と間違われ、差別されている何とも可哀想な種族がヴァンパイア族なのだ。
で、なぜ今この解説をしたのかというと·····
「貴様が金剛不壊のアイテムを狙っているのは知っている!この先の我が宝物庫には確かにソレはあるが!それ以外の貴重なアイテムも多数ある!!我が宝物をこれ以上壊されてたまるか!!!しかもかなり内装に力を入れているのに貴様に灰燼にされたら死よりも悔しいではないか!!!!ならば今ここで殺す!!!!」
相当キレてる吸血鬼が、解説と化する前に決着を付けそうだからだ。
というか、もう決着はついた。
光を操れるルクシアの前にノコノコと出てくるんじゃねぇよこの吸血鬼が。
「そう、いいことを聞いたわ、いい感じの防具もあるのね?」
「貴様に教えたところで意味はない!ここで死ぬのだからな!!」
せめて不意打ちでもしてれば勝てたのかもしれないが、光の速度で反応してくるルクシアには時間停止でもしなければ勝てないだろう。
まぁ残念ながら彼は吸血鬼だが時間停止の能力は持っていないが。
「ちなみに貴方も日光が弱点なのよね?」
「それがなんだ!このダンジョンに日光は入ってこない!更に我は日光以外は効かない真祖に最も近い吸血鬼!ヴァンデアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!??!?!?!?!」
「『紫外線照射』よ」
次の瞬間、吸血鬼ことヴァンデアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!??!?!?!?!が灰燼になり消えた。
吸血鬼が日光に弱いのは周知の事実だが、その光の中でも特に紫外線に弱く、最近光の波長を自由に操れるようになったルクシアは弱点の紫外線のみを収束させ高出力でヴァンデアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!??!?!?!?!に向けて解き放った。
その強さは人間でも直視すれば瞬時に失明し肌に深刻なダメージを与える程で、当然ヴァンデアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!??!?!?!?!が耐えられるわけもなく全身を紫外線が貫いたヴァンデアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!??!?!?!?!は瞬間的に塵になって消えたのだった。
ちなみに彼の本名はヴァンデアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!??!?!?!?!ではなく『ヴァンデアルゲス・ディーンルスト・ヴォン・ディスオールナイト・ヘッケンルッセン・ツェペシュ・ヴラディシュラス3世公爵』というこれまた長い名前が本名だったのだが、それを言い切る前というかヴァンデまで言って絶叫しながら塵になったため、ルクシアに変な名前だと勘違いされてしまった。
「·····ヴァンデアアアアアアア、覚えやすいけど変な名前ね、覚えておくわ」
魔石だけを残して塵となったヴァン(略は文句の一つも言いたかったが、もう既に塵になっているため何も言えず、ダンジョン破滅のプロフェッショナルと化したルクシアが上に上がっていくのを見届ける事しかできなかったのだった。
ちなみに吸血鬼はコアとなる魔石を破壊しないと蘇るが、そう簡単には復活できないため、結局詰んでいる事に変わりは無かった。




