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登校

そんなこんなで、他人からの悪意に敏感になってしまったルビー。

兄と登校途中も気が抜けない。

…これ、登校だよね。夜会じゃないよね。

何故、兄に腰を抱かれている?これはエスコートってヤツだよね。


いつもの光景の生暖かい視線を感じる中に混じる、殺気に近いモノに背筋がゾッとする。


あぁ…。

金の巻き毛に青い瞳、華やかな雰囲気のガーネット・クリソベリル。

クリソベリル伯爵家の長女で、最近 内密にアレキに婚約を申し込んできたが袖にされたばかりである。

有名伯爵家令嬢で美人ではあるが、何しろ彼女は気が強く我儘なのもまた有名だ。

校門近くからジッとこちらを見ている。


「アレキ」

少し離れた場所から幼なじみのタンザナイト・スフェーン侯爵令息が声を掛ける。

「ルビー、ちょっと待っていて」

名残惜しそうに腰に回した腕を解くとタンザナイトの傍へ行き、何やら話し込んでいる。


ルビーは仕方なく、通路端の木陰に佇みアレキを待つ事にした。

玄関はスグそこなのだから、先に教室へ行けばよいのだが、アレキが毎日「送る」と言って譲らないのだ。

ふとため息を吐くと、足元に影が見えた。


「お兄様、もうよろしいのですか…」顔を上げる。

しかしそれは兄ではなく。

「ルビー様。いつまでも兄離れ出来ないとアレキサンドライト様がお困りになるわよ」

見上げれば、目の前にガーネット嬢が立ちはだかっていた。


(これは所謂イビリというヤツでしょうか)

ルビーは先ほどの悪寒の原因を目の当たりにして、兄の居る方向へチラリと視線を向けるが、まだタンザナイトと話している。


「ちょっと聞いてますの?」

ガーネットの手がルビーの頬に触れそうになり、(あ!これはマズイ)と思い避けようとした刹那。


グッ…

伸びている木の枝に髪が引っかかり、体制を崩した。

(転んでしまう!やだやだ、せめて顔からは逝きたくない!)怪我を覚悟した瞬間。

「ルビー!」

飛んで来た(マサにそんな速さ)アレキに抱き抱えられる。


「あ…」(痛くない…何処も痛くないわ)

「ルビー、大丈夫か?」

心配そうに、形の良い眉を下げたアレキが覗き込んでいる。

(近い近い近いです!)一気に顔が熱くなる。

「だだだ大丈夫です!」

とりあえず離れようと藻掻くが、アレキは離す様子も無く。


「…クリソベリル嬢?先ほどはルビーに何を?」

ギュッとルビーを抱く腕に力が入るアレキが低い声で問う。目の前はアレキの胸なのでその表情はルビーからは見えない。


「クンツァイト侯爵令息様…わ、私は…」

ガーネットの震える小さな声が聞こえる。

やはり、表情は判らないが かなり動揺している様だ。

(うん、これは止めないとね)

「お兄様、あの…」

なんとかアレキの顔を見上げれば「ルビー。何も心配要らないよ」

ニコリと音がする程の優しい笑顔の兄。


…一瞬、眉間に皺を寄せて険しい表情に見えたのはきっと見間違いだろう。


「あの、違うんです!私の…そう!髪が!枝に引っかかったのをガーネット様が!解こうと…」

慌てて腕の中でジタバタと言い訳を試みる。

藻掻ぎつつ頑張って後を振り返り、ガーネットにも「そうですよね!ね!」と合わせるように促す。

「そうなのですか?クリソベリル嬢」

疑いの眼差しを向けるアレキに「え…えぇ、そうですとも!」と、かなり焦った様子で応えるガーネット。


「ふぅん…」

納得いかなそうなアレキに「さぁ、お兄様、遅刻してしまいますわ!」腕を引っ張り歩き出す。

二、三歩歩いたところで振り返り、「ガーネット様、ありがとうございました」と礼をすれば「え…えぇ…」とやはり釈然とはしてなさそうなガーネットが残される。


「ルビーに危害を加える木など、スグに切り倒してしまわなければ」歩きながら、呆然と立ち尽くすガーネットの傍の木を睨む(様に見える)アレキに「枝を!ちょっとだけ伸び過ぎている枝だけ、庭師さんにお願いいたしましょう!」(このままだと沿道上の木が全て狩られる!…木だけで済めば良いのだけれど…)

慄きながら、アレキを落ち着かせようと腕に絡みつく。

すると、途端に上機嫌になるアレキ。


ニコニコとルビーを教室まで送り届けると、また放課後に…そう言って額に軽くキスを落として去って行く。

毎朝の事ながら、全然慣れずに再び頬が熱くなり、誤魔化し紛れに早足で席に座る。



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