第888話 エイデンと私、悪い顔になる
戻ってきたのはエイデンだけ。
「ネドリさんとガズゥは?」
馬車のほうに戻ってきた私のほうへ、人の姿になったエイデンが厳しい顔で近寄ってきた。
「うむ。ちょっと面倒そうなのがあってな」
「もしかして、精霊たちの力を奪ってるとかいう人たち?」
「なんだ。精霊たちから聞いたのか」
「うん」
エイデンが渋い顔になりながら、話してくれたことには。
アースドラゴンの巣を探している途中で隠れ里らしき場所を発見したそうだ。それも、アースドラゴンの巣に繋がる洞窟からも、比較的近い場所に。
周囲は深い森だというのに、ポカリと開けた土地があったのだという。そこには、そこそこ栄えていそうな村があったという。
強い魔物が多いという森の奥に、不自然にある村。
しかし、いつ地上に出てきたアースドラゴンに襲われてもおかしくないということもあって、エイデンたちが様子を見に行こうと村に近寄ろうとした時。
「一緒に行っていた土の精霊が悲鳴を上げだしたのだ」
エイデンたちと一緒に行ったのは、村からついてきていた大きめな土の精霊で、その子もアースドラゴンの巣に繋がる洞窟を探す手伝いをしていたそうだ。
その土の精霊が、ある場所で突然叫び出した。
「俺が落ち着けといっても、言葉が届かないほどに精霊が叫ぶのでな、その土地から少し離れたのだ」
徐々に精霊の大きさが変わっていく様を見て、明らかに精霊の力を奪っている何かがあるというのを察したのだという。
このままでは精霊たちが危ういと、ネドリさんたちに村を探るのを任せて、戻ってきたそうだ。
「しかし」
「まさか」
私はエイデンの言葉から、最悪のことを想像してしまった。
――消滅とか言わないよね!?
「こんなになってしまったんだ」
エイデンの手のひらには、小さく薄っすら光る玉。
「すぐに離れたつもりなんだが、間に合わなくてな」
悔しそうなエイデン。
私はエイデンから小さな光の玉を受け取る。
「可哀想に……」
指先でするりと撫でると、プルプルと光の玉が震えだし。
ポンッ!
『ふわ~っ! しぬかとおもったー!』
小さな人型の精霊が現れた。
「は?」
「え?」
私とエイデンはびっくりして固まる。
『いやぁ、まさか、あんなにごういんにぬかれるとか、おもわなかったー』
「……」
ちょっと小さくなった人型の精霊は、ひゃぁ~、とか言いながら、小さな光の玉の精霊たちに囲まれている。
『よく、きみたち、いきのこれてたね?』
『……』
『ああ、とおいとこにいたからか。それでも、かすかにぬかれてたよね』
『……!』
『さいあくだねー』
私たちの目の前で、光の玉の精霊たちと会話を続けている。
「……とりあえず、ここに戻れば、復活する感じかな」
「ああ。さすが五月だな」
「そう、なのかな?」
私は首を傾げつつ、周囲を見回す。
エイデンによって木がなくなった土地は、私たちの馬車とテントしかない。普通なら、放っておけば、そのうち木も生えてくるかもしれないけれど、このまま、精霊たちの力を奪われ続けていたら、この場所は何もない荒れた土地になるだけ。
「ねぇ、エイデン」
「なんだ」
「ここ、私の土地にしちゃってもいいかな」
馬車やテントの周りに集まる光の玉たちを見ていたら、このままでは、精霊たちの力は奪われ続けるような気がしたのだ。
――最悪、本当に消滅してしまうかもしれない。
放っておけない、そう思ったのだ。
「いいんじゃないか。五月なんだから」
ニィと悪そうに笑うエイデンに、私も同じような顔で笑い返した。





