お泊まり。 3
朝起きると、私は一人だった。
リビングに行くと、キッチンから声がする。
「おはよう麻里ちゃん、顔洗っといで。」
エプロン姿の、タマがにこやかに言う。
違和感が、っぱない。
うーん、重い。
何、息が?
ですよねー。
タマが、私のおっぱいに吸いついている。
夢か?
それにしても、何しとるかなぁ?
私は、タマの頭を退かして起き上がる。
「ムニュ、ウー。」
「タマ、起きるわよ。」
とりあえず、洗面所へ向かう。
リビングに行って、着替えして軽くメイクをする。
タマが、ずるずるワンピースを引っ張ってリビングに来た。
バンザイをして、私を見る。
「着替えさして。」
「下着は、どこ?」
衣装部屋に、戻って行く。
後をついて行くと、ゴソゴソブラとショーツを出して来た。
「こっちに、しなさい。」
タマの持って来たワンピースは、メロンパンナちゃんの緑色だった。
一緒に歩くのは、恥ずかしい。
花柄のミニワンピに、萌黄色のカーディガンを合わせた。
「うん、かわいいわよ。お腹、空いたわね。」
「麻里ちゃん、そればっかり。」
「成長期なのよ、それに昨日あんなに頑張ったでしょ?」
なしてモジモジする、タマ。
冷蔵庫を開けると、大量のチョコ棒とミネラルウォーターしかない。
冷凍庫には、これまた大量の雪見だいふく。
「タマ、朝ごはんは?」
振り返ると、チョコだけを舌でねっとり溶かしている。
「その食べ方、やめなさい!」
「おいしいよ、何で?」
いやらし過ぎるわ、子供は見ないでね。
私も、雪見だいふくを食べる。
「あっ、それ僕の晩ごはん。」
はぁ、あんたはファンタジーな生き物か!
どこか出かけようかなと思っていると、電話が鳴った。
「うん、聞いてみる。努が、会わせたい人がいるから行ってもいいかって?」
「ここに?いいけど…。」
「いいって、場所わかる?あっ、そう。飲み物と食べるもの、買って来て。」
「努、来るの?会わせたい人って、誰?」
「知らない、来るまでヒマだからファミコンしよう。」
しばらくファミコンをしていると、チャイムが鳴った。
ドアを開けると、努の他に男女一組計三人が立っていた。
そのうちの男の子の方が、玄関で土下座をしていた。
タマに嫌がらせをしていたグループの親玉の、高橋だった。
「努、その人いらない。帰って。」
「そんな事言わずに、謝りたいんだとさ。」
「別に、謝られる筋合いもないし。誰、この人。」
「お前、帰れ!二度と、関わるな。」
「あんたもだよ、努。」
「えっ、本当に?済まん、勘弁してくれ。竜子から、手紙預かっているんだ。何してやがる、荷物置いてとっとと帰れ。死にてえのか!」
高橋が、ダッシュで立ち去る。
「んで、平川ちゃんはなしてここにいるの?」
「久しぶり、今ね努と付き合ってて。」
「ふーん、あの事知ってるの?大丈夫?」
女の子の方は、タマと知り合いらしい。
「タマ、入ってもらえば。」
「しょうがないな、入りな。」
「助かったよ、麻里。」
早速、タマが袋を物色していた。
寿司の折り詰めが、入っている。
「努、これって?」
「特上だぜ、後かんぴょう巻きも買って来たよ。ちゃんと、サビ入りにしてもらったから。」
「でかした、早く食べよ。」
「お茶、入れるわね。」
「私、手伝います。平川恵美子って、言います。合高の、出身です。」
「私は、進藤麻里。タマの、同級生よ。よろしくね。」
「努、会わせたい人って平川ちゃんの事?」
「あぁ、お前とも縁があるんだろう?」
「はっきり、言えば。僕に抱かれた女、だって。」
「ゴトッ!」
私は、湯呑みを台所に落としてしまった。
平川ちゃんは、けっこう平気そうだ。
「でっ、会わせてどうするつもり?」
「それより、先は済まんかった。高橋とは、同じ土建屋でな。お前の話を汚らしく言うもんだから、半殺しにしてやった。そしたら、謝らせてくれって、言うもんだから。」
「どうでもいいよ、あっ竜子ちゃんの手紙見せて。」
「はい、お茶ね。努、竜子ちゃんって誰?」
「俺の妹だ、今年からお前らの高校の剣道部に入るんだと。ずっと、タマに憧れているんだ。俺の言う事は聞かないが、タマの言う事は何でも聞く。」
「努、うるさい!」
あらら、あの辺の不良の憧れなのにこんなに小っちゃくなっちゃって。
「うん、後で電話しておくよ。」
「助かるよ、オヤジもお袋も手を焼いているから。」
「お前が、言うな。」
平川さんが、大笑いしている。
修羅場には、なりそうにないわ。
「努、高橋と一緒って事は又野球するの?」
「あぁ、草野球に毛が生えた程度だけどな。んで、こいつがマネージャーしてくれる事になってな。」
「相変わらず、手が早いな。麻里には、チョッカイかけるなよ。」
「愛されてるね、麻里ちゃん。」
「そんなんじゃないわよ!」
「あのさ、タマの方が手早くないか?」
「努、死にたいん?」
「いやいや、すいませーん。」
努君って、こんな笑う人だったんだ。
「平川ちゃん、健介元気?」
「うん、奈美が地元に就職したからまだラブラブだよ。」
「健介って、あの健介?」
「そう、僕の人生の師匠の健介。平川ちゃんの友達と、ねんごろなんだ。」
「言い方、オヤジくさい。健介って、今の剣道部の主将でしょ?」
「うん、僕に勝てないから一度辞めたけどね。」
「そりゃ、逆立ちしたってムリでしょ。」
「なぁ、タマ。何で、弱いふりするんだ。俺は、今でもお前が怖いんだが。」
「えー、弱いよ。腕力も無いし、パンツ見えるからキックも出来ないし。」
「さよか、聞いた俺が馬鹿だった。」
「平川ちゃん、こいつこう見えても繊細だから温かく見守ってね。」
「うん、知ってる。」
「お前ら、俺の何を知っているんじゃ!泣くぞ!」
「そう言うところなんじゃない。」
「麻里まで…。」