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ディアナのお祝い

ディアナのお祝い


 王立魔法学園では、定期的に学力テストが開催されていている。

 成績が悪ければ留年。最悪の場合は退学もあり得る。


 学園の廊下の壁に張り出されているのは、先日実施されたばかりの総合学力テストの順位表である。

 現代日本と違って、個人情報保護やらコンプライアンスなどの概念とは無縁の世界なので、一位から最下位まで全員残さず掲載されていた。


 俺の順位は、中の下。

 魔法実技の成績が壊滅的なので、留年さえしなければ問題無いと考えている。


 ちなみに、ディアナの成績は堂々の一位であった。

 婚約破棄事件があって、その影響を心配していたのだが学業の努力は欠かしていないようだった。


「ディアナさんは、すごいですね」

 俺に話しかけてきたのは、アーサーと一緒に順位表を見上げていた金髪碧眼の癒し系女子のマリアである。


「ディアナは、子どもの頃から努力家だからな」

 ディアナに出会った頃に、将来の夢を聞いたことがあった。

 その答えは、完全無欠の公爵令嬢。

 はじめは何かの冗談かと思っていたら、実際に努力を積み重ねて常に上位の成績を維持している。


「ディアナさんのお祝いは、しないんですか?」

「えっ? お祝い?」


 マリアは、祈りを捧げるように両手を組んだ。

「もしも私がテストで一番を取ったなら、ごちそうを食べて、ケーキを用意してお祝いします」


 その様子を見て、アーサーは楽しそうに笑った。

「それはいいな。マリアがテストで一番をとったときは、僕が盛大なパーティーを開いてあげるよ」

「本当ですかアーサーさま。私、次のテストでは、もっともっと頑張っちゃいますよ」


 イケメン王子とゆるふわ美少女の組み合わせは、お似合いすぎて花びらが舞うような華やかさである。

 だが、学園の廊下で二人だけの世界を作るのはやめてほしい。


 リア充爆発しろという視線にも、まったくお構い無しである。

 すでに通行の邪魔になっている。


 俺は、アーサーの腕を引いてその場を退避することにした。


 それにしても、テストで一番をとったお祝いか。

 当たり前すぎて実施したことは無かったが、たまには俺がその努力をねぎらってやっても良いだろう。


--


 翌日の放課後、俺はディアナと共に学園の談話室を訪れた。


 個室ではないが、テーブルの間隔が広く、大事な話をするにも支障が無い。

 仕切り代わりに観葉植物が配置され、落ち着いた雰囲気だ。


 それに、王族貴族が在籍する学園に相応しく、質の良い茶葉が無料で利用できるのも貧乏学生の俺にはありがたい。

 席に着くと、ディアナが手慣れた手つきで、紅茶を入れてくれた。


「さて、今日は何を企んでいるのかしら?」

 そう言って、ディアナは紅茶のカップを持ち上げた。


「企んでいるなんて人聞きの悪い。今日は、ディアナのお祝いをしようと思っただけだ」

「お祝い? 私の誕生日までには、まだ間があるわよ?」


「ディアナの誕生日は知っている。今日は、学年一位のお祝いだ」

「学年一位? そんなことで?」

 ディアナは、目を瞬いた。


「今さらかもしれないが、元々言い出したのはマリアなんだ。テストで一番を取ったなら、ごちそうと、ケーキを食べてお祝いをしたい。ってな」

「それで、わざわざケーキを用意してくれたのね。ありがとう、嬉しいわ」


 テーブルの上には、小さなケーキが置いてある。

 俺が、自腹を切って買ってきたものだ。


「それなのに、アーサーとマリアの二人は、今日は用事がある。とか言って来ないんだ。冷たい奴らだとは思わないか?」

「そうね。とても残念だわ(グッジョブ、アーサーとマリア)」


「ディアナは二人の事を(婚約破棄事件の事は)もう怒っていないのか?」

「あら、何のことかしら?」

 ディアナの表情に変化はない。


 婚約破棄事件の後、ディアナは、アーサーとマリアと和解した。

 彼女が気にしていない、と言うのであればそれで良い。


「そういうわけだから、遠慮なく食べてくれ」

「遠慮なくって、あなたの分は?」


 テーブル上にケーキは一つだけ。

「甘いものは苦手なんだ」


 学園の外にケーキを買いに出かけたまでは良かったが、まさかケーキ一つがあんなに高価だとは思わなかった。

 持ち合わせが無く、二人分は買えなかった。


「理由はどうあれ、私ひとりじゃ食べづらいじゃない」

 そう言って、ディアナはケーキを一口分フォークに刺して俺に差し出した。


「一口どうぞ」

「いや、いいよ」

 俺は、遠慮したのだが、ディアナは、さらにフォークを突き出した。


「わがままを言わず食べなさい」

 こうなると、ディアナは頑固で絶対に諦めないことがわかっている。


 若干の諦めの境地でケーキに嚙みついた。

 口の中には、甘いクリームの味が広がった。


「どう? おいしい?」

「あまい」

 それ以外にどう言えば良いのだろうか。

 だが、ディアナはケーキを食べさせる行為が気に入ったらしい。


「はい、どうぞ」

 まさかの二口め差し出した。


 ちょっと、待って。

 ケーキを一口食べて気が付いた。

 この年齢になって、ディアナにケーキを食べさせてもらうなんて、なんだか少し気恥ずかしい。


 ディアナは人の気も知らず、楽しそうにフォークの先を揺らしている。

 こうなったら仕方ない。


「あっ、ずるい!」

 俺は、素早くディアナの手からフォークを奪い取った。


「はい、どうぞ」

 俺は、笑顔でケーキを差し出した。

 ディアナは、少しためらったあとに、おずおずとした様子でケーキをぱくりと口にした。


「ケーキのお味は?」

「すごく、あまいです」


 ディアナの頬が少し赤くなっている。

 どうだ? 俺の気恥ずかしさを思い知ったか?


 俺は、ディアナにフォークを返却した。

 実は、ケーキを食べさせる方も恥ずかしいと、ついさっき思い知ってしまったからだ。


「ほら、全部お食べ」

「はい。いだたきます」


 俺は、恥ずかしそうにケーキを食べるディアナを見て(俺たち何をやっているんだろう?)と、ため息をついた。



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