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プロローグ

「それでは改めまして。第四ダンジョン攻略を祝して、カンパーイ!」

「「「「「カンパーイ!」」」」」


夜、賑わいを見せている街の酒場の中心で勇者一行がダンジョン攻略を祝して宴を開いている。勇者パーティーは一か月前の女神からの神託で選ばれた者たちで構成されている。この私、レイ・リュートルも勇者パーティーの一員だ。


「アレン様、アーンしてください。」

「アレンさまぁ~、こっちのほうが美味しいですよ。」


そう言って勇者兼幼馴染の両隣を陣取っているのは、回復役である聖女のリリアと元女盗賊のシャロである。二人ともアレンとともに旅していくうちにアレンの強さに心惹かれるようになったらしい。


「二人とも、ゆっくり食べさせてくれよ…。」

そう言って二人をうっとうしそうにでも嬉しそうに見るのは二人の中心にいる、勇者兼幼馴染のアレンである。

両隣にいる二人に構わずお酒を飲んでいる。


(たった1年でここまで変わるものかな…)

一か月前は、アレンとはあまり仲良くなかった二人も今ではアレンにメロメロである。この前なんて、アレンと私が買い出しに行っただけで睨まれたものだ。


アレンのさっきの言葉に構わず二人はキャッツファイトを続けている。


「アレンばっかり構ってもらえてずりーよ。ねえねえ、リリアちゃん、俺にもあーんしてよ。」

そういうのは彼女の前に座っていた槍使いであるロイドだ。いいやつではあるが、お調子者であまり空気が読めない。

「そ、そうですね。はいロイドさん、アーンしてください。」

笑顔だが口が若干ひきつっている。さすがは聖女様。平等に人を愛するという協会の教えを守ろうとしている。嫌がっているのは流石にわかってしまうが・・・・。

しかし、嫌がっている彼女の雰囲気を感じ取ることが出来ないロイドはやったぜと言って嬉しそうに口を開いた。


「ふぉっふぉっふぉっ、ロイド殿は相変わらずじゃの。」といって、髭を手で触って笑っているのは、私の前にいる黒魔導士のシドさんである。アレンたちとは少し離れた席でお酒を飲んでいた。


シドさんは腕利きの元宮廷魔導士であり、このパーティーの最年長で既にお孫さんがいらっしゃるらしい。

後この場にはいないがパーティーメンバーは後2人いる。一人は別のテーブルのおっさんたちに話しかけており、もう一人は単独行動が好きだからとそもそもこの飲みに参加していない。


「レイ殿はあちらに加わらないのかの?」

そう言ってシドさんが示す先にはアレンたちの姿であった。

「私はああいうのは苦手なので。」

そう言って手元のお酒を飲む。

「しかし、長年一緒にいた幼馴染じゃろう?気になったりはせんのかの?」

私は、特にアレンを気にするそぶりを見せたつもりはなかったが、シドさんの長年の勘であろうか?


気にはなる。しかし、私の用意する答えは決まっている。

「アレンはただの幼馴染ですから。」


レイは普通に言っていたつもりかもしれないが、シドの目には明らかに無理をしているように思えた。

実際にレイははたから見ても何とも言えない微笑を浮かべていた。


「すまない、無粋じゃったの。」

そう言ってシドさんは席を立ち、勇者たちに一言添えて酒場を後にした。


(確かに、昔のアレンならな・・・・。)

シドが帰った後も、物思いにふけりながらレイは一人静かにお酒を飲んでいた。


*****


あの後、自分もしばらくしてから酒場を後にして宿についた。

この町での滞在も終わり、明日は隣町のダンジョンへ向かう。

明日の用意をしていると、さっきシドさんが言っていたことが頭に浮かび、用意を行う手が止まった。

(本当にこのままでいいのだろうか。)

少しずつたまっていた胸のつまりがそろそろ限界を迎えそうなのはわかっていた。

今のアレンを見るたび、それは強くなっていく。


トントン

ノックの音が聞こえた。

「レイ、久しぶりに剣の稽古しないか?」

やってきたのは片手に剣を携えたアレンだった。

「リリアさんやシャロは?」

「ああ、あの二人ならとっくに寝てるよ。」

ちゃんと送ってきたぜと得意げに言った。

(はあ、悩みの種が現れるとは…)

頭を抱えてしまった。正直今は会いたくない。

「レイ?無理か?」

(・・・・・・・。)


「ああ、ちょっと待ってて、準備するから。」

少しだけ散らかった荷物を片付ける。

ガサガサという音が聞こえるだけだ。

気乗りしない気持ちのまま、とりあえず剣を探す。

練習用の剣がなかなか見当たらない。


「レイ…。」

剣を探していると、アレンに突然抱き着かれ、少し顔を横に向けると近距離でアレンと目が合った。

私の赤い目とは対照的なアレンの青色の瞳の中には無表情の私の顔。


私が写っているその瞳が、

楽し気に笑っているように見え、

私はそれが、


とてつもなく気持ち悪い。


バンッ

「つつつぅぅ…、痛ってえぇ…。」

突然後ろから抱き着かれ私はアレンを勢いよくつき飛ばした。

倒され背中をドアに強く打ったアレンは痛がりながら背中をさすっている。その瞬間、銀色に輝く刃がアレンの顔の横に自然に伸びていく。

アレンは顔をしかめた、口をひきつらせた。

「おいおいレイ、ちょっとした出来心だろ?」

アレンの目の前には剣の矛先が向けられており、その視線の先にいるのは、レイだ。


レイは無表情で口を開いた。

「お前は誰だ?」

「はあぁ?、何言ってんだお前?」

「アレンの体で何しているのか聞いている。」

レイの真剣なまなざしにアレンは少しひるむ。


「思えば、一年前からおまえはおかしかった。始めは、あんなことがあったから、……それでショックで、性格が変わってしまったのかと…、そう、思っていた。」


一年前、私たちの村は魔物の襲撃によって全滅してしまった。生き残ったのは私とアレンだけだ。


*****


いつも道理の夜のはずだった。急にあたりが騒がしくなったと思えば、アレンが家に来て私を外に連れ出した。あたり一面火の海で、焦げ臭いにおいが鼻を突き抜け、叫び声が頭に響き、今でもまだその光景が脳裏刻みついている。

一匹の猿のような赤い目をした魔物がこちらに気づき、近づいてくる。

その手には赤い物体が握られており、口から血が滴り落ちている。

「レイ、早く逃げるぞ。急げ!!」

アレンはあまり頭が働いていない私の手を引いて火の海を走った。

そして、一瞬意識が飛んだあと、私が次に見た光景は、人の声が聞こえなくなった町に、たたずむアレンの姿だった。

「レイ、大丈夫?」

そう言ってアレンはまるでなにもなかったように笑った。

この日から私の知っているアレンは姿を消したのだ。


その日からアレンは変わってしまった。

村にいたときと、性格が全然違うのだ。本当の彼は傍若無人で、人を人とも思わない、勇者というよりも魔王にふさわしい。そんな性格だった。

今のアレンは、誰にでも笑顔を振りまき、みんなを元気づける力がある、勇者と呼ばれるにふさわしい人になった。

勇者としては今のままのほうがいいのかもしれない。


(でも、それでも、納得いかない。)

「…そう、俺はどんなふうに変わったの?」

「お前、人の命を軽く考えてるだろ?」

確かにアレンは傍若無人だった。でも、誰よりも優しくて、誰の命も軽く扱わなかった。村で魔物狩りをした時も、ピンチなときは彼は先頭を切って誰も死なないように守ってくれていた。

「今回もそう。お前、ダンジョンで何をした。」

「ダンジョンで?」

(分からないのか、こいつは。)

「見殺しにしただろう。ダンジョンに入った別のパーティ―を」

ダンジョンに入った別のパーティーが魔物に襲われているっていうのに、こいつは、何も

しなかった。私やロイドがそのパーティーを助けようとするのも制止した。

それどころか、みんなにはばれないようにしていたが、残ったパーティーメンバーをトラップにかけ、殺したのはこいつだ。

「あれは仕方がないだろう。そのまま突っ込んでも、うちのパーティーに死者が出るかもしれない。」

「ああ、それは正しい選択かもしれない。でも、本当のアレンだったら助けを求めている人を放っておいたりしなかった。」

アレンは傍若無人だが、口は悪いが、なんだかんだ言って助けてくれる、そんな奴だった。

前のパーティーを利用してトラップを解除したり、人をコマのように扱ったりするような人ではなかった。

こいつとアレンは違う。

だてに生まれてからの付き合いではない。


部屋が静寂に包まれる。聞こえてくるのは風の音だけだ。

はぁ、とため息をこぼしたのはアレンだった。


そして次の瞬間、アレンの口角が上がり、

「違ったらなにか問題があるのか?」

そう言って笑った。

「お前....!」

「はは、冗談だよ、冗談!そんな顔してるからさ、のってやっただけだよ。・・・性格が変わったんじゃない、気づいただけだ。全員救うことはできないってことにね。」

「・・・・。」

「今日は気乗りしないみたいだね。出直すよ、お休み。」


そう言ってアレンは出て行った。少しだけ言い過ぎたか、実はあの時何か私が知らない間に何かあったのか。そういって悩むが、やっぱり納得できない。

夜風にあたるか、そう思い外に出る。

あたりは静まり返っており、街灯だけはまだ灯っている。

少しずつ、少しずつ歩いて、ふと橋の上で立ち止まった。

この町に流れている水路の水を少しだけ覗き込む。

「村にいたときの川とは全然違うな。」


村の川はこんなに大きくなく、橋もこんなに石畳のりっぱなものではなかった。

道も石畳ではなく、舗装されていない砂利道。

おしゃれなカフェはないが、目の前いっぱいに広がる小麦畑があった。

家に帰ったら父さんと母さんがいて、口が悪いが優しいアレンがいて、仲がいい友達がいて、

帰りたい、ふとそう思ってしまう。


目まぐるしく状況が変わっていって自分がどの状況にいるのかわからない。

帰りたい。

かんがえなきゃいけないことが分かっているが、考えることが出来ない。

帰りたい。

アレンがあんなに頑張っているのに私が立ち止まっているわけにはいかない。

帰りたい。

本当にアレンなのか。なぜあんなに村のことを割り切ることが出来るのか。

帰りたい。

そもそもゴールはどこなのか。魔物を倒して、ダンジョンをクリアしてそれで・・・。

でも、帰れない。


しばらくたち、戻ろう。そう思って、来た道を振り返る。

ぽっちゃん、と

水面が少し揺れた。




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