狙いはウルトラレア
「·····何かしら、これ」
私は地獄めいて白熱する10階から続く階段の上の11階で、木剣に引っ掛けて回収したそれを確認し始めた。
「って絶対これ熱いわね、近くに池は····· あったわ」
ポイッ
ッッバァァァアアアアアンッ!!!!
「ひゃんっ!?」
が、回収した物は信じられないほどに加熱されていたため、近くの泉に投げ込んだ瞬間に水蒸気爆発を引き起こした。
そりゃプラズマ化するほどの温度の物を投げ込めばそうなるに決まっている。
いや、金剛不壊故にプラズマ化はしないが、瞬間的に爆発を引き起こすくらいには熱くなっている。
そして吹っ飛んだ物を探して冷まし、改めて確認を始めた。
「·····豚の置物?あっ背中に切れ込みがあるわ、硬貨用の貯金箱ね」
それは、豚の貯金箱だった。
「ん?腰蓑を付けてるわね····· オークの貯金箱だったのね」
正確にはオークの貯金箱だった。
·····正直、要らないわね。
なんで金剛不壊がこんな物についたのよ。
「とりあえず何か入れてみようかしら、·····金貨しか無いわね、まぁいいわ後から出せば」
ちゃりーん
「·····しまったわ、これ、出せないんじゃないかしら」
貯金箱は溜まったら壊して中身を取り出すモノだ。
しかしこの貯金箱は絶対に壊れる事は無い。
ちなみに金剛不壊は永続ではないが、必要な魔力量の少ない物に付与された場合、自動で空間の魔力を吸収するため半永久的に発動する。
現に、ターディオン家の耳掻きは魔力補充もしていないのに折れた事は無い。
そして不幸な事に、この貯金箱は自然魔力で効果を維持できてしまった。
余談だが、このダンジョン内は魔力がかなり多く、よほどの物でも無い限り金剛不壊の効果が切れることは無い。
つまり、この貯金箱に入れたお金は二度と取り出す事が出来なくなってしまうのだ。
「呪いのアイテムじゃない!!どうしてくれるのよ私の金貨!!」
可愛らしい顔つきのオークの貯金箱が、今のルクシアには嘲笑っている憎たらしい顔つきに見えてきていた。
ちなみに金貨は1枚で5万イェンほどと、かなり高額だ。
「ちっ、腹立つわ、本気で壁に投げつけて壊してやるわ」
キレたルクシアは、貯金箱を持つと今度は光速の99.9999%、ほぼブラックホール化するほどの速度で貯金箱を壁に叩きつけた。
当然、貯金箱は壊れなかった。
そのかわり、ダンジョン内は壊滅状態になったのは言うまでもない。
ついでに貯金箱の中身までは金剛不壊の効果は働かず、中の金貨も消し飛びルクシアはかなり落ち込んだのだった。
因果応報である。
◇
金貨を失い、そのかわり変な貯金箱を手に入れたルクシアは、12階に上がる頃には元気を取り戻していた。
切り替えが早いのもそうだが、彼女にとって得になる事があったからだ。
「この貯金箱、投げやすい形だし壊れないの助かるわね····· しかも複数効果があるなんて」
なんとこの貯金箱、投げて何かに衝突すると自分の手元に戻ってくる効果があったのだ。
これではもう貯金箱というより投擲武器の方が正しい気がするが、元々お金を取り出せない時点で貯金箱失格のため別に良いだろう。
ちなみに手元に戻ってくる機能は正確には『盗難防止』という効果で、一定距離から離れると自動で手元に戻ってくるモノだ。
そしてルクシアは、光速で投げても壊れず紛失もしない、素敵で最悪な投擲武器を手に入れてしまった。
この先、鉄球などをわざわざ購入したりして無駄なお金を使わなくて済むと思えば、5万の出費も·····
·····割と痛いが、なんとか許せる範囲にまで下げられていた。
「はぁ、これでさっきの階に金剛不壊の効果のあるアイテムがあれば良かったのだけれど·····」
ちなみに先程の、ルクシアの八つ当たりで消し飛んだ11階には金剛不壊のアイテムは無かった。
·····実は金貨300枚相当の黄金の吸血鬼像があったのだが、もちろん消し飛んでるため本人は気がついていない。
「さて、次もコレで消し飛ばすとするわ」
◇
13階
·····だった階層で、ルクシアは必死にそれを追いかけていた。
「ご、誤算だったわ、回収できないじゃない!!」
今しがた消し飛ばした13階にはなんと2つも金剛不壊のアイテムがあったのだが、そのアイテムの片方が問題だった。
オーク型の貯金箱は偶然にも引っ掛ける場所があったから何とかなったのだが、今回は両方とも木刀で引っ掛けて回収するのが難しい代物だった。
「ちっ、片方は変な置物だからいいけれど、こっちは少しほしいわ!」
片方は変な形の意味不明な置物だったが、もう片方はベルトのような形状のロープのような物で、使い道がありそうだったためルクシアは追いかけていた。
·····が、木刀に絡ませる事も難しく、温度が数十万度を超える空間では物質に触れられない『ルクシオン』を解除して回収する事ができない。
故に、唯一触れられる木刀で回収しているのだが上手く行っていなかった。
「どうしたものかしら····· あっ妙案を思いついたわ、たぶん行けるんじゃないかしら·····『重力レンズ』っ!」
そこでルクシアは機転を利かせ、普段は光を屈折させるために使用している重力レンズの核となる強力な重力源を発生させた。
するとベルトは重力源へと吸い込まれ、爆風で飛び回ることなく回収ができた。
「便利ね、いい方法を見つけたわ」
その後、一応変な形の置物も回収したルクシアは14階へと進んだのだった。
◇
「なかなか良い物が無いわね·····」
現在、私は21階まで到着していた。
つまり、21階までのフロアは全て私が消し飛ばして目当ての金剛不壊のアイテムだけ集めた事になる。
一応、今は20階にいたデミドラゴンを倒して、お宝を回収して次の階に行った後に20階を消し飛ばして集めた物の確認と同時に休憩中ね。
「結構いいハンマーね、不壊じゃないから使えないけれど」
デミドラゴンが守っていた宝は、豪華な装飾が施されたハンマーだった。
特殊効果はわからないけれど、とにかく威力の高そうなハンマーで普通の人なら使えるのでしょうけど、私にはあまり使えない物だった。
で、本題はここからね。
「金剛不壊のアイテムは合計5個、だいたい1/2の確率であるのね」
なお、本来は端から端まで歩くと3日は掛かる広大な階層をくまなく探し、ようやく見つかるもののため普通は見つけられない。
·····が、ルクシアは全て力業で解決したため、簡単に見つけてしまった。
良い子はダンジョンの醍醐味を全部ぶっ壊して結果だけ得ようとする攻略はやめましょう。
「この貯金箱とベルトは案外使えるわね、ベルトは拘束に使えるし、貯金箱はもうレギュラー入りだわ」
で、ルクシアが手に入れた金剛不壊のアイテムのうち、使えるアイテムは3つあった。
もう2つはルクシアが言ってしまったが、使えそうな中での最後の一つは·····
「壊れない瓶は助かるわね、まぁ栓は無いからそこは必要でしょうけど、割れないのは強いわ」
空き瓶だった。
いわゆるゴミだが、ワインの瓶くらいの大きさでうまく使えば壊れない容器にも、最強の鈍器にもなる。
どっかの天空の城の王は最序盤にヒロインにワインの瓶で殴られて気絶していたが、普通は致命傷になるほど威力があるため、ルクシアが亜光速で振ればドラゴンさえ倒せるだろう。
で、問題はその使えそうな3つではない、残った二つだ。
「で、問題はコレよね····· 何に使うのかしら、これ」
壊れない壊れた万年筆と、壊れない穴あき靴下(片方)だった。
いわゆるゴミだ。
「いらないけど、売れる可能性あるのよね····· 本気でいらないけれど」
ルクシアは少し悩んだ後、壊れた万年筆と靴下はその場に破棄して探索という名の大規模破壊を続ける事にしたのだった。




