第890話 タブレットで『植樹』しよう
ウッドフェンスで囲われた野営地。
この中に入ってこられた精霊たちは、精霊の力が抜かれなくなったと言っているらしい。
人型の精霊が教えてくれたことには、元凶の場所から離れてはいても、微量の力が抜かれていたようだ。ただ彼らにしてみたら、本当に微量で気にするほどでもなかったけれど、小さな光の玉の子たちにすると、けっこうな量をずっと抜かれていたそうだ。
ウッドフェンスを設置してよかった、とつくづく思う。
しかし、野営地はたくさんの光に溢れるかと思ったら、思った以上に精霊の数が少なかった。
森の精霊全部が来られるわけではないかもしれないが、ログハウスで見た溢れるような精霊たちと比べても少なすぎて、悲しくなった。
どれだけの数の精霊が消えて行ったのだろう。
『さつき、なくな?』
「あ、あれ、涙、出てた?」
私は慌てて手で涙を拭う。
人型の精霊たちが私の頭を撫でたり、肩にのって私の頬にすり寄ったりしている。
「あは、ごめんね。心配かけて」
『さつきをなかすやつは、わたしたちがゆるさないわ!』
『ゆるさなーい!』
「ま、まぁ、まぁ、落ち着いて。それより、精霊たちが育つには、どうしたらいいかな」
私の言葉に、人型の精霊たちが顔を合わせる。
『そんなの』
『さつきがいればいいだけだ』
「……それ以外では?」
さすがに、ここにいつまでもいるわけにもいかない。
あんまり長居したら、お留守番をしているマリンやノワールがやってきそうだ。
『それなら、さつきのとちをひろげるのがいちばん』
『さつきのきやはなをうえてやればいい』
「私が植えた木々を中心に、精霊たちが増える環境になるってこと?」
『そんなかんじー』
私はタブレットを手にして『地図』を開く。
私がいる場所を中心にした地図が表示されると、周りがほとんど森なのがわかる。私たちの野営地がポチッと小さな点になっている。
さすがに森全部ってわけにもいかないけど、野営地の周辺で『植樹』するのは、ありかもしれない。
「よし、じゃあ、ちょっくら木を植えますかね」
『うえますかねー!』
『うえようー!』
「魔物が近くに来たら、教えてよ。すぐに逃げるからさ」
『(やっつけてやるから)まかせろー!』
『(きのえいようにしてやるから)まかせろー!』
精霊たちの返事に、なんとなく不穏な空気を感じつつ、私はウッドフェンスの外に出る。
周辺の木々は背の高い針葉樹がほとんどで、そのせいもあって周囲は暗い。
――広葉樹を植えようかな。
私はタブレットの『ヒロゲルクン』の『植樹』のメニューを見る。
定番の桜、梅、リンゴといった果樹の苗がダーッと並ぶ中、私の目に止まったのは。
「紅葉があった」
獣王国近くにある、北の拠点周辺に植えた紅葉(※1)。これがリストに載っていたのだ。
今はまだ寒くて葉はないけれど、春には明るい緑、秋には赤に変わることを考えたら、こんな薄暗い森でも明るく感じるようになるに違いない。
「よーし。まずは、余計な木を『伐採』しなきゃね」
『おー!』
『おー!』
精霊たちの楽し気な声に、私もやる気がより一層湧いてきたのであった。
※1 書籍掲載時(5巻)に触れていたので。
WEB版でも探すとあるかも(^^;;;
あやふやですみません。





