第92話 五月のお手製は、ちょっとヤバい
さすがに、きっちり話を聞かせてもらわねば、と、帰りたそうな稲荷さんをつかまえて、ログハウスの中に引きずり込む。
お客さんを迎えられるほどの環境は整ってはいないけれど、今話しておかないと、次に会えるのは休業期間が終わるころ。だいたい1か月くらい先だ。そこまで待てない。
「ちょっと、お茶出しますから」
「おかまいなくー」
入ってすぐ、カウンターに載ったざるの中に入っている卵に気付いて、一瞬ギョッとした顔になる稲荷さん。
(本気で食べる気だったのか!?)
そんな稲荷さんをよそに、カウンターに並べて置いていた大きめの湯呑を取り出す。寿司屋とかにあるアレだ。それを稲荷さんに、私のはキャンプ用のステンレスのマグカップ、そして紙皿にかるく炙った干し芋を載せて、ミニテーブルに置く。
あー、早いところ、大きなテーブルと椅子、欲しいかも。もしくは卓袱台? でも、暖炉に卓袱台ってどうなの?
一応、自分用に作った座布団もどき(ホワイトウルフの毛入り)に座ってもらおうとして差し出したのだけれど、受け取る前に稲荷さんが固まる。
「……なんか、すごいもの作ってますね」
「すいませんね。自作なんで……下手で」
稲荷さんの失礼な言葉に、少し落ち込む私。
確かに、手芸初心者の手縫いなんで、ちょっと雑かもしれないけど。それを言ったら、玄関先の玄関マットもなんだけど。
悔しい気持ちを干し芋に向けて、むしゃりと噛む。美味い。
「いやいやいや……その、下手とか、そういうのではなくですね……これ、ホワイトウルフの毛、使ってますよね」
「……使ってますけど」
「で、その上、望月様のお手製で……とんでもない加護付きの座布団になってるんですけど」
「へ?」
私の目には、ただのお手製の座布団もどき、なんだけれど、稲荷さん曰く、中身がホワイトウルフの毛っていうだけで、魔物避けになっているのはもちろん……癒しの加護がついているというのだ。
その言葉で、私はカウンターに置きっぱなしだったタブレットを手にとり、『鑑定』してみた。私はタブレットの画面を見て、固まる。
『元聖女お手製の座布団:五月専用。魔物除け。癒しの加護(疲労回復速度アップ)』
気付いてなかった。この座布団にそんな効果がついてたなんて。
それに、これにも『元聖女』ってある。慌てて、今度は玄関マットを『鑑定』してみると。
『元聖女お手製の玄関マット:五月のログハウス専用。結界機能付き』
これにも、なんか機能がついてる!?
「こ、これって、この世界では普通にあることなんですか?」
「……ないですなぁ」
「それに、この『元聖女』ってなんなんです?」
「あ」
「さっき、ハムを切ったのを鑑定したら、それにも『元聖女』ってあって」
「あちゃ~」
見るからに、やらかした感のある顔で、頭をかく稲荷さん。
「いやはや、失敗しましたわ。まぁ、そのタブレットに『鑑定』アプリいれたら、色々鑑定してみたくなりますよねぇ……それに、かなりバージョンアップしてますよね? それ。そうじゃなきゃ、『元聖女』まで出てくるはずないんですけど」
……すみません。全然興味ありませんでした。
今まで無関心すぎた自分に、顔がひきつってしまった。





