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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

機動特殊部隊ソルブスシリーズ

ジハード

作者: 日比野晋作

 新年、明けましておめでとうございます!


 約、七カ月ぶりの投稿は二〇二四年の元旦。


 そして「機動特殊部隊ソルブス」シリーズの短編からスタートです!


 お餅を食べながら、ご拝読頂くと幸いです。


 そうは言っても、結構、重い内容ですが。


 ご拝読をよろしくお願い致します!


 山崎香南は眠りから目覚めた。


 眠りから覚めると、グリン大学のキャンパスが見えてくる。


 有名な近代建築家が作り上げたという、キャンパスは美しく、誇り高いものに香南には思えた。


 しかし、世間の評価は違う。


 五年前の年末に起きた、神格教動乱や血のクリスマス事件で、多くのグリン大学の学生が容疑者として加担した事から、学校の経営は行き詰り始め、自分たち、グリン大学の学生たちは世間から後ろ指を指され続けているのだ。


 この状況は打破しなきゃいけない。


 僕たちは自らの手で、追い詰めて来る敵を倒さなきゃいけない。


 大学の同胞たちはみんな、貧困や居場所が無いなどの苦しみを抱えていたから、キメラになったんだ。


 それを肯定できる社会を作る。


 それが僕たちの夢だ。


「良い夢を見ていたかい?」


 大学内に併設されているチャペルの牧師である、野島信二が声をかける。


「これから、良い夢を見るんですよ。手始めに」


 山崎は野島に向き直った。


「一場亜門を仲間に引き入れる」


 野島の顔は引きつっていたが、構わなかった。



「亜門君! 早く!」


 西暦二〇四五年、八月。


 世間ではお盆突入前の夏休みムードだ。


 一場亜門は非番の日に恋人の久光瑠奈と銀座でデートを楽しんでいた。


 三越でコスメやら何やらを買い物したら、次は有名洋食店でランチですか?


 化粧品は僕にはさっぱりだな?


「メシア、化粧品を後でレクチャーして」


 亜門は警視庁の準軍事組織特殊部隊ISAT(Independence Special Armored Team アイサット 独立特殊機甲部隊)所属の巡査で、主にパワードスーツのソルブス(Strike Operation Land Battle System SOLBS)を使い、テロに相対するのだが、同人が使う、機体は自立志向型AI搭載のソルブスである、メシアで、人と同じような会話が出来る。


「亜門、警察官から美容業界に転職するのか?」


「瑠奈の機嫌を損ないたくないんだよ」


「見事に尻に敷かれているな?」


 メシアが口笛を吹くと、亜門は「ベストカップルと言って欲しいな?」とだけ言った。


 そして、瑠奈の元へと走ろうとしたその時だった。


「一場亜門先輩ですね?」


 ひょろ細い、学生風の男が亜門の後ろから現れる。


 こいつ・・・・・・この風貌は金が無いな?


 銀座には不釣り合いな感覚だ。


 亜門がそう思うと同時に「何? 何の用?」とだけ言った。


 どうせ、名前が知られているならば、後で隊長に頼んで抗議してもらえば良い。


 そう思っていた矢先だった。


「御同行願いたい」


 警察官でも無いくせに何が御同行願いたいだよ?


「断る。大体、お前、誰だ?」


「グリン大学人間心理学部社会福祉学科二年の山崎香南です」


 自分の中退した大学だ。


 忌々しい。


 あの事件が起きて以降は残れることも出来たが、あまりにも幼稚な環境なので、中退して、警視庁に入庁する事を選んで以降はその存在を忘れていたが、ここで出て来るか?


「僕は中退だから、OBには当たらないけど?」


「ウチの大学と関連のある、人間が今では警視庁の英雄ですからね? 我々の仲間になってもらえませんか? 共に弱者救済の為に現行の体制を打破する為に警察の情報が欲しい」


 テロを計画しているのか?


 ウチのバカ大学ならば、考えそうな事だが、現職の警察官としては看破できない発言だ。


「何考えているか、分からないけど、発言する相手、気を付けた方が良いよ? 待遇が貧しくても犯罪者擁護の思想は現体制を守ることが主任務のサッカン(警察官の隠語)には理解出来ないし、したくない。お前らがブルジョアジーや無関心の共犯者と呼ぶ、一般的な国民には無関係で左利き程度の人数の為の一揆にマジョリティが巻き込まれて、大惨事になるのはいい迷惑だ。僕の前からいなくなれ」


「よろしいのですか? 彼女は置いてきぼりですよ?」


 しまった・・・・・・


 瑠奈を狙っているのか。


 亜門はすぐにメシアを構成する、スマートフォンとスマートウォッチに手をかけ、パワードスーツを着る準備をする。


「私は生身ですが、ソルブスを着ますか?」


「彼女に指一本でも触れてみろ。問答無用でお前をぶっ殺す」


「・・・・・・大学時代のあなたの優秀で正義感の強かったという評判を訪ね聞いて、ここに来ましたが、我々は諦めませんよ。今日はここまでにしましょう。また、次回」


 そう言って、山崎は何処かへと消えて行こうとした。


「待て! 逃げるな!」


「亜門、よせ! 深入りするな! 瑠奈の保護が先だ!」


 そう言われた瞬間に亜門は瑠奈の元へと走って行った。


「亜門君・・・・・・今の人、誰?」


 すると、亜門は瑠奈を強く、抱きすくめる。


「えっ?」


「・・・・・・家、泊まって」


「何で?」


「いいから。お義父さんにも言うから」


「パパのこと、局長って言わないと、怒られるよ? 亜門君?」


 瑠奈の父親は元警視総監で民間企業の役員をやった後にNSS(National security Secretariat 国家安全保障会議)の局長を任せられた、人物だ。


 故にお義父さんと言うと、怒り、局長と言わないといけないのだ。


「頼む、しばらくの間は家に居てよ」


「えっ・・・・・・そこまでストレートに来られるとなぁ?」


 瑠奈も内心では危機を感じ取っているが、平静を装って、鈍感なふりをしていた。


 何とか、瑠奈だけでも死守しないと。


 亜門は瑠奈を握る手が強くなるのを感じ取っていた。


「痛い」


「ごめん」


 この瞬間が愛おしくて、しょうがない。



(娘は君の部屋に泊っているのか?)


 電話の向こうの瑠奈の父親、秀雄は明らかに不機嫌だった。


「いえ、僕は官舎住まいなので、僕が瑠奈の家に・・・・・・僕が守らないといけないんです」


「小野には伝えたのか?」


 直属の上司の小野特務警視長には不審人物に瑠奈が狙われる可能性を伝えて、しばらく取っていなかった有休を使う形で瑠奈の送り迎えで東大病院にまで来ているのだが、愛車のバイクである、スズキKATANAを横手に真夏の外で待機するのも骨が折れるものだ。


「ただの悪戯じゃないようだな?」


「あの感覚は普通の犯罪者じゃないです」


「犯罪者である事は確かか?」


「弱者救済の為に一揆を起こすと、堂々と言っていますからね?」


「・・・・・・それとなく、救援と調査をしておこう。山崎香南と言ったな? そいつは?」


「本名かどうかは分かりませんが、グリン大学が今、どうなっているかが、全く分からないので・・・・・・」


「君は護衛に専念しろ。有給はたんまりあるだろう」


 本来は有休を申請して、働くのは立派な労基法違反だが、自分たちは日本の治安を守るサッカン(警察官の通称)なので、このぐらいの無理には慣れていた。


「まぁ、大事に至らない様に万全を尽くそう、お互い」


「お願いします」


 そうして、電話は切れた。


 すると、後ろからスーツ姿の男達が現れる。


「公総(公安部総務課の略)の福山一矢。階級は警部だ。君の交際相手の護衛と内偵中のある組織の話をしたくて、ここに来た」


 隊長か局長かは知らないが、手際が良いな?


 亜門は炎天下の中で瑠奈の帰りが遅いのを気にしつつ、福山に向き直った。


「身分確認だけ、お願い出来ますか?」


 福山が怪訝な顔をしたのを亜門は見逃さなかった。



 東大の学生食堂の机に腰かけて、亜門は福山の話を聞くことにした。


「今、現在も彼女の護衛と監視にウチの要員が出向いている」


「ならば、僕は部隊に帰投しても問題無いですか?」


「交際相手がテロリストに狙われているというのに、君はドライな男だな? おたくの小野隊長にこちらからお願いして、正式な特命として、君を借り上げる事にした」


 やはり、山崎某はテロリストか?


 ハム(公安部の通称)まで出張るぐらいだから、それなりの危険度という事だろうな?


「本題に入ろう。グリン大学はあの事件が起きた後に公調(公安調査庁の略)の監視対象に入った。その後、定員割れは毎度のように続いているが、その後は平穏なものだったよ。だが、山崎が入学してから、徐々に学内で武装決起の機運が高まってね? 内偵の結果、山崎は新世代見回り組の党員らしい」


 新世代見回り組は俳優出身の加藤博嗣という党首率いる、左派政党で反原発や貧困撲滅を掲げ、過激なパフォーマンスでも知られる、少数政党だ。


 しかし、最近では貧困層には圧倒的な人気を誇り、共産主義を掲げ、長らく、ハム(公安部の隠語)の監視対象であった、共鳴党から支持層を奪い取っているという話があるが、その党員が武装決起か・・・・・・


「ただの武装決起計画であれば、ISAT所属の僕は必要ないでしょう?」


「その通りだ。山崎はキメラを保有しているが、それだけじゃない。キメラへの改造手術を行う都内のクリニックを数件運営している」


 そこまで言ったら、十分な武装だよな。


 キメラを使われたら、ソルブスの出番だ。


 キメラとは合成獣を指す言葉だが、この数年では今は滅びた新興宗教団体且つ、テロ集団の神格教が作り上げた、人間と動物や植物に昆虫などとを掛け合わせた生物兵器を指す言葉として、世間では認知されている。


 五年前の神格教動乱以降にそれらの技術がネット上に流失して、世界各地でキメラを使った犯罪が横行しているのが昨今の社会問題だ。


 しかし、一学生の山崎が何故、キメラのクリニックを数件も運営出来ているんだ?


「山崎の両親は神格教の熱心な信者だったらしい。しかし、例の事件で神格教は崩壊。両親と共に無理心中しようとしたらしいが、本人だけ生き延びた。その境遇に同情した、グリン大学の牧師の野島伸司に拾われて、大学へ入学。武装決起に至っては崩壊した、教団のネットワークを使って、キメラという装備を集めたらしい。資金面に至っては、教団の再興を大義名分にして、着々と準備を進めているそうだよ」


 福山はタバコを取り出すが、亜門は「校内は禁煙です」とだけ言った。


「日本の最高学府だからな? いささか、配慮が足りなかったかな?」


 福山はタバコをしまう。


「でも、そこまで、分かっていたのなら、僕たちを使って、クリニックや大学に強襲をかけるなりすれば、事件は未然に防げるんじゃないですか?」


「君もソフトに見えて、かなりの強硬派らしいとは聞いていたよ。それはいずれ、行うが、上は新世代見回り組との関係性も洗えと言っている。それを紐づければ、政府に敵対する少数政党が一つ、潰れる。もっとも、事件を未然に防げなかった、会社上層部は叩かれるがね?」


 つまりは警察内部の権力闘争の結果、検挙を意図的に遅らせて、自分たちの都合の良い様な状況を作り出したい、人間がいるという事か?


「それは会社内部だけでの命令ですか?」


「発言には気を付けた方が良いぞ? 一介の特殊部隊の隊員には手の負えない話だ? 分かるか? 一場巡査?」


 考えられるとしたら、警察内部の権力闘争が一つ、外部からの影響を考えると、政府与党か反原発を掲げる、野党に対する牽制を狙う、電力会社の圧力を受けた、警視庁が意図的に事件を起こすように仕向けているか?


 関係の無い人間が死ぬのか・・・・・・


 亜門は組織人としては従わざるを得ないが、内心では唾を吐きたい気分になっていた。


「しかし、面倒な事がある。NSSの局長殿だ」


「何か、問題でも?」


「NSSは原則として、会社の業務には関与できないはずではあるが、あの元総監殿は何を使ったかは知らんが、俺たちに自分の娘の護衛と君の特命での同行を要求して来た。助かる面としては生身ではキメラを倒せないから、居てくれると助かるが、ここまでの越権行為は正直言って、不快でね?」


「そうですか・・・・・・あの人は自分の娘の事になると、見境が無くなりますからね?」


 福山はふと笑う。


「冷静だな? 君は」


「嫌な性格ですよ」


「俺もそう思うな?」


 メシアが久々に口を開くが、即座に亜門は「うるさい」とだけ言った。


「良いコンビだな? 中々に君等の部隊は楽しいところとは聞いていたが、想像以上だ・・・・・・彼女が帰って来たぞ?」


 瑠奈がやって来る。


「誰、このオジサン?」


「オジサン・・・・・・だと?」


「すみません、福山警部。瑠奈、公安の人だよ。警護に来てくれたんだよ」


 瑠奈はため息を吐く。


「やっぱり、危ない事に巻き込まれているんだ?」


「警部、瑠奈にはーー」


「話せ。マルタイ(警護対象の意)にもミッションの内容は理解してもらわないといけない」


 亜門は「分かりました」とだけ言う。


 缶コーヒーの特段に甘いカフェラテを飲みたい気分だった。



 小野澄子特務警視庁は副隊長の夏目美鈴警視と稲城四郎警視と並んで、目の前の画面に相対す。


 そこにはNSS局長の久光秀雄が銀縁の眼鏡を付け直す瞬間が映されていた。


「ハムは事件を未然に防ぐのが仕事でしょう?」


「私も素人ではないよ。愚問だ。それがどうした?」


 小野はコーヒーを飲み始める。


「意図的に事件を起こそうかという、感覚を覚えるんです。確かにセクションは違いますが、ハム(公安部の隠語)から依頼があれば、我々だって、キメラの製造クリニックにガサ入れして、その結果ーー」


「意図的に事件を起こせば、センセーショナルだからだろう? 新世代見回り組の党員の学生がキメラを製造して、武装決起をしたとなれば、当然、ハムは連中を監視対象にする。実態としてはキメラどうこうというよりは反原発というイデオロギーに対する牽制をしたい、与党と電力会社からの圧力。それと警視庁内部の権力闘争の末にわざと事件化して、何人かの幹部の足を引っ張りたい勢力がいるという事さ? 小野、これには従わざるを得ないぞ?」


 意味もなく、民間人を殺すわけか?


「局長、仮に武装決起が行われるとして、どの地点かを知りたいのですが?」


 久光は大きなため息を吐く。


「NSSはそういう機能は持っていないんだよ? ハムに知り合いはいない・・・・・・だろうなぁ。いたとしても教えないだろうが?」


 結果論として、ハム伝統の秘密主義が多くの罪無き一般市民を殺害する。


 平成の初めに起きた、神格教によるテロ事件とは何ら変わりがない。


 あの事件から、会社上層部は何も学んでいないじゃないか?


 小野は元々、陸上自衛隊の将校だったが、敵対する人間にはとことん残忍である一方で、そのような形の冷酷さが持てないのが、指揮官として致命的だと言われ、常に立ち位置を狙われていたが、結局は警察という会社でも一緒か?


「局長は平成初めに起きた、神格教による地下鉄爆破事件から会社は変わったと思いますか?」


 自分でも唐突な質問だと思う。


 だが、聞かずにはいられなかった。


「再編成は起こっただろう? じゃあ、変わったんじゃないか?」


「そういうシステマティックな事ではなくて、体質です。これが変わらない限りはまた、組織は同じ過ちを繰り返します、私はーー」


「小野、体質ってのはなぁ、変わらないんだよ。組織がどんなに自浄作用を働かせてもな? 君の古巣の陸自だって、どんなに戦術や戦略に装備をアメリカナイズしても本質的には帝国陸軍の後継機関である事には変わらない。ハムも戦前の特高警察がルーツだからね? 一部のOBは否定しているが、戦前からも含めて、体質は変わらないのが組織だよ」


 久光がここまでシニカルに組織を語るのは初めてではないが、自分が感情的になっているのを小野は知覚していた。


「・・・・・・せめて、武装決起の場所だけでも教えていただけないでしょうか?」


「ハムは教えないか? 縦割りの弊害と言うのがこういうところに出るんだよな? 教えると私もただでは済まないからね? もっとも、知り得ないが・・・・・・公安部長にそれとなく、掛け合ってみようか? 効果は無いと思うが、連中は特殊部隊を効果的に使いたいだろう。それで良いな?」


「ありがとうございます」


「頼むぞ。また、この国の危機を救ってくれ」


 そう言って、久光からの通話は一方的に切られた。


 すると、小野は机にある全ての物を乱暴に薙ぎ払った。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「隊長! どうなさったんですか!」


「皆が皆! 特殊部隊を召使扱いしてぇ! そんなに私たち、実力部隊の地位は低いかぁ!」


 小野は机を叩き続ける。


 陸自時代から、実行部隊たる制服組は常に文官たる軍事の素人にしか過ぎない、背広組の官僚たちに良い具合にストレス発散の口実に虐め続けられ、今の警察という会社でも、キャリア官僚の警察官と政治家や財界の老人たちに軽く見られ、作戦遂行に必要な情報を一つも得られない。


 そして、人が死にその責任は我々に押し付けられる。


 バカにしやがって・・・・・・・


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・ごめん、イライラしてしょうがないんだ」


「隊長、情報が下りないとは言え・・・・・・お盆休みでも取ったらどうですか?」


「軍人やお巡りさんにそんなのは無いでしょう・・・・・・でも、寝ようかな? イライラしてしょうがないけど? ちょっと、掃けてくれる?」


 小野がそう言うと、夏目が「ゆっくり休んでください。隊長は我々の頭脳であり心臓なんです。ご自愛を」とだけ言った。


 言われなくても、分かっている。


 ここ最近はソルブスユニット最大のスポンサーである、アメリカ最大の軍需産業、レインズ社と二〇五〇年に一般に導入される、スマートレンズ(スマートフォンの機能をコンタクトレンズに集約したデバイス。操作は視線の動きなどで行う。民間市場には二〇五〇年頃に出回る予定)型のソルブスドライブ(ソルブス装着時に必要なスマートフォンとスマートウォッチのペアリング二つのこと)の試験運用を隊員たちの負担を減らす為に自ら行い、事務もAIの助けを借りると言っても、やることが多すぎるのと、このような一連の足の引っ張り合いがあるから、腹が立ってしょうがない。


 ソルブスドライブがコンタクトに移行したとして、主力機のメシアとレイザはどうなる?


 データ移行が出来るならば、良いが、重要な戦力が喪失してしまったら、ウチは大損害だし、存在意義を失う。


 おまけに事件対応もするが、ハムの連中は情報を教えないし、上層部も含めて、特殊部隊を軽く見てと・・・・・・・


 そのような呪詛の様な考えを脳内で回らせていたら、自然と眠気が出てきた。


 寝られるな・・・・・・


 寝よう。


 視点が暗くなるのは案外早かった。



 亜門と瑠奈はスズキKATANAに二人乗りしながら、瑠奈の自宅のマンションへ帰って来た。


「あぁ、今日も患者はクソだったなぁ」


 瑠奈は駆け出しの研修医だが、色々な部署の手伝いに駆り出されるので、ストレスが溜まっているのか、そういうサイコパスな発言も多いのは慣れてきた。


 医者というのは変わり者が多いからなぁ・・・・・・


「今日、何、食べたい?」


「暑いからなぁ・・・・・・そうめんと亜門君が作る天ぷらは?」


「冷蔵庫にストックあるかな? ハムの人たちに買いに行かせるのもあれだしなぁ?」


 そのような会話をしながら、バイクを下りて、マンションの駐輪場に向かおうとした時だった。


 目の前にホンダステップワゴンが現れて、二人組の男が現れて、瑠奈を拉致しようとする。


「何! あんたたち! ちょっと! 亜門君! 亜門君!」


 グリン大学の連中だ。


 亜門は男たちにつかみかかり、思いっきり、殴り掛かり、投げ飛ばして、瑠奈から引きはがした。


 所詮は線の細い坊や達なので、現職のサッカンが武力で勝つのはたやすかった。


「やはり、弱点は彼女ですか? 一場亜門?」


「黙れ・・・・・・」


「彼女には手を出しませんよ? 我々の仲間になってくれればね?」


 そう言って、眼鏡面の男子学生がほくそ笑むが、亜門は怒りを声音に表して「バカじゃないのか? 僕は会社を裏切るつもりは無いし、お前らには協力するほどの価値は無い」とだけ言った。


「困ったなぁ・・・・・・なら、力尽くで協力してもらうしかないですね?」


 そう言って、男子学生二人はタヌキとキツネのキメラへと変身した。


「亜門君!」


「面倒なことを・・・・・・メシア!」


「亜門! 行くぞ!」


 亜門はスマートフォンとスマートウォッチで構成される、メシアドライブを取り出した。


「装着!」


 赤い閃光が住宅街に光り輝く。


 亜門の身体を赤と白のパワードスーツが包み込んだ。


「先輩・・・・・・僕らと一緒にこの腐った国を立て直しませーー」


 男子学生の一人がそう言い終わる前に装備された日本刀で切りかかる。


 腕が切り裂かれて、緑色の血が飛び散る。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


「待て! 待て! まだ、話し合いが!」


 自分たちlから攻撃をしておいて、話し合いだと?


 ぶっ殺す。


「するかよぉ!」


 日本刀で一体目のキメラの首を切った。


 首が地面に転がる。


 絶命だ。


「待ってくれ! 待って! 話だけでも!」


「死ね」


 そう言って、手持ちのハンドガンのシグザウエルP226を取り出すと、数発、銃弾を発射して、キメラの頭部に直撃させた。


 たわいもなく、二体絶命した。


 それを見た、運転手は急いでホンダステップワゴンを走らせて、逃げようとするが、亜門はそれを逃さずに飛行機能を使って、上空から先回りして、同車の前に先回りした。


 ホンダステップワゴンは亜門目掛けて、体当たりをしかけるが、亜門は日本刀でそれを一刀両断した。


 そして、車だった鉄くずと運転手だった肉片は爆砕する。


 住宅街で派手な爆発を起こしてしまった。


「亜門、やり過ぎだよ」


「瑠奈に手を出すからだよ」


 メシアがそう言う中で亜門は平然と爆砕するバンを見ていた。


 瑠奈は呆然とした表情でこっちを見る。


 すると、そこにハムの福山が大量の班員を従えて、現れた。


「貴様ぁ! やっていいことと悪いことがあるだろう! おい、現場封鎖しろ! 所轄に連絡! 一人も入れるなよ!」


 福山が「一場ぁ! お前ぇ! お前、隠密行動って分かるかぁ!」と激高する。


「すみません・・・・・・」


「こんな住宅街でドンパチしやがって! お前ぇ! 大体なぁーー」


 福山がそう言う中で装着を解く。


 赤い閃光が再び、亜門を包み込み、生身の状態に戻る。


 すると、そこに瑠奈が後ろから抱き着いた。


「ちょっと、ビビったけど、格好良かったよ」


「これから、お説教があるんだよ」


「終わったら、イイコトしてあげる」


「良いけど、この人たちに盗聴されるよ?」


「男所帯には良い保養になるでしょう? オジサン、特別サービスで聴く?」


 瑠奈が福山にウィンクすると、福山は赤面しながら「小娘が・・・・・・NSS局長殿の娘だからと言って、図に乗るなよ! 一場! 後で来い!」と言い放った。


「後でね?」


「うん、本当にヤルの?」


「ヤリたくない?」


「ヤル!」


「イェイ!」


 そう言って、二人でグータッチした後に亜門はハムに同行する事にした。


「エッチをしている場合じゃないと思うぞ? 無意味に目立つことをしたんだから?」


「やっちゃったんだから、しょうがないじゃん? 隊長に怒られるかな?」


「まぁ、ハムの連中には一泡吹かせたがな? ご苦労さん」


 亜門の中では妙な達成感があったが、ハムの班員の冷たい目線が痛い夜だった。



 山田と石井と橋本に電話が通じない・・・・・・


 一場亜門のマンションまで力尽くで、仲間になるように説得すると、息巻いていたが、連絡が来ない時点で、山崎には嫌な予感がしてしょうがなかった。


「話し合いが通じなかったのかなぁ・・・・・・」


 女子メンバーの一人、坂元恵が心配そうに通話をする。


「警視庁の英雄を怒らせたようだな?」


 山崎がそう言うと、男子メンバーの阿部翔貴が「ちょっと、待て! 殺されたっていうのか!」と大声を出す。


「だろうな?」


「一場先輩はウチの関係者だろう? なのに、何で、後輩を殺すんだよ?」


 そういう発想をするから、お前らは駄目なんだよ?


 山崎は内心ではこの三流大学の学生共のお花畑な考え方に苛立っていたが、自分の目標の為と数合わせでここまで、学生どもに笑顔を振り向いていたが、案の定、そのような甘い考えのせいで死者まで出てしまった。


「中退だけどね? それに今では体制の側に付いていて、警視庁の英雄ともてはやされている。僕らの大学の繋がりなんか、虫けら以下だとしか、思っていないんじゃないかな?」


 山崎がそう阿部を冷笑すると「黙れ! 一場先輩だって、話せば分かる! あの三人が死んだのだって、何かの間違いだ! お前は人が人を信じないから、全ておかしくなる! 慈悲を持てよ!」と阿部が掴みかかかって来る。


「止めろ、皆」


 野島が静かに言い放つ。


「チャプレン! こいつが慈悲の心を持たないから!」


「一場君は我々を見限ったよ。彼は学生時代の頃から、学歴が欲しいから大学に通ったんであって、愛着は無いだろうなと思っていた。おまけに神を信じない。彼のようなアンチキリストならば、大学の繋がりがある人間も容易に切り捨てる。私は最初から期待していない」


「チャプレン・・・・・・」


 阿部が山崎に掴みかかった手を力なく、離す。


「山崎、最初から予定通りだろう?」


「えぇ。襲撃を敢行します。もう、戻れないでしょうけど?」


 阿部と坂元以下、多くの学生が騒めく。


「何をするつもりだ・・・・・・・」


 山崎と野島はアイコンタクトをしていた。


 これで、後は世界に問いかけるだけだ。


 自分達はいらない存在なのか?


 左利き程度の数の人間は右利きの人間達の犠牲になっても良いのかと?


 そうは思わない。


 それはマジョリティの傲慢だ。


 マジョリティの側が譲らないのであれば、どんなに御託を並べて、話し合いをしてもこちらには何も欲しい物は手に入らない。


 ならば、どうするか?


 答えは簡単だ。


 奪い取れば良い。


 富も名声も地位も娯楽も異性も食事も全て、持っている人間から奪い取れば良い。


 そうしなければ、不公平じゃないか?


 神が本当に居るとすれば、この程度の暴挙などは許してくれるはずだ。


 現にキリスト教があるから、イスラエルのような国家だって、承認されるし、イスラム教との共存は不可能に近い。


 宗教と暴力は切り離せないんだよ。


 自分と野島はそういう結論に至ったから、武装決起を起こす。


 もう戻れない。


 全ては世界への復讐なんだよ。


 山崎は意地の悪い、笑みを浮かべながら、戸惑う学生たちを嘲笑し続けていた。


 ひぐらしが夏のキャンパスに響いていた。



「緊急車両が通ります! 道を開けて下さい!」


 オペレーターの中道と浮田の野太い声が周辺に響き、赤色灯の赤い光が昼下がりの外を照らす。


 そして、ヒステリックなサイレンの音が武蔵野市周辺の路上に響いていた。


 現在、警視庁ISAT第一小隊が武蔵野市にある、キメラへの改造手術が行われているであろう、クリニックへの強襲を行う為に現場へと急行しているのだ。


「あぁ・・・・・・一場は夏休みかよ。人生って不公平だよなぁ? 俺たちはこれから突入任務だっていうのに?」


 津上スバル巡査がそう嘯くと、小隊長の出口勝警部補は「特命だ、バカ野郎。あいつは今、ハムの指揮下で動いている」とだけ言った。


「最初、有給取っていたじゃないですか? その理由が彼女の護衛でしょう? 良いよなぁ、ナチュラルにモテる奴は! 海原もメロメロにする奴だからなぁ?」


「ていうか、あいつ、顔は平均的なのに何故か、女にモテるんだよな・・・・・・何でだと思う? レイザ?」


 分隊長の自称モテ男の広重道則巡査部長がげんなりとした表情で、津上が装備する、レイザという自立志向型AIにそう問いかけると「振る舞いじゃない? ソフトでスイートでいて、意外と武闘派なところとか? 聞き上手で話好きだし、女の子からしたら、一緒にいて、楽しいと思うわよ?」という答えが返って来る。


 一同に沈黙が流れる。


「海原と岩月の旦那は別動隊か・・・・・・」


「気が重いなぁ。これから、バリバリ、人を殺すんだろう? おまけに一場のモテ具合の話をしていて、気が滅入る」


 一同が「はぁ」とため息を漏らすと、小野から(そういう話をするところが女から敬遠されるのよ、あんたたちは)と通信が入る。


「隊長だ!」


 全員、直立不動になる。


(恋愛相談ならば、いつでも乗るけど、今回のオペレーションについての説明を行ないます。尚、今回はハム・・・・・・基、公安総務課の指揮下に入ってのオペレーションなので、私はそれを元に作戦を立てたつもりです」


 一同に沈黙が流れる。


(真面目なこと。では、作戦を説明します・・・・・・現在、トラックで向かっているのが、武蔵野市にあると言われている、キメラへの改造手術が行なわれる、クリニックです。同時多発的に新宿と渋谷にあるクリニックは第二小隊と第三小隊が強襲。残りの池袋のクリニックには警備部のSATが向かいます、尚、池袋には戦闘可能なキメラがいないという事前情報が有る為、生身のSATを向かわせますが、ISATが出張るという事は必ず、戦闘になるということは理解出来るわね?)


「モチのロンですよ、隊長」


「津上、古いんだよ、お前、言い方が? 庵野秀明かよ?」


「庵野監督をバカにしないでくださいよ? 小隊長!」


(あなたたちのオタク根性はどうでもいいから、続けるわよ。建物の構造は事前に頭に入れていると思うけど、数体程度は戦えるキメラがいるのと、生身の人間がいる。キメラは反撃の有無を問わずに排除、生死は問わない。生身の人間は問答無用で逮捕を公総は望んでいるわ。とにかく、簡単に言えば、目標の排除と捕獲を同時遂行するという奴)


「了解です」


(あと、もうちょっとで着くけど、何か聞きたいことある?)


「あの・・・・・・」


(何? 津上巡査?)


 改めて、上官にそう聞かれた、津上の顔が強張る。


「海原巡査と岩月巡査や第二小隊と第三小隊のメンバーの一部が遊撃小隊っていう、部隊に入れられているんですけど、これ何ですか?」


(何だと! どういうことだ! 小野特務警視長!)


 置くから、男の声が聞こえる。


(階級を考えなさいよ、福山警部殿?)


(部隊を分散させただと? 全力で潰しにかからんと意味が無いだろう! 今すぐ、その遊撃小隊とやらをーー」


(連中、どこかで武装決起するでしょう? 何処?)


 それを聞いた、福山が黙り込む。


(遊撃班はそこに向かわせます。武装決起する前に逮捕と皆殺しを交互に行う)


 小野がどこか、怒気を孕んだ声で福山にそう言うと福山は(教えよう)とだけ言った。


(係長・・・・・・よろしいんですか?)


 班員らしき、男の声が聞こえる。


(課長から許可は取るよ。俺は一存が許される存在だからな? 隊長、銀座だ。連中は銀座で武装決起をする)


(連中の嫌いな富裕層の多い街だからか? 分かりやすい標的ね? ありがとう。遊撃小隊! ISATSP、聞こえるか?)


(ISATアクチュアル(司令部の意)からISATSP全隊へ! 敵部隊の標的は銀座と判明、至急、作戦行動を開始せよ!)


 オペレーターの浮田と中道、両巡査部長の声が聞こえる。


(ISATSPアルファ、了解。作戦を開始する)


「隊長、俺たちは囮ですか?」


 津上がそう言うと、小野は(いいえ? クリニックを制圧したら、証拠は根こそぎ持っていくわよ? 責任重大)と言い放った。


(間もなく、到着!)


(総員、第一種戦闘配置!)


(総員! 第一種戦闘配置!)


 そう言われた、出口を始めとする、隊員達は立ち上がり、ソルブスドライブに手を掛ける。


(装着準備!)


「装着!」


 津上からは青色の閃光が光り、出口と広重からは濃紺の閃光が光る。


 津上はレイザを着て、出口と広重は大石重工製の量産型ソルブス、ガーディアンサードを装備する。


(ハッチ、開きます!)


(周辺の車道に民間車両は無し、出撃は各自のタイミングに任せます!)


 トレーラーのハッチが開く。


 ついに出撃だ。


「出るぞ! 全員、付いて行け!」


 出口はそう言った後にトレーラーから飛び降りた後に飛行機能を使い、車道の上のアスファルトを滑空する。


 そこに広重と津上も追従して、三人はそのまま上空へと飛び始めた。


 濃紺の色をした、トラックが遠くなっていく。


(作戦開始! 目標、対象施設の制圧!)


 浮田と中道がそう関係各所に伝令を行なって、作戦は開始された。


「今日も遺書は書かなかったか?」


 これから、死地に行く中で、ふとそのような言葉を出口は漏らしてしまった。



 亜門は朝、ベッドで目が覚めた。


 隣には瑠奈が寝ている。


 二人とも、裸だが、布団で見事に隠れている。


「起きた?」


「良いのかなぁ・・・・・・確実に連中に盗聴されているし?」


「良いよ。別に?」


 そう言って、瑠奈が立ち上がる。


 色が白く、乳房が綺麗で尻のラインも同様に美しい。


「朝ご飯、作ろうか? トーストだけど?」


 瑠奈が料理をするのも珍しいが、そこは任せると、どんな大惨事があるかが分からないので、即、立ち上がり、亜門は「僕が作る」とだけ言った。


「たまには私がやるよ。嫌?」


「嫌ではないけど・・・・・・」


 瑠奈に料理をやらせるとどうなるかが分からないからなぁ・・・・・・


 亜門の頭の中に不安がよぎると、メシアドライブに着信が入る。


「亜門、とりあえず、しまう物はしまえ」


「うるさいなぁ、今、服着るよ」


 そう言いつつも、全裸で通話に出る。


 小野からだ。


 何だろう?


「はい、一場です」


(一場巡査、特命中悪いけど、今から、部隊に合流できる?)


「今からですか! 無茶ぶりが過ぎますよ!」


(オペレーションの内容は今から、メシアドライブに送るから、頭に入れといてね? それと、今回は遊撃小隊という部隊に一場巡査を入れたから、バイクで銀座へ向かって。大至急ね? 彼女と朝ご飯なんて、言っていたら、ぶっ殺すよ?)


 何か、知っているのか、知っていないのかは分からないけど、見透かされている感じがする・・・・・・


(じゃあ、急いで向かってね? リアルタイムで位置情報を見るから?)


 ブラック極まりない。


 急いで、服を着始める。


 歯磨きなんて、後だ!


「瑠奈ぁ!」


「なぁにい? 仕事?」


 こういう察しは良いから、助かるんだよな?


「そう! すぐ向かわないと、ぶっ殺すって、言われちゃったよ!」


「じゃあ、急ぎなよ! 隊長、怖い人なんだから!」


「そうだよ、歯磨きすらも出来ないよ!」


 亜門がそう言うと、瑠奈が「えっ? それは不潔かな?」とだけ言う。


 服を着て、バイクのキーを確かめる。


 メシアドライブと財布も大丈夫。


 歯磨きは・・・・・・任務が終わり次第、庁舎で歯磨きすれば、良い。


 歯ブラシと歯磨き粉も買えば良いし?


 よし、出るぞ!


「行ってくる!」


「歯磨きはしろよ!」


「そんな暇は無いよ」


「行ってらっしゃいのチューが出来ないじゃん?」


 それを聞いた、亜門は急いで歯磨きを始める。


 そして、すぐ終える。


「行ってきます」


「もうちょっと、丁寧に磨いて欲しいけどなぁ? まぁ、良いか?」


 瑠奈が全裸で亜門の唇にフレンチキスをする。


「行ってらっしゃい。今日も悪い奴をたくさんやっつけてね?」


 良い匂いがする。


 高貴でエロティックな女の匂いだ。


 興奮が抑えられないが、それは戦闘の為に取っておこうと心に決めて、亜門は瑠奈に「行ってきます!」と言って、家を出た。


「亜門、性的に興奮しているだろう」


「そうだよ! 戦闘で発散するよ!」


「良い、カンフル剤だな? テロリストには無い、愛の力で連中を皆殺しだな?」


 亜門は駐輪場に行くと、ロックを解除して、バイクを取り出して、またがり、キーを入れて、エンジンを吹かす。


「行くぞ! 愛の力で、孤独なテロリストを皆殺しだ!」


「普通に問題発言だな? 犯罪者の大半は孤独な人間だが、リア充のお前にぶち殺されるのは相手も可哀そうに?」


 メシアの呆れた声を最後に亜門はバイクを加速させて、銀座へと向かった。


 日曜日の朝だと言うのに、夏の日差しが暴力的に降り注いでいた。


10


 銀座のど真ん中で山崎香南はキメラに変身できる、学生たちと共に立っていた。


 そして、大声を出す準備をした。


「聞けぇい!」


 周囲の歩行者たちが怪訝そうな顔をする。


 皆が皆、身なりの整った感じがして、山崎の神経を苛立たせていた。


「貴様ら、ブルジョアジーが呑気に買い物をしている中で多くの国民が貧困で死ぬ! お前らに分かるのか! 明日、着る服も無く、食う物にも困り、住む所にも困る弱者の気持ちが!」


 しかし、誰もが怪訝そうな顔をするだけで、すぐにそっぽを向き、買い物を楽しむ。


「そうだろうなぁ? 傍観は日本という国のお家芸だ。それを封じるには目の前で自分事として、悲劇を起こすことだよなぁ?」


 そう言った、山崎は指を鳴らすと、キメラに変身できる学生たちに「やれ、全ては計画通りだ」とだけ言った。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 多くの学生たちがキメラへと変身する。


「何だ、あれ!」


「キメラって怪物じゃないか?」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 群衆がパニック状態になる。


「追え! 首尾良くな!」


 そうして、キメラたちが群衆に紛れる。


 恐らく、特殊部隊が急行しても、この群衆に紛れた状態では容易に手が出せないはずだ。


 民間人の誤射となれば、警察、すなわち体制側が国民を殺した事になる。


 そして、こちらは単にキメラに変身をしただけで、何も手を下さない。


 国民すべてに問うのさ?


 キメラになることは悪なのかと?


 キメラになったというだけで、銃殺を容認される世界の潮流に一石を投じる。


 それが狂信的な教団信者で自らキメラになり自分を巻き込む形で教団崩壊後に自ら死んでいった、両親と自分による世界に対する、復讐。


 野島にその思いを吐露したら、全て受け入れてくれた。


 これでいい。


 後は警察がチョンボしてくれたら、それで計画は成功だ。


 そして、左翼の世論だけでも良い。


 キメラを容易に殺すことに疑念を抱く人間が一人でも現れる、世論を醸成してーー


 しかし、山崎がそう夢想する中で一発の銃声が響く。


 群衆の中に紛れたはずのキメラが狙撃されて、絶命した。


 狙撃だと・・・・・・


 この群衆の中で、キメラだけを狙い撃ちした?


 再び、銃声が響く。


 また、一体が絶命した。


 何て、腕の良いスナイパーなんだ?


 すると、そこに左手でキメラの首を持ち、右手に持つ日本刀からは緑色の血を滴らせている赤と白の色をしたパワードスーツが現れた。


 一場亜門の着た、パワードスーツだ。


「山崎香南。お前を組織犯罪法違反の容疑で逮捕する」


「確かに第六条の第一項又は第二項に違反ーー」


 すると、後ろから生身のスーツを着た、男達が山崎を羽交い絞めにする。


「お前の言っていることは全て、屁理屈なんだよ! 三流大学のくせに!」


 それを聞いた瞬間に山崎は目の前の男たちを睨みつけた。


「一場先輩、後輩を逮捕した気分はどうですか? 楽しいですか?」


 すると、一場はパワードスーツを着た状態で、中指を突き出した。


「ざまぁ。このまま、大学ごと潰れればいい」


 確認するまでも無い。


 この人は学生時代の思い出は苦痛どころか、踏み台程度にしか思っていないのだろう。


 まぁ、良い。


 後は裁判だな?


 山崎は拘束される中で陰湿な笑みをこぼし続けていた。


 銃声は鳴りやまずにキメラがまた、一体、絶命した。


11


 山崎香南以下、グリン大学の学生と牧師の野島伸司は組織犯罪法違反の容疑で逮捕されて、公判を待つ身分となっていた。


 その後の顛末を言えば、神格教動乱や血のクリスマス事件に続いて、犯罪者を大量生産してしまった、グリン大学に対する世論の風当たりは強くなり、文部科学省もグリン大学の廃校へ向けた、対策案を検討するに至っているが、グリン大学側と文部科学省を始めとする、国と世論対大学側の対立は深まる一方だった。


 また、主犯格の山崎が党員であった、新世代見回り組は即座に関与を否定。


 こちらはすぐに鎮まったが、行き過ぎた過激な左翼が起こした犯罪の結果、反原発や貧困対策への世論の風当たりはこれも同じく、強まった。


 問題は山崎の供述内容として、キメラになることが罪であるという世界の潮流に一石を投じたかったという趣旨の内容だが、警視庁がマスコミに報道協定という名の事実上の報道統制を敷いて、一切、マスコミには漏れない状態となっていた。


 警視庁はこの発言がきっかけで、一部のバカな人間がキメラになることが犯罪であることに疑念を抱いて、続々とキメラ化をした状態でのローンオフェンダー(単独犯のテロリスト)が量産される事態を防ぎたい狙いがあるそうだ。


 ここまでが、事件のその後だ。


「亜門君が作る、冷やし中華は最高だよ・・・・・・お互い、仕事、クビになったら、レストランでも開こうか?」


「瑠奈は料理しないだろう? 僕の負担が増えるだけだよ」


「私は経営側に回るから? 全国チェーンを作ろうぜ?」


 そのような会話をしながら、お盆の昼下がりを亜門と瑠奈は過ごしていた。


 事件が終った後に部隊に帰投しようとしたが、小野の好意により、二日間だけだが、お盆休みを貰えた。


 そして、今、平和を謳歌している。


 生きて帰って、瑠奈とこうして、ご飯を食べている。


 自分には山崎には無い、人並み以上の幸せがある。


 それだけで自分はあんな悪鬼の巣窟のような大学を辞めて、サッカンになって良かったと思えるのだ。


 山崎には最後まで分からないだろうな?


 結果論としては仲間を信じるどころか、人を愛することも知らないで、自分の主張を世間に一方通行で叫んで、一定の左翼限定で主張が認められれば良いという結論に至った、身勝手なテロリストにしか過ぎないのだ。


 更に言えば、自身はキメラになることはせずに自らは戦わない、謀略家と言えば聞こえの良い、卑怯者にしか過ぎないと、亜門はつくづく感じ取っていた。


 完全に山崎は敗北をした。


 お前はガキ以前に真の意味で孤独なんだよ。


 亜門はそう思っていた中で、テレビを点けた。


 昼のワイドショーだった。


 昼のワイドショーは嫌いだ。


 観ると頭が悪くなる感覚がする。


 そう思っていたが、すぐに亜門は目を見開いた。


(お伝えいたしました様に山崎香南容疑者が護送中に狙撃をされました。繰り返します。警視庁築地警察署から検察に移送される予定だった、山崎香南容疑者が何者かによって、狙撃をされたとの一報が入りました。山崎容疑者は先の銀座でのーー)


 山崎が狙撃された?


 誰がやったんだ?


 そんなことを?


 狙撃という手段に打って出る時点で銃器を保有できる資金力がある・・・・・・しかも、映像を見る限りでは移送中のタイミングでスナイパーを使って、狙撃したように思える。


 しかも、容疑者は逃走。


 警察もしくは何かしらの組織がやったのか?


 理由は恐らく、国民に人のキメラ化に対する疑念を抱かせたくないからか?


 だとしても・・・・・・


「亜門君・・・・・・麺、延びちゃうよ?」


 瑠奈が大きな目でこちらを不安気に見つめる。


 亜門はその瞬間に現実に戻る。


 ・・・・・・まぁ、良いか?


 それを捜査するのは僕らの仕事じゃない。


 亜門はテレビを消した。


「チャンネルを他に変えようよ?」


「全部、ワイドショーだよ。この時間帯は? 止めよう、飯がマズくなる。動画で映画でも観ようか?」


「うん」


 亜門と瑠奈は動画を見ることにした。


 セミの鳴き声がうるさい昼下がりだった。


12


 久光秀雄は都内のフランス料理店で自衛隊の統合幕僚長である、鶴岡伸介と会食をしていた。


 そこには陸上自衛隊ソルブスユニットから改変されたソルブス歩兵連隊の連隊長、谷川正孝一佐と中隊長の蓮杖亘一尉、古谷水姫一尉、斎藤旬一尉の四人も同席していた。


「スナイパーの一件は感謝している」


「警察寄りのあなたが我々、自衛隊を頼るのは意外でしたがね? 警察からでは足が付くと判断しての事ですか?」


 鶴岡はワインを飲みながら、そう言い放つ。


「米国からの指示があってのことだ。警察よりも自衛隊の方が米軍との一体性があるから、選んだまでだ。キメラの合法化の機運が高まる事は世界の危機と言っても良いからな?」


 久光の顔は強張っていた。


 よりによって、小野の宿敵の鶴岡と手を組んで、あの学生風情を殺すとはな・・・・・・


 小野を外すのは容認できないが、どのような借りの返し方をしないといけないのだろうか?


 お互い、ハト派政権が出来た後に予算が削減されて、思うような部隊編成が出来ない、警察と自衛隊だが、警察寄りの自分が何を自衛隊に譲歩すれば良いか?


 答えはおのずと分かっていたので、用意はしていた。


「それより・・・・・・レインズ社が警察を優遇している一件についてですが?」


「あれは単純にアメリカ軍に装備を渡すと戦争に疲れたアメリカ国民から非難の声が上がるから、同盟国の警察に渡せば、非難は免れて、装備のデータを取れるからだろう? それが目的か?」


 鶴岡は二タリと笑う。


「何が欲しい?」


「新型機が欲しい。部隊が整備されてからでも構わないので、メシアやレイザ以上のスペックを持つ新型機が欲しい」


 谷川は平然としていたが、蓮杖はその光景を見て、ほくそ笑んでいた。


 古谷がそれに対して、肘でせっつく。


「止めなさい、公の場で」


「はい、はい」


「古谷の言う通りだぞ、蓮杖、ふざけ過ぎだ」


 若い三人の私語を咎めたい気分だが、自衛隊の求める便宜をUSBとして鶴岡に差し出した。


「本来であれば、この機体は一場亜門巡査の新たな機体となる予定だった」


「メシアはお役御免ですか?」


「自立志向型AIは移植する予定だった。だが、一場巡査の腕ならば旧式でも問題ないだろう? 君らに最新鋭機「ライジング」を渡すが、一年先になるぞ? 搭載する自立志向型AIの用意が出来ていない」


「こちらも装着者をゆっくりと選定したい。一年がかりで譲渡計画を手伝ってもらいたい次第だ。あなたはアメリカからの依頼を遂行し、我々は実行犯のスナイパーを用意した。我々は共犯関係ですよ? 久光局長?」


 久光は鶴岡の笑みに苛立ちを覚えていた。


 一方で蓮杖以外の三人は全く、無表情であったことは幸いだった。


 この顔ぶれで無ければ、ヤケ酒をしたい気分だったが、とりあえず、前菜を食べ始めた。


 味が分からないぐらいに苛立ちを募らせていた、久光だった。


 終わり。





 いかがでしたでしょうか?


 一月十三日の深夜、正確には一月十四日の午前一時には野球小説完結編「帰国子女、三度甲子園を目指す」を連載開始です!


 警察小説とは違って、完全なギャグ小説なので、こちらは気軽に見られる作風なので、皆様のご拝読をお待ちしております。


 尚「機動特殊部隊ソルブス」シリーズは夏か秋ぐらいに長編最新作を連載開始する予定です。


 現在は手付かずですが、野球小説を完結させた後に少し、休んでから、執筆にかかる予定です。


 というワケで、二〇二四年はそのようなスケジュールで動く予定ですが、何が起こるか分からないのが人生。


 何事も無ければ、そういう感じで行きます!


 二〇二四年もよろしくお願い致します!


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