第882話 情けないギルマス
ただいま冒険者ギルドの小さな応接室の中。
この村の多くが小柄な狸獣人ばかりなせいか、単に出張所扱いなせいなのか、ここのギルドの建物はケセラノに比べてもこじんまりしていた。
大柄なエイデンとネドリさん、ガズゥの三人がいるだけで、圧迫感が半端ない。目の前でプルプル震えている初老のモグラ獣人のギルマスが、憐れに見える。自業自得ではあるんだけど。
「(……ひーん、な、なんで、異動まもないのに、こんな怖い人たちの相手しなきゃいけないんだよぉ)」
「なんか言ったか」
ぶつぶつ言ってるギルマスさんに、エイデンが低い声で問いかける。
「ひぃっ!? い、いえ、な、なんでもありませんっ」
目に涙をためているギルマスに、ネドリさんが大きなため息をつく。
「これでは、私たちが苛めているようですね」
「そ、そんなことは……(あるけど)」
「あ?」
「ひぃっ!」
エイデンのひとにらみで、ぎゅうっと身体を縮こませるギルマスの様子に、思わず「ぷっ」と吹き出してしまった。
「サツキ様」
「あは、いや、ごめん。でも、さっさと話を進めたほうがいいんじゃない?」
「むぅ」
「エイデン」
「ふん」
「(はうっ! 天の助け!)」
ギルマスは目を潤ませながら私を見つめてきたけれど、おじさんに見られてもな、とスッと視線をはずす私。
狸獣人たち同様、小柄で丸々としているギルマスは、ノフさんというらしい。一カ月ほど前に、前任のギルマスが高齢で引退することになって、王都近くの町から異動になってきたそうだ。
元々は、その町の冒険者ギルドの事務方を長年やってきた人で、そろそろ実家のある村に戻りたいと、異動願いを出していたらしい。
しかし、ようやく許可が出たと思ったら、自分の村ではなく、もっと奥にあった狸獣人の村で、それもなぜかギルマスとしての異動になっていたという。
「若い頃は、確かにCランクまでにはなってましたけどね。それだって、もう、うん十年も昔なんですよ。それなのに、ギルマスとか、おかしいですよね?」
自己紹介が始まってからは、延々と愚痴が続いてる。
さっきまで、エイデンたちの威圧感に涙ぐんでいたのに、今では私に向かって話し続けている。
でも、確かにノフさんの言いたいこともわからないではない。
私の持っているギルマスのイメージは、大きな身体でムキムキな、何かあったら俺が潰す、くらい言いそうな迫力ある人だったけど、目の前のノフさんは……正直、私と相撲とっても負けそう。
しかし、自分だけ地下に潜るのはいかんと思う。
「ノフ、お前の愚痴は、まだ終わらないのか」
さすがのエイデンも呆れてるし、ガズゥは……寝てた。
「はう、す、すみません」
「で、ケセラノから連絡は来てたんだろうな」
「あ、はい。貼りだしてはありますが、村の冒険者と言っても一番高いランクでもCランク、そいつらは今護衛仕事で王都のほうに行ってしまっていて……残ってるのはDやEしかおりませんで……」
八の字眉のノフさん。
「やっぱり、来てよかったな」
「まぁ、予想はしてはいましたが」
エイデンとネドリさんの呆れた声に、よりいっそう身体を縮こませるノフさんであった。





