36. 空は涙を降らし、焔は夕焼けに眩む
「コラァ──ッ! また抜け出したなあいつ!」
俺はスタン。騎士団に入団して100年ほど経ったがまだまだ新米扱いされている竜騎士だ。
なんでも大先輩レナードさんくらい騎士団にいないと一人前として認められないらしい。そりゃないよ。
レナードさんはものすごく長生きしていて大いなる戦いのはじまりから終わりまで見届けたっていうから皆は尊敬の眼差しだ。
でも彼、武勇を極めたいからって理由でずっと騎士団の指南役を務めてくれているんだと。そして自ら訓練に参加して自分の力も高めていると……すんごいなぁ。
なんでも弟さんがいるみたいで、これまた優秀で執政官の中でもエライ人でレナードさんは鼻高々、なかなかに自慢して回るほど兄弟仲がいいらしい。いつか会ってみたいものだ。
こんな話をしている場合じゃない。俺は捕まえなきゃいけないガキがいるんだ。
「どこいった! 後ろ姿は見えたんだが……」
それなら魔力を探知すればいい。
俺は精神を集中させてあの日に日に大きくなっていく魔力を探す。
「……いたな。隠れてやがる」
路地裏の壺の中だ。まあ、昨日こっぴどく政治のお勉強で絞られたみたいだから鬱憤が溜まっているのだろう。
(少し遊んでやろうか)
俺はわざと壺の周りを探すフリをする。
「あれ、こっちに逃げた気がするんだけどな、おかしいな」
俺も鈍ったかな、とわざとらしく口に出しながら壺を背にして箱の中やらを確認していると。
「……」
お、見てる見てる。いつ驚かしてやろうかとニヤニヤ笑ってるんだろうな。
こっちはお見通しなんだけど。
仕方ない、騙されてやるか。
壺から子どもが──俺を驚かせようと飛びかかる。
「わ〜っ!! どうだ驚いたか!」
「うわ、殿下!? そんなところに〜っ!?」
口を大きく開けて心底びっくりしたような表情をする。尻餅までつけば完璧だ。
その悪戯っ子な子ども、この国ゼレンセンの王子であり次代の竜王である竜族。
黒髪に金の瞳の子竜。
小さなクリス・ゼレンセン様が壺の中で高笑いをしていた。
「はっはー! 参ったかスタン!」
「こりゃいっぱい食わされましたよ。心臓の宝珠に悪い」
「でもお前、魔力探知してただろう?」
ぎくり。汗がこめかみを流れて咄嗟に拭く。
「な、なんのことだか」
「俺の魔力はバカでかいから探しやすいって前に言ってたじゃないか。それに探知されると俺でもわかる。千里眼があるからな」
そう言ってクリス殿下は己の金に光る瞳を指さす。
「俺にも調子が悪いときがあるっていうか……」
「ふーん。そういうことにしとくぞ」
殿下がひょいっと壺から出ていって走り出す。
「父様にスタンは魔力探知が超下手ってこと伝えておくよ!」
「あっそれはいけません! コラ、逃げるなーっ!!」
クリス殿下は頭をすっぽり隠せるフードを被って、城下町の方へとあっという間に走り去ってしまった。
「おいおい、人が多いところだと魔力探知がやりにくいんだぞ……」
まあいいか。今日はたっぷり遊ばせてやろう。
「さぁて、今日も楽しい追いかけっこの時間だぞ、と」
俺もまた城下町へと走るのだった。
「なあお姉さん、そのお菓子ってどんなやつなんだ?」
「まあまあお姉さんだなんて。お父さんお母さんのしつけが良いのね」
俺ならお姉さんとは呼ばないような年齢の町民に話しかけるクリス殿下は、親である父王と王妃を褒められて嬉しそうにしている。
「これはね、果実を花蜜に漬けて乾燥させたものよ。甘くておいしいんだから」
「へぇ。みんなで分けて食べられそうだな。これで足りる?」
と言って殿下はとてもお菓子の値段としては大量の硬貨を渡しお菓子を受け取る。
「ち、ちょっともらいすぎだよ! こんなにもらえないって、坊や!」
「いいって! この間お姉さんの家族に赤ん坊が生まれたんだろう、それで少しでも栄養のつくもの食べさせてやってくれ!」
殿下はすぐに走って行ってしまって、店番のおばさんは呆気に取られていた。
「なんでうちの妹が赤ちゃん産んだこと知ってたのかしら、あの子」
「そりゃあ、毎日王国全体を魔力探知して、国民の帳簿見て『お勉強』してるからだろうなぁ」
俺もお金を払ってお菓子を取りながら言う。
おばさんは突然竜騎士が現れてびっくりしている様子だった。
「ま、星の竜からの贈り物だと思って使ってやってくれ。じゃあ俺は仕事に戻るんで!」
俺も殿下が向かった方向へ走る。
お、この花蜜漬けおいしいな。そういや前に会ったアイリスって子が花蜜を採るのが上手いって聞いたことがある。
(あの子、ちゃんと執政官になれてよかったな)
そう思いながら俺はエヴァンテール公園へと足を向けた。
「これから魔獣ごっこをするぞ! 最後まで俺に捕まらなかったらこのお菓子をしんてーする!」
はじめ! と言って殿下は公園の子竜たちと遊び始めた。
(子竜はあれくらい遊び盛りなのがいい。殿下も翼を伸ばせるだろう)
見ているとあっという間に魔獣役の殿下は子竜全員を捕まえてしまったようで。
「やった! 俺ってばやっぱりすごいんだ!」
と喜んでいると、すぐに捕まってしまった子竜たちの気が沈んでしまっていて。
流石の殿下も本気を出しすぎたとわかったのか、しょんぼりとしながら懐からお菓子を取り出す。
「みんなで……食べないか? 俺だけ食べてもつまんないし」
パァッと子竜たちが目を輝かせて、お菓子に寄ってくる。
最初こそ楽しげに食べていた子竜たちだったが、だんだんお菓子の取り合いになってきて。
「おい、お菓子はまだあるから押すな、って──」
殿下が押し合いでその場に尻餅をついて、フードが露わになる。
この星で唯一の黒が晒されてしまった。
「黒竜だ」
「さいやくの竜だ!」
「とーさんかーさんが言ってた、あぶないから逃げろって!」
怖がる子竜の声に反応して公園の竜族の視線を集め、大人の竜たちも恐れて身を引き始める。
これはまずい。
俺はすぐに前に出て、殿下のフードを被り直させて抱き上げその場から走り去る。
「クリス殿下、大丈夫ですか。お怪我は」
「……してない」
「子竜の言うことです、お気になさらず。貴方は次の竜王様になられるお方なのですから」
「……また、母様に怒られる。俺が黒竜に生まれたから」
腕の中の殿下が落ち込んだ様子で声を小さくする。
「王妃様が貴方を黒竜だからといって酷いことをしたことがありましたか……まあ確かに躾は厳しいかと思いますが」
「きっと父様も母様も俺のことよく思ってないんだ。どれだけがんばっても、俺は……」
そっとクリス殿下を下ろして、俺はあの花蜜のお菓子を殿下に手渡す。
「殿下のがんばりは俺が見ていますよ。がんばっていれば必ず誰かが見てくれています。だから大丈夫」
「……そう、なのか」
しばらくじっと手の中のお菓子を見つめている殿下だったが。
突然何かを思いついたようで声を上げた。
「これだ! きっとこれなら母様も喜んでくださる!」
「どうしたんです、殿下?」
「俺、最近千里眼で視てるものを魔法で創れるようになったんだ。味見もしたしおいしかった!」
だから、と金色の瞳を期待でいっぱいにしてクリス殿下は言った。
「俺、母様のために『リンゴ』をあげようと思う!」
俺は一体なんのことだかわからなかったが、名案だと頷き殿下の頭を撫でた。
きっと上手くいく。きっと喜んでくださる。
そう思っていたときが、俺にもあった。
「俺が……しなせちゃったんだ。俺が、俺が母様を!」
クリス殿下が黒い涙を流している。
殿下の足元にはもう動かない王妃様が倒れている。
父王陛下がクリス殿下の様子に気づき皆を避難させる。
「邪竜化する! 皆逃げなさい!」
その言葉に恐れをなしたのかレナードさんの弟君、インゴルドが前に進んで自白する。
「私が! 私があの果実に毒を盛ったのです! 殿下のせいではありません!」
それでも殿下は自分を責められて。
「う、あぁ、あああああぁ──ッッ!!」
呪いを振りまく災厄の竜が、生まれた。
俺は壮絶な魔力の風から身を守ろうとして、だけど周りの竜族が巻き込まれそうになっているのを見て助け出す。
「おい大丈夫か! くそ、このままだと殿下が」
どうすればいい。どうすれば殿下をお守りできるんだ。
必死に王城にしがみつき、とにかく危ないところにいる竜族を外へと誘導する。
「スタン、そのまま皆を助けるのだ」
「陛下……?」
邪竜となってしまったクリス殿下の前に立つ陛下。 そして、元の姿に──大きな、大きな竜の姿に戻られる。
『星の竜の力を借り、私が止める。だから皆を頼む』
「陛下! 陛下──ッ!!」
目の前で起きた、邪竜の力が陛下を襲うところ。
魔力のぶつかり合いで霞む視界の中で陛下が殿下を止めようとしているのが見えて──俺は、意識を失って。
次に見えたのは、この国の竜王たる巨大な竜がクリス殿下の近くで倒れていた光景だった。
「陛下!! 殿下!!」
駆け寄れば、陛下は既に息を引き取っていて。
殿下は眠りについていた。
腕の中のクリス殿下の頬には黒い涙の跡が残っていて──俺は。
「……まもれ、なかった」
自分は殿下のお付きの騎士だ。殿下をお守りするのが役目だ。
なのに、なのに、自分は何もできなかった。
「お守りしなければ」
次に邪竜になってしまえば止める手立てはないだろう。
だから自分が、なんとしてでも守らなければ。
どんな姿になってでも守らなければ。
呪いに侵されようとも、殿下を──陛下を。
『──今度こそ、守るのだ』
俺は、目の前の敵である6人を前に、槍を構えた。
「──来る」
次の瞬間、疾風の槍がラーラを襲った。
(疾すぎる! 受けるので手一杯だった)
息を吐く間もなく槍の猛攻でラーラが押される。
ラーラの後ろで勇者一行が連携し散開するのを見て、呪いに侵されてもなお冷静な判断を失っていないスタンが後ろに大きく飛んで距離を取った。
『我が槍。本気の竜騎士というものを、見せて差し上げよう』
スタンは黒く染め上がった槍を握り、次の瞬間。
高く飛び上がって──焔を纏った一撃必殺の槍を、ラーラの眉間目がけ俊速の速さで投げた。
「──ラーラちゃんッ!!」
咄嗟にエリックがラーラを突き飛ばし黒い槍先が左腕を掠めた。
「エリックさん!!」
「ぐっ……呪いの炎か」
腕を押さえるエリックの表情は苦痛に歪んでいて、すぐさまシシリーが治癒魔法をかける。
「……これが竜騎士の戦い方です。高く空中に飛び、正確な槍の照準で敵の頭を穿つ。まず受け止められたとしても負傷は覚悟せよと言われています」
アイリスが、ゆっくりと地へと降りてくるスタンを注意深く観察しながら言った。
『そうとも、我が同胞よ。なぜお前は陛下をお守りしない? なぜ敵の味方をする?』
「……そう。私のことが認識できないのですね、スタン」
何度も呪いの汚染を受けた意識は、ただ主君を守るという意思のみが残っているということがわかった。
強靭な肉体。卓越した槍捌き。焔の竜として力を遺憾無く発揮させ魔力を漂わせているその姿は、まさしく最強といっても過言ではない。
完全な竜になっていないことが救いなのか、不幸なのか。
竜騎士として主君を守るという意識が残っていることの現れでもあり、アイリスはぎり、と奥歯を噛んだ。
「今度はこちらから行きますッ!!」
ラーラが魔法剣の斬撃を幾つも飛ばし、高く飛び上がる隙を与えなくする。そして瞬時に肉薄し聖剣と呪いの槍が鍔迫り合いとなって互いの魔力がぶつかる。
白銀と焔が沸き起こった。
『人族よ。陛下の討伐に来たか。そうはさせない』
「いいえ! クリス様を救いにきたのです! もちろん、貴方も!!」
『俺に救いなど必要ない。俺に必要なのは陛下の絶対の守りのみ』
ガキィン、という剣戟の音が響いて剣と槍が離れる。
そしてラーラはすかさず剣を頭から振り下ろし、流れで横薙ぎを二回、三回、そしてその場で飛び上がって回転しながら剣を振るった。
いつかスタンに習った竜騎士の型が、強力な魔力とともに繰り出される。
『基礎こそ最たる強さ。お前は竜騎士の何たるかを知っている。何者か』
「私はラーラ。勇者ラーラ」
ラーラがスタンの目の前まで走り槍を止めている間に──戦斧が背後から振られる。
「そしてオレたちは、最強の勇者様のお供ってやつだ!」
『最強を名乗るか。ならばその強さ、俺に見せてみよ』
スタンの斧の猛攻を蹴りで軌道を変え、上から降り注ぐ光魔法を横っ飛びで交わす。
「皆様、いま付与魔法をかけ直しま──」
『お前が要か。ならば真っ先に穿つ』
シシリーの心臓目掛けて凄まじい疾さの槍の突きがくる。
キィン、とその間に立ったのは、影の色をした盾だった。
『闇魔法……』
「ええ、貴方に勧められた闇魔法です。私だってやりますのよ」
『見事な盾なり。闇魔法は洗練されたコントロールが必要となる。だが──』
ピシ、と闇魔法の盾にヒビが走る。
『お前は魔力がどうやら少ない竜族のようだ』
「く──ッ!!」
魔力を込めてもヒビ割れは大きくなっていくばかりで、アイリスはかざした両手を目一杯広がるが。
「もう、だめ──っ!」
「諦めんなアイリスッ!!」
ブン、と斧が振り回されスタンが離れた瞬間、影の盾が粉々に壊れた。
「……助かりました、ステファン」
すかさずラーラがあの空中からの攻撃の隙を与えぬよう剣を振り、エリックが上方から矢を降り注がせる。
シシリーが皆に付与魔法をかけたそのとき、邪竜王の呪いのこもった咆哮が上がった。
『ぐぐぅッ……!!』
黒の呪いがスタンに向かって降り注ぎ、がくりと膝をつく。
その隙を逃さぬラーラではなかった。
「はぁッッ!」
全力を込めた聖剣の攻撃は咄嗟の槍の受け身によって止められた。
だが──その槍の振りは先ほどまでの疾さは失われていた。
それを見たアイリスが言う。
「ラーラ様。皆様。ここはお任せください」
「何を……!?」
ラーラや皆が驚く中、アイリスが冷静に分析した。
「スタンは今が一番弱い。もうこれ以上は意識を保っていられないはず。ここで畳みかけます──ステファンとともに」
一瞬目を見開いたステファンだったが、すぐに嬉しそうに歯を見せて笑った。
「そういうことだ! 早くしねぇと本当に邪竜王が取り返しのつかないことになる。早く行くんだな!」
「ですがステファン! アイリスさん!」
声を張り上げるラーラにアイリスが優しく言った。
「勇者ラーラ様。我らの光。どうかすぐにでも陛下の目を醒ませていただきたいのです」
「竜騎士だがなんだか知らねぇけどな、オレたちのタッグには敵わないってことよ!」
ラーラは、未だ呪いで動けずにいるスタン、そしてステファンとアイリスを見て。
「オレたちを信じろ!」
ふわりと彼女の──アイリスの片翼のマントが視界に映った。
(彼女たちなら、やってくれる)
ラーラはシャルにこう言い残した。
「シャル、貴女はここに」
「ええ、ラーラ様。スタンさんの回収は私がします」
「エリック、シシリー、行きますよ」
二人の返事が聞こえて、ラーラたちはスタン、アイリスとステファンを振り返らずに門を通っていった。
『……お前たち、二人だけで。俺を止められると?』
ゆらりと最後の力を振り絞りスタンが立ち上がる。
「ハッ、騎士団長だったか? あんた。アイリスの知り合いでもあるのか」
『オレは……守る、陛下を……』
「ダメだこりゃ。アイリス、オレとお前であいつを止めるぞ」
アイリスは、拳を握りステファンの前に立つ。
最強の騎士に対峙するは、最弱の魔力を持つ筆頭執政官。
「夢を持ちました」
アイリスはこれまでの数々の戦いで汚れた頬を拭う。
「貴方と陛下をお守りするという夢を。貴方の夢は、私たちの夢となった」
『何を……』
「やれることを全てやる。教えてくれたのは貴方です。だから私、やれること全部やります。利用して、弱みにつけこんで、どんな汚い手を使っても貴方を倒す」
焔を見据えて言う。
「一撃必殺、やってご覧なさい。私は──私たちは必ず、止めてみせます。だって」
ステファンを振り返ってアイリスは笑んだ。
「私たちの仲間は先ほど、止めましたから」
「……ハ、今回も止められるぜ。アイリス、お前とならな」
顔までも黒く侵されはじめたスタンが口を開く。
『俺の……夢は……必ずや』
スタンの右翼のマントがはためく。
アイリスの左翼のマントがはためく。
「守ってみせる──ッ!!」
どちらが先に言ったのか、わからない。
スタンが空中に飛び上がり──今度は槍とともに特攻をする。
「アイリス! 止めてみせろ! お前ならできる!」
ガギィィン、と赤の矛先と闇の盾がぶつかり合う。
凄まじき最強の騎士団長の力。
全力のアイリスの盾では一分と保たないだろう。
『この勝負、もらっ……』
「もらったとでも、言う気かぁ!? オレを忘れるな!!」
スタンの背中に向けて戦斧が迫る。
だがその攻撃をなんと蹴りで吹き飛ばした。
二人にもう勝機はない。盾を壊され斧の主は槍に貫かれる。
「──その蹴りを、待ってたんだよぉ!!」
ステファンは斧から手を離していた。
蹴り飛ばされた戦斧は地面に落ち。
「アイリス!!」
無数の影の手が、スタンの身体に巻きつく。
そして──ステファンが全ての力を込めて拳を握った。
「受け取りやがれ──ッッ!!」
ステファンの拳が、スタンの腹を突き破った。
ごふ、と口から血を流し、力を失っていく焔竜。
「私たちの、勝ちです」
『そして……俺の、負け……か』
がくりと影の手に巻きつかれながら体勢を崩すスタンをゆっくりと地に下ろし、治癒魔法もかけながらシャルがその胸元に光魔法の魔法具を取り付ける。
スタンが震える唇で問いかけた。
『どうして……俺、負けたんだろう』
「いいえ、負けていませんよ。貴方の夢は破れていませんもの」
『俺の……夢……』
「ええ。貴方の夢は私たちの夢になったのですから」
『俺たちの、夢』
ふ、とアイリスが柔らかく微笑む。
「そっか……そう、だったよな。俺たちの夢になったんだよな」
赤を取り戻していく焔竜は、霞む視界の中で、空を見る。
美しくて、凛としていて。たまに泣きべそをかくけれど、それは雨となって恵みをもたらすそんな空を。
「俺たちの夢を守ろうとしてくれて、ありがとう……アイリス」
焔をおさめるのは空からの涙。
空色の竜は、最後の竜騎士の手をぎゅ、と握った。
最強の竜騎士戦でした。
いよいよ終盤です。どうぞ最後までお付き合いください。
評価、ブクマ、感想お待ちしています。
次回の更新は明日8〜9時ごろ予定です。よしなに。




