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序章 ディアナの名推理

1.序章


 王立魔法学園を震撼させた、ディアナ公爵令嬢の婚約破棄事件は、第三王子アーサーの狂言芝居という形で落ち着いた。


 アーサーは、王位継承の可能性が限りなく低くなったことで、事件の責任をとったことになっている。


 学園内には『アーサー王子は日頃から素行が悪く、ディアナに愛想を尽かされて自暴自棄になった』と、いう噂が意図的に流されており、ディアナは悲劇のヒロインという立場で見られている。


 若干の不自然さは残っているが、王族と公爵家が関わる事件の真相に首を突っ込むような、命知らずな学園生徒は居ないだろう。


 当然、アーサーとディアナの婚約は、白紙となった。


 ディアナのパパ、ユピテル公爵はなぜか俺を大変気に入っていて、ディアナと俺を婚約させようとしているが、王家の体面をおもんばかって、魔法学園卒業までは公式発表は控えることになっている。


 そう、ディアナの婚約破棄事件の前後で大きく変わったのは、俺とディアナの関係性である。


 これまでは、ただの幼馴染として過ごしてきた二人を、周囲の人たちが強引にくっつけようとしている。

 そんな圧力プレッシャーのようなものを感じている。


 俺の名前はケイ。貧乏男爵家の次男で、第三王子アーサーの乳母の息子だ。

「俺はどうしたら良いと思う?」


 俺は、幼馴染で親友でもあるアーサーに、ディアナをどう扱ったら良いか相談することにした。

「お前な。よりにもよって、僕にディアナの事を相談するのか?」


 アーサーは、金髪碧眼のイケメン王子さま。

 性格も明るく社交的で、陰キャな俺とは大違いだ。

 ディアナと婚約解消された後は、マリアという可愛い彼女と充実した毎日を送っている。


「なぁ、頼むよアーサー。俺には、お前しか頼れる友人はいないんだ」

 自分で言っておいて情けなくなるが、俺に友人と呼べる学園生徒は存在しない。


「僕のほかに相談する相手はいないのか?」

「あぁ、親友と呼べる友人はお前だけなんだ」


 アーサーの口元がにやけている。


「まぁ、そこまで言うなら仕方ない。親友の僕が、直々に相談に乗ってやろうじゃないか」

「おぉ、ありがとうアーサー。心の友よ」


 こいつは、王族のくせに素直で押しに弱い。

 なんだかんだ言って、俺の頼みなら聞いてくれると確信していた。


「それで、具体的に何を相談したいんだ?」

「単刀直入に言うと、ディアナって俺の事をどう思っているんだ? と、思ってな」


「そんなことは、直接本人に聞けばいい」

「今さら聞けないから相談しているんだよ!」


 アーサーは、ため息をついた。

「まぁ、その気持ちはわかる。僕たちは幼い頃からいつも三人一緒だったからな」


 俺は、初めてディアナと出会ったときの事を思い出した。

 彼女との出会いは、六才頃までさかのぼる。


 初めてディアナに出会ったとき、彼女はすでにアーサーの婚約者だった。

 そのため、彼女のことは友人として、妹のように扱ってきた。


「あの頃のディアナは、めちゃくちゃ可愛かったなぁ」

 あのときは、本物の妖精が降臨したと思ったほどに愛らしい少女だった。


「そ れ だ!」

「えっ? 急にどうした?」


「良いことを思い付いたぞ」

 アーサーが得意げに指を立てた。


「いいか、褒められて悪い気分になる人間はいない。だから、ディアナと二人きりになったとき、さり気なく褒めてやってその反応で確かめるんだ」


「おぉ、なるほど。それは良さそうだな」

 失敗しても誰も傷つかない、すごく良いアイディアに思えた。


 それに、ディアナは成績優秀で完全無欠な公爵令嬢だ。

 褒めるところはたくさんある。


「よし、早速行ってくるぜ」

 俺は、アーサーに礼を言って、ディアナを探しに出かけた。

 だから、部屋を出た後にアーサーがそっと呟いた言葉は聞き取れなかった。


「あの二人、誰がどう見ても相思相愛じゃないか。変な気を使わずに、さっさと素直になれば良いのにな」


--

2.ディアナの名推理


 俺は、教室で見つけたディアナを学園の中庭に誘った。


 中庭には、学園専属の庭師たちが丹精に手入れした美しい花々が植えられている。

 木陰には東屋があり、運よく学園生徒の人影は見当たらなかった。


「それで? お話というのは何かしら?」


 ディアナは長い黒髪のスレンダーな美人である。

 整った顔立ちで、切れ長な目をしているので、黙っていると氷の彫刻を思わせる迫力がある。


「二人で話をしてみたかっただけなのだが、忙しかったか?」

「二人だけで? そう言うことなら別に構いませんわ」


 思ったよりも日差しが強かったので、二人並んで東屋に向かった。


 彫刻の刻まれた四本の柱に支えられた多角形の屋根が日差しを遮り、内部は丸いテーブルを挟んで二つのベンチが向かい合って置かれていた。


 てっきり、ディアナは向かい合って座るものと思っていたら、俺の左手側に並んで座った。

 しかも、腕が触れるほどに距離が近い。


「お、おい、ディアナ」

 今さら向こうに行けとか、俺が離れて座ったら不自然過ぎる。


 いつもと違う距離感に、動揺していたのは俺だけなのだろうか。

 ディアナは、普段と同じような表情で俺を見上げていた。


「それで、何のお話が?」

「いや、ちょっと待って(今、褒めるところを探しているから)」


 あらためて見直すと、こいつすげー美人だな。と、いう当たり前の感想しか浮かんでこなかった。


 誰だ、ディアナは成績優秀で完全無欠な公爵令嬢だから、褒めるところはたくさんある。とか、なんとか言っていたやつは? 俺だ!


 ちょっと良い香りもするし、長い黒髪はさらさらで柔らかそうに見えた。


 ディアナは悪戯っぽい目付きで、俺を観察していた。

「今、あなたが何を考えているのか当ててあげましょうか?」


 なん、だと?

 彼女には、俺の考えが見透かされていると言うのか!?


「お、面白いじゃないか。当ててみろよ」


 ディアナは肩にかかった髪を片手で払った。

「ふふ。簡単な推理ですわ。二人きり。美しい花壇のある中庭。そして、普段と違うあなたの行動。導き出されてる答えはひとつだけ。それは――」

 ディアナは、そこで言い淀んだ。


「やっぱり、答えを言うのはやめておきますわ。私が口にしたら台無しですもの」

 ディアナは、俺の回答を求めている。


 いくら鈍感な俺でもわかった。

 あれは、俺がディアナに愛の告白めいた何かをすると思っている表情だ。


 彼女の言うとおり、この状況シチュエーションは悪くない。

 だが、この流れで告白してしまったら、ディアナに言わされたようで情けない。


 もしも、俺がディアナに告白をするのなら、自分の意志で決めた場所と日時でするべきだ。


「たぶん、ディアナが考えている答えとは違うと思うぞ」

「で、では一体、何のお話なんですか?」


「その信じられないものを見たような表情はやめろ。俺はただ、お前の髪を見て、手触りが良さそうだな。と、思っていただけだ」


 ディアナのおかげで、少し気が楽になった。

 気が付くと、今まさに思っていたことを話していた。


「ふーん。では、触ってみますか?」

「えっ? いいの?」


 ん。と若干頭を差し出されたので、形の良い頭にそっと手をのせてみた。


(おぉ、これは)想像以上に、さらさらで心地よい。

 髪の流れにそって、慎重に撫でてみるとクセになりそうな手触りだった。


 長い髪の手入れは大変だと聞いたことがある。

 それでいて、学年トップの成績を維持しているのだから、その努力は並大抵ではないだろう。


(お前、本当にすごいやつだな)


 ふと気が付くと、ディアナが困ったような表情で固まっていた。

「あっ、ごめん。嫌だったよな」


 慌てて手を離した。

 ちょっと夢中になっていた。


「先ほど、私の髪を撫でながら何か言いましたよね?」

 ディアナは自分の髪をもてあそびながら俺を見上げた。

 俺、何か言ったかな?


「そんなに、良かったですか?」

「お? おう、まぁな」


「お父さまにだって、あんなに撫でられたことは無いのに?」

「あっ、そうなんだ」


 これ怒ってるの?

 俺、調子に乗って撫で過ぎましたか?


 よし、頭を下げて謝ろう!


「俺、調子に乗ってました。すみま――」

 「だから、たまになら撫でさせてあげても良いですよ」

  「――せんでしたー。って、えっ? 今なんて?」


 ディアナはしゃんと背筋を伸ばしてこう言った。

「たまになら、髪に触ることを許します。ただし、二人っきりのときに限りますからね」


 ディアナの耳が少し赤い。

 俺は、ありがとうございます。と頭を下げるしかなかった。

『俺は悪役令嬢の幼馴染。』関係の短編を思いついたら追記していこうと思います。


若干、前作と整合性のとれていない部分もありますが、大目にみていだければたすかります。

よろしくお願いいたします。

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