第887話 野営地周辺散策
マーマレードを瓶に詰め終えた私は、今度はオレンジピール作りを始めた。
分厚いオレンジの皮の白い部分をスプーンでかきとって、お湯で煮ては水気をきることを五回繰り返す。茹で上がったオレンジの皮は少し柔らかくなっている。
――これを1時間、水にさらすんだったよね。
その待ち時間に、私は馬車の外に出て周辺の様子を見に出ることにした。
「うわ、寒っ」
コートを羽織って出た私は、馬車の中との寒暖差に少し驚く。料理をしていたせいもあってか、馬車の中はだいぶ暖かかったようだ。
野営地の周りは大きな木々に囲まれている。エイデンによって倒されていた木々もかなり大きかったのを思い出す。持ち帰ったら、ウノハナたちに薪にしてもらおう。
鳥の鳴き声が聞こえる。これが、普通の鳥なのか、魔鳥なのかの判断はできないけど。
空地から少し森の中に入って、薬草探しをする私。
一応、魔物除けをネドリさんたちが置いていってくれているので、あまり離れなければ大丈夫だろう。それに何より。
『サツキ~、あそこにメメナがはえてるぞ!』
『こっちにはロッコナがはえてる!』
「え、ロッコナ!?」
私の周りには精霊たちがたくさんいるのだ。(遠い目)
ちなみに、メメナは中級ポーション、ロッコナは上級ポーションの素材となる薬草だ。前にオババさんに教えてもらったので覚えている。
特にロッコナは、うちの山でも育っているのを見たことがなかったし、オババさんも、ケニーたちのように村の外に行く冒険者たちに見つけたら採ってきて欲しいと頼んでいたくらいだ。
こんな機会はそうそうないので、苗の状態で村に持ち帰りたい。
「これは根っこから掘り起こしたほうがいいかしら」
寒い時季のこともあってか、地面に出ている部分は大きくはない。どのくらい根を張っているのかもわからないので、タブレットの『収納』から取り出した小さなシャベルを手にしゃがみこむ。
『そうだね。じゃあ、だしてあげる』
土の精霊たちが、ロッコナの周りに集まると、ぽこんっと根っこごと抜けた。
「ありがとう!」
私はいそいそと苗を『収納』にしまいこむ。
他にも持ち帰れそうな薬草はないかと思ったけれど、野営地近くでは見つけられなかった。もう少し奥に行ったら違うのかもしれないけれど、精霊たちがいてもそこまでの勇気はない。
『やくそうはないけど、こんなのあったよ~』
風の精霊が、桑の実に似た小さな粒々のオレンジ色の実を見つけて持ってきた。大きさは親指の爪ほど。
「どれどれどれ~」
私はタブレットで『鑑定』してみる。
+++++
▷モコベリー
ビヨルンテ獣王国固有のベリー。
普通のモコベリーは緑色をしていて食用には向かない。
季節外れに実ったオレンジ色の実は希少で、食用可。
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『どう? どう?』
「すごいの見つけてきたね!」
『そうなの? サツキがよろこぶなら、もっととってくるよ?』
「ちょっと待って。まずは、これ、味見してみてもいい?」
『いいよー』
風の精霊だけではなく、様々な精霊たちがワクワクした顔で見つめてくる。
私は水の精霊にサッと実を洗ってもらってから、ポイっと口の中に放り込む。
――!? 何、この甘さっ!
粒々が潰れるとねっとりとした舌触りに変わり、濃厚なベリーの甘い匂いが鼻に抜ける。
エイデンたちが戻ってきたら、食後のデザートにいいかもしれない。
「これって、まだ実ってた?」
『おおくはないけどねー』
『とってこようか~?』
「うん、お願い!」
『まかせて~』
精霊たちがキャッキャと楽し気に飛んで行くのを見送ってると、ふいに空が暗くなる。
何事かと思って見上げると、真っ黒な古龍が野営地に降りたとうとしているところだった。





